第3話 結界柱の社

《1》感動の再会?

 神殿から出てきたリルとリュウキは、ワタサブローをノイエスに届けるため街中を歩いていた。

 はじめは飛んで先導しようとしたワタサブローだったが、野鳥や悪ガキはリルたちがいるからともかく、ちょっと風が吹くとどこかへと飛ばされてしまうので結局リルの鞄に収まっている。


「そこを左デス」

「左ね」


 ワタサブローの案内を聞きながら二人は街の中心部からやや外れた森の前までやって来た。

 右手の方に森の中に続く道があり、そこをしばらく歩くと淡い水色の壁に白い装飾が施された小さな建物が見えてくる。

 海底神殿と似た雰囲気が漂うその奥には、大きな光の柱が海の色を反射させながら天に向かって伸びていた。


「あれは?」


 少し前から視界に入っていて気になっていたリルはたずねる。


「この街の結界の要になっている霊気だ。スレイシェの地下はちょうど霊脈が走っていて、その力を利用してる」

「あ、じゃあここが結界張ってる場所なのね」


 図らずも行ってみたい場所の一つに来ていたらしい。


「正確にはそのうちの一つだけどな。あの建物は結界柱のやしろだ。他に三ヶ所ある」


 珍しそうに眺めるリルにリュウキはそう補足説明した。


「んで、ノイエスはどこに……」

「あれじゃないか?」


 あたりを見回し始めたリルに、彼女とは別方向を見たリュウキが指差し声をかける。

 そこには、社の入り口で門番兵らしき二人となにやら言い合っているノイエスの姿があった。


「なにするんだよー入れてよー」

「困ります。今は一般の人は立ち入り禁止です」


 傍から見るとノイエスが無理矢理中に入ろうとしているように見える。

 リルとリュウキは何事かと顔を見合わせると、ノイエスのところに駆け寄った。


「ちょっと、ノイエスなにやってるのよ」

「あれえ、リルに仲間のりゅーくん?」


 意外そうにノイエスはリルとその後ろのリュウキを見る。ノイエスの言葉にリュウキは何やら突っ込みたそうにしたが我慢したようだ。

 門番兵たちは困りきった様子で言った。


「ああ、もう、だからダメなんだよ兄ちゃん。今は定期点検中だからな」

「お引き取り下さい」

「あのね僕は――」

「入れないんじゃ仕方ないでしょ! ほら、行くわよ!」

「え、ちょっとちょっと――」

「お騒がせしましたー」


 ノイエスの腕を掴みぺこぺこと頭を下げてリルたちはその場から離れた。そして門番兵たちが見えなくなったあたりでリルはノイエスの腕を放して向き直る。


「もう、何やってるのよ。入れないって言ってるんだから入れるわけないでしょ? 他にもあるんだからそっち行ってみればいいじゃない」

「定期点検の時は全部立ち入りできなくなるんだよ。それに僕は入れるんだよー」


 立ち入りできないと言われているのにノイエスはなぜか自分は入れると主張している。リルは首を捻ってノイエスを見た。


「なんでノイエスは入れるのよ。特別招待でもされてるの? そんなのあるなら私だって入りたいけど」

「特別招待されてるわけじゃないけど。その点検するの僕だからだよぉ」

「え、あ、そうだったの!?」


 リルは思ってもみなかったので驚いた。そういえばノイエスは聖域騎士団では技術研究・開発部に所属していることを思い出したリルである。


「そもそも定期点検中に特別招待だろうが貸し切りだろうが普通しないだろ……」


 その隣でリュウキがさりげなく突っ込む。リルはむっとリュウキを睨んだ。


「た、例えよ例え! そんなことわかってるわよ!」

「ああ、そうだったか」

「言葉と表情が一致してないけど!?」


 微塵も納得してないという顔をしているリュウキである。そんな二人をノイエスはぱちくりと瞬きして見ていた。


「二人は仲いいんだねー」

「「そんなことない」」


 見事に声が重なったリルとリュウキである。


「~~~ああーもう、こんなこと見せに来たわけじゃないのよ」


 なんかリュウキと声がはもったことは以前もあったなとか思いつつリルは鞄に手を突っ込んだ。


「ほら、ノイエス、お届け物よ!」

「?? あああ、ワタサブローだぁ!」


 リルの手に乗っかったワタサブローを見てノイエスは声を上げる。


「マスター!!」

「ワタサブロー!!」


 感動の再会だと言わんばかりに一人と一体はひしっと抱きしめ(?)あった。彼らの周囲だけが変に輝いているように見えるのは気のせいだろうか。


「どこ行ってたんだよーもう戻ってこないかと思ったよー」

「ワタシももうマスターに会えないと覚悟してまシタ」

「…………」

「…………」


 なんか二人だけの世界を形作っているので突っ込む気にもならず、リルとリュウキはただ眺めるだけだった。


「ほらみんなーサブローが戻ってきたよ!」


 ノイエスが嬉しそうに呼びかけると、彼の髪やら袖口やら鞄からわらわらと白い物体が出てきた。


「さぶろう! よかったー><」

「……無事だったか」

「兄様にまた会えて嬉しいです……」

「心配とかしてなかったからな!」

「…………(ぐすっ)」


 見た目は全部同じ形と色なのに喋り方が全く異なっている(一体は喋ってないが)。全部ワタサブローの兄弟(?)で、まとめてワタ坊兄弟と呼んでいるらしい。


「ありがとうリル! リルはワタサブローの命の恩人だね!」

「このご恩は一生忘れまセン」

「い、いや、そんなに大したことじゃないけど」


 ノイエスとワタサブローから大袈裟に感謝されてリルはやや面喰いつつ首を振る。

 そういえば、とリルは続けて言った。


「ワタサブローはうまく飛べないみたいだから後で見てあげてね」

「そうだったの!? わかったー」


 ノイエスは両手に乗せたワタサブローを見ながら頷いた。ちなみに先程のノイエスとの再会の時だけはなぜかちゃんと飛べていたワタサブローである。


「……ノイエス、その子たちに色とか飾りとかつけてみたら?」

「へ?」


 リルたちに最初助けを求めてきたワタロウは喋り方ですぐにわかったが、六体はふよふよ動き回るのですぐにどれかわからなくなったリルである。

 傍目から見ても全部白いので喋らない限り区別しにくい。リュウキも隣で眉をひそめているのでたぶん同じだ。


「いや、見分けにくそうだなと思って」

「え? 全然違うよぉ。艶や毛並とかー」

「……あ、そう……」

「…………」


 ノイエスには区別がつくらしいとわかってリルは閉口した。さすがにリュウキも何も言う気が起きなかったようである。

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