《2》意外と気が合いそうな二人

 十分ワタサブローとの(感動の)再会に浸ったところでノイエスが言った。


「さあ! ワタサブローも無事に戻ってきたしお仕事しなくちゃ!」


 ワタサブローを頭に乗せて意気込むノイエスに、リルは周囲を見回しながら問いかける。


「そういえば、定期点検に来たって言ってたけど他の人は?」

「他の人? 僕一人だよ」

「え、ええ!? 一人でやってるの?」


 リルは目を瞠ってノイエスを見た。結界柱の社は四ヶ所もあるのにたった一人で回るらしい。


「いつもはせんせーも一緒だけど、今日は別の仕事が入っててー」

「え、ノイエスのいる技術研究・開発部って、二人だけじゃないわよね?」

「うん」

「他の人は手伝わないの? そんなに簡単なの……?」

「他の人はうまくできないから任せられないってせんせーが言ってた。そんなに難しくないと思うんだけどねー」


 不思議そうにノイエスは首を傾げた。


(ノイエスは見かけによらず頭すごくいいもんな……)


 そんなノイエスを見ながらリルは心の中で思うのだった。

 難しくないというのはノイエスにとって、という意味のようだ。リルなんかがやったら頭から煙が出て結界柱壊してしまうかもしれない。いや、絶対に壊す。


「補助用か代替用の点検に来たのか?」


 リュウキがノイエスに向かってたずねた。結界柱の点検と聞いて彼の話に興味を持ったようだ。


「どっちもだよー」

「一人で両方? そりゃまた時間かかりそうね……。結界柱の技術が解明されてたら一個で済むのにね」


 結界柱の原理は今のところ解明できていないというラナイの話をリルは思い出しつつそう言った。


「結界柱についてもちょっとはわかってきたんだけどねー。最近結界の力がソリヤス方式のウィンシュ相関に当てはまることが分かってーそうなると階層的にログラ変換すると対称性ラカイになるはずなんだけど、なぜか多重ソリヤス構造なんだよね。どこか間違ってるのかなぁ」

「……え、なに?」


 ぺらぺらとノイエスは喋るがリルは訳の分からない単語だらけでぽかんとした。その横で聞いていたリュウキは少し考えると口を開く。


「ウィンシュ相関ということは、交換相互作用が働いているということだな。ログラじゃなくてケテク変換してみたか?」

「もちろんやってみたよ! でも今度はジャーエ分極しちゃったんだ! もう訳わからなくて……」


 うーんと唸ってノイエスは頭を抱えた。リルの方がすでに訳わからないが。そんな彼女を他所に思案顔のリュウキが続ける。


「分極か。どこかで反デルタムが働いているな……そうなると、ロンカトンク相転移している可能性がある。この相転移が関係しているとすれば多重ソリヤス構造になるのも説明がつく」

「反デルタム!? 思いつかなかった!」


 ノイエスは興奮して飛び跳ねんばかりの様子で言った。

 それからリュウキとノイエスはしばらく二人でリルには理解不能な専門用語を織り交ぜながら話していく。

 頭上にはてなマークをたくさん並べてすっかり置いてきぼりのリルだったが、このままだと結界柱の定期点検という本来の目的を(リュウキはともかくノイエスが)忘れてしまいそうなのでそろそろ言ってあげることにした。


「あー……ねえ、定期点検はいいの?」

「ああ!! 忘れるところだった!!!」

(やっぱり……)


 ふうとリルは目を半眼にした。研究や技術のことになるとノイエスは熱くなりすぎるのだ。


「でもちょっとまだ……あ」


 辺りに視線を向けたノイエスは何かに気づいたような声を上げる。二人が彼の見ている方に顔を向けると、丸く白いものが飛んできていた。


「ナナスケーおかえり。どうだった?」


 まだワタ坊兄弟はいたらしい。


「たっだいま!! ノイちゃんの予想通りだったよ!!」

「んーそっかー」


 肩に乗ったナナスケの報告を聞いてノイエスは一瞬真面目な表情を浮かべた。


「……? どうかしたの?」

「あ、ううん」


 リルは怪訝そうにノイエスを見るが、彼は首を振っただけだった。


(……?)


 ノイエスのその反応にリルは瞬きして眉をひそめる。

 流石に何かありそうな気がしてリルが再び口を開きかけるが、ノイエスの方が早かった。


「そういえば、リルさっき入れるなら入ってみたいとか言ってたけど、一緒に来る?」

「え、でも点検中で一般人は立ち入り禁止でしょ?」

「僕の助手って言えば入れるよ。ワタサブロー届けてくれたお礼にー」

「そ、そう? 入れるなら入ってみてみたい……けど……」


 リルはちらりとリュウキを見る。二人はお留守番とはいえ、任務中だ。


「……そいつのお礼としてなら行って来いよ。俺は外で待ってる」


 リュウキは反対しなかった。このまますぐ神殿に戻るのも、ジェスナとのことがあるので気が進まなかったりする。


(そういえば、メルファさんがなんで昏睡状態になったのか、その辺の話を聞くのを忘れてたな……)


 やはり戻ろうか。だが思わず出てきてしまったのでそれはちょっと気まずい。しかし……。

 口ではそう言ったものの、心の中でどうするかリュウキが決めかねていると、


「りゅーくんも一緒にいこうよ。外で待ってるなんて暇でしょ!」


 ノイエスは徐にリュウキの腕を掴んで歩き出した。


「!? おい、引っ張るな」

「ふっふー」

「ノイエスに気に入られたみたいねー」


 いきなり掴まれてよろけながら歩くリュウキと上機嫌な様子のノイエスを見てリルは楽しそうに笑う。


「というかその呼び方止めろ……」

「え? でもりゅーくんはりゅーくんだし」


 げんなりとしているリュウキを気にした風もなくノイエスは真顔で言った。


「かわいいあだ名がついてよかったじゃない」


 にやにやしながら揶揄うリルをリュウキはじろりと睨む。そこでノイエスが思いついたように顔を上げた。


「じゃあ、きーくんって呼ぼうか??」

「………………」


 リュウキはもう口を出すのはやめることにした。



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 ノイエスとリュウキがなんか難しいことを言ってますが、文系の作者が物凄く適当に作った理論?です。なんか可笑しかったらすみません……。



<番外編>


リル:あんな難しいこといったいどこで習ったのよ?普通学校でも出てこないと思うんだけど

リュウキ:少し前に読んだ本に載ってただけだ

リル:……読んだだけ?誰かに教わったとかじゃなく?

リュウキ:そうだな。ああいう専門的なこと知ってる奴なんて近くにいなかったから教わるも何もなかったぞ

リル:あ、そう……(リュウキもノイエスとはまた別の意味で頭いいってことか)。ところで、読んだってこの任務の前?

リュウキ:いや。ゼルロイで遺跡関連の本を買った時についでに買ったものだな

リル:え、あの数冊の本以外にもまだ読んでたの?そんな暇あった?

リュウキ:あるだろ。寝る前、食事の後、風呂の待ち時間とか。朝も皆が集まる前に読んだしな

リル:な、なるほど(つまり暇さえあれば本読んでたわけね。意外と本好きなのかな……)

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