第4話 この世界の仕組み

 運命というのは些細なことで決まってしまうものだ。


 道に捨てられた空き缶を、次の日同じ道を歩く誰かが踏んで転んでしまうかもしれない。偶然その時に車が通れば、轢かれて死んでしまうこともあるかもしれない。もし、その被害者が将来大きな事業を成したり、たくさんの人を救うような人であれば、世の中には見た目以上の大きな損害だろう。

 

「それは逆のことも言える」


 賢太郎は腕を組み、まっすぐ良平に顔を向けて口を開く。


「つまり、その日、その時、空き缶を捨てる人がいなくなれば、世の中の多くの人が救われるということだ」


 だから殺す。


 部屋にいた7人のうちのひとり、20代後半くらいのビジネスマン風の男が静かにそう言った。


 ヒーローは国営だ。独立行政法人“超能力管理機構”、通称“PsyMAサイマ”(psychic management agency)によって運営されている。PsyMAは悪魔の発生を検知すると超能力者であるヒーローを派遣し、悪魔を討伐する。−というのが一般的に知られている内容である。しかし、悪魔を見たことがある人はいないし、ヒーローの活躍もテレビで聞く程度だ。


 それでも文句を言う人や不信に思う人はほとんどいない。なぜならヒーローの出現後、現実に生活は豊かになっているし、大きな災害も減っている。


「そのヒーローが殺しているのは、悪魔じゃなくて人間だって?」


 良平は信じられない、という表情で賢太郎を見る。


「信じられないのは仕方がない。ヒーローと悪魔は学校でも習う話だからな。」


「ひとりの人間を殺すだけで社会が豊かになるっていうのか。災害が起きなくなるっていうのか。そんなはずないだろう。それに、なんで殺す必要がある?空き缶を捨てることがきっかけなら、それを防げばいい。何も殺す必要ないじゃないか」


 7人は表情を変えずに話を聞いている。理解されないのはいつものことなのだろう。


「さあな、それは俺たちにはわからない。しかし、PsyMAと国は殺す必要があると確信している。そして、ヒーローは人を殺していて、現実に日本は豊かになっている。これは事実だ」


 「そして」と賢太郎は続ける。


「俺たちは国に悪魔と認定され、ヒーローに命を狙われている」


 良平は言葉がでない。疲労もあり、頭も働かない。じっと床を見つめる良平に、大学生ほどの女性が話かける。


「良平くん、君は悪魔認定されたわけじゃないんだよね」


 そういえばそうだ。と良平は思った。さっきまで命を狙われていた恐怖感と、知らない場所に来て、突然意味のわからない話をされて、混乱していた。


「はい、そうです。勇輝が、友達がナイフで刺されて、それを見たら、襲われたんだ」


「それは辛かったね」


 女性は良平の隣に座る。


「私は井上祥子。私もね、お父さんが悪魔認定されて狙われちゃって。2人で逃げてきたの」


 良平は、祥子と名乗った女性の目を見る。


「ここにはある程度生活できるだけの設備があるから、しばらくゆっくりしていきなよ。今日は疲れたでしょ。奥に部屋があるから、休んで来たら?」


 良平はゆっくりと頷いた。

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我らがヒーロー 右城歩 @ushiroaruki

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