《4》女魔族再び現る

 礼拝堂に面した通りは街の中心部ということもあり行き交う人が多い。リュウキの姿を探していたラナイは、その人々の中に金髪の聖騎士が歩いているのを見つけた。


「あ、リルさん」

「ラナイじゃない」

 

 ちょうど礼拝堂の前を通り過ぎようとしていたリルは声を掛けられて振り返った。

 

「どこかに向かっているんですか?」

「ううん、適当に散歩中ー」


 リュウキとパルシカが知り合いだったのは驚いたが、二人の話を盗み聞きするほどリルも野暮ではなかった。

 ローラのところに行ってもよかったが、彼女も任務中なのであまり邪魔するのも悪い。

 というわけでリルはぶらぶらと街を歩いていたのだった。


「私はここで剣を修理に出したリュウキと落ち合うことになっているんですが……」


 そう言いながらラナイは辺りを見回す。


「まだ来てないですね」

「ああ、リュウキなら向こうの鍛冶屋にいるわよ。そこの職人の人と知り合いだったみたいで、その二人でまだ話し込んでるんじゃないかな」

「あら、そうなんですか」

「私の知り合いでもあったから驚いたけど」

「それは偶然ですね」

 

 ラナイは瞬きしてリルを見た。


「世間は意外と狭いね。まあともかく、修理も急ぎでやってもらうとしても時間かかるだろうし、三十分は暇かな」


 それまでどう時間をつぶすかリルが考えていると、


「それならちょっと付き合ってもらえないか?」

「どわあああ!?」


 いきなりそんな声が背後からしたのでリルは驚く。このセリフだけだとナンパに聞こえるが女性の声だ。というか……


「あら、キサラさん」


 聞き覚えのある声だと思ったらいつぞやの魔族だ。

 キサラが突然現れたことにリルが仰天する一方、ラナイは落ち着いた様子である。


「また会えてよかったです。ソーラス遺跡ではありがとうございました」

「いや、礼には及ばないから気にしなくていい」


 ラナイが嬉しそうに感謝を伝えると、キサラは相変わらず淡々とした口調で返した。その横でまだ驚いた顔のリルが声を上げる。


「いつの間にいたのよ!? というか今ここ聖域騎士団がいるのに何で普通にいるのよ!?」

「別にこっちが何もしなければあっちも何もしないだろう?」

「まあそうだけど……礼拝堂の近くにいるのも意外……」


 礼拝堂には結界を張るための聖石が安置されている。もちろんこれは聖気でできているものだ。


「魔気は抑えている。それに礼拝堂の近くだと聖気に紛れることができるから感知されにくい」

「………………」


 なんかすごい落とし穴を聞いた気がするが気のせいではあるまい。


「私たちでお役に立てるなら喜んで。ソーラス遺跡ではいろいろ助けてもらいましたし」


 ラナイはそう言って微笑む。リュウキがいれば止めそうだが今はいない。


「まあ、三十分で終わるなら……」


 リルもソーラス遺跡の件で抵抗はなかった。


「二十分くらいで終わる」

「あ、まさかとは思うけど、危ない場所じゃないよね?」


 聖女様を変な場所に連れていくわけにはいかないので一応確認する。


「こちらのいうことを守ってもらえれば安全だ」

「………………」


 なんか変な意味にもとれるが、キサラの性格上そういう意味ではないだろう。たぶん。


「というか、付き合うのはどっち? どっちも?」


 リルは自分を指さしながら隣のラナイと交互に見る。


「ラナイの方だが」


 キサラはラナイに視線を向けた。


「え、私も一緒に行ってもいい?」


 さすがにラナイ一人で行かせるわけにはいかない。


「構わない。言うことを守ってもらえれば」

「わかった」

「では出発していいか?」

「え、ちょっと待って、何か伝言残しておかないと……」


 リルは慌ててそう言った。入れ違いにリュウキが来たら心配するだろう。

 オウルでもいないかと周囲を見回したが、生憎近くにはいないようだ。


「ええい、『聖獣召喚ラデーニ』!」


 リルは近くの木陰でヴァレルを喚ぶ。


「ヴァレル、悪いけどここにリュウキかオウル来たら伝言お願い!」

『は? 聖獣を伝言メモ代わりにする気?』

「ラナイ、キサラと一緒にちょっと出かけてくる。二十分くらいで戻る。よろしくー!」

『ちょっと、話聞いてるの!? こんな人の多い場所で……こら――――!!!』


 リルは憤慨しているヴァレルをそこに放置して急いでラナイたちのところに戻る。


「お待たせ」

「では出発する」


 後ろの茂みでヴァレルが何やら喚いているが、リルもキサラも気にしていない。ラナイは気になったが、二人に気にした様子はないので何も言えなかった。

 行き先を聞いてなかったことに思い至ったリルがたずねる。


「ところで、どこにいくの?」

『ちょっと! 待ちなさいよ!』


 ヴァレルもリルを追いかけて茂みから出ようとすると、


『きゃっ!?』


 突風が吹いてヴァレルは一瞬目を瞑った。


『ん……何、風? ……ってあら?』


 目を開けたところには、リルたちの姿は既にどこにもなかった。

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