第4話 再会と緋色の剣
《1》二つの再会
イルミナたちの村を後にした四人は、ラナイの探知を頼りに日が暮れてからも進んでいた。
ちなみにキサラは遺跡を出たあたりでまたいつの間にかいなくなっていた。
「ちゃんとお礼も言っていなかったのに……」
残念そうな表情を浮かべるラナイの肩をリルはぽんっと軽く叩く。
「まあまあ。またひょっこりどこからか出てくるかもよ」
ラナイに励ますように言った後、リルはそういえば、と後ろを振り返る。
「リュウキ、剣はどうするの? 新しいの買う?」
先の戦闘中になにやらひびが入っていたのを思い出したのだ。
「いや、修理する」
「ま、そうよね。刻印式の武器って高いもんねー」
術式を兼ねた特殊な刻印は手間も時間もかかるため、普通の剣よりも値段は自然に高くなるのだ。
「ひびが入るなんて聖気が足りなくて無茶したんじゃないの? 私が来るのを待っておけばよかったのに」
神人の使う武器の方が自身の聖気を込められるため、個人差はあるが聖気量は多くなることが多い。
「そうだな。そしたらお前の剣の方が折れてたかもしれないが」
「ちょ、ひど!?」
憤慨するリルにリュウキはそっぽを向く。しかし、リルはあることに気付き瞳をしばたたかせた。
(……なんか出会った頃より態度が軟化してる……?)
最初など、協調性ゼロの雰囲気が漂っていたのだが、今は頭ごなしに否定しなかった。
こちらを拒絶するような、どこか近寄り難い空気もやや薄れてきているようだ。
でも相変わらず口は悪い。これについてはリュウキの素の性格なのだろうとリルは思った。
「リュウキ君の剣は天導協会から支給されたものだね」
オウルが鞘の上部に彫られた紋章を見て言う。
対してリュウキは一瞬びくりとしてから、思いっきり不機嫌な顔で後ろのオウルを振り返った。またもや気配もなく近づかれていたのである。
「あ、本当だ」
同じくリュウキの背中の鞘を覗き込みながらリルが頷く。
「なら鍛冶屋じゃなくて天導協会の支部に行った方がいいかな」
「この方向だと確かゼルロイという街にあったはずだよ。そこで修理できないか聞いてみたらどうかな?」
「……ちょっと遠くない? ここからだと着くのはもう夜中になるわよ?」
オウルの提案にリルは現在地からの距離を軽く思い浮かべてそう言う。
「そうだね。天導協会も緊急の要件じゃない限り夜は受け付けないし。無理せず今日は適当なところで休んで、明日の朝一番でゼルロイに行こうか」
街道沿いの小さな宿場町で一夜を明かした一行は、翌日山の麓にある大きな街ゼルロイに立ち寄った。
まだ朝なのであまり人がいないかと思いきや、街に入ると予想外に人が多い。
そのほとんどは人間ではなく神人で、白地に青い縁のある服を着ている。
「あれ、聖域騎士団だわ。近くに<虚獣>でも出たのかな」
「…………」
リュウキは一応気配を探ってみるが、近くには居ないようだった。
ちなみにリルとオウルもこの聖域騎士団に所属している。
「あ、ローラ? ローラ!」
騎士団の中に見知った顔を見つけたリルはそっちに駆けていく。
どうせ修理には時間かかるのでリュウキは特に何も言わずさっさと支部に向かった。
一方、名を呼ばれた女騎士は振り返った。リルと同じ歳くらいの若草色の髪に黄緑の瞳の神人である。
「あ、リルじゃない。リルも呼ばれてたの?」
「ううん、別の任務中に立ち寄ったんだけど。ローラは<虚獣>討伐?」
リルの言葉にローラは頷いた。
リルとローラはアカデミー時代の同期だ。そのころから仲が良く、聖騎士になってからも交流が続いていた。
「そうよ。ほぼ討伐完了してるんだけど、まだ数体残ってて捜索中。それがちょっと変わってて……」
「変わってる? 角持ちとかじゃなくて?」
「ええ、なんでも喋ったらしいわ」
リルは目を見開き瞬きした。
「喋るって……意思の疎通ができるってこと?」
「さあ……そこまではわからないけど……」
平和的に話し合いとかできるのだろうか。そんな感じで二人が話していると背後に人が立った。
「こら、ローライナ。そのことは部外者に話すんじゃない」
「ひえ、すすすみません!」
ローラの上官だ。彼女は驚いて縮こまる。
「ん、お前は……」
上官はローラと一緒に縮こまっているリルを見る。
「下級聖騎士、リルクシアです。現在任務中でこの街に立ち寄りました」
一応部外者ではないことを説明してみるリルである。討伐隊じゃないが。
「リルクシア? 祭器追跡隊のか」
「は、はい」
やはり討伐隊じゃないから怒られるのかと思うリルだが。
「この周辺に変わった<虚獣>が出現している。そちらも注意するように」
「(え?)はい」
それだけ言うと上官は立ち去った。それを見送って二人は息を吐く。
「ふう……」
「びっくりした……」
「あ、そういえば」
ローラが思い出したように言った。
「ここの天導協会支部の直営の武具屋行ってみた?」
「え、行ってないけど」
というか到着したばかりである。
「時間があるなら寄ってみるといいわよ。リルもよく知ってる人がいるから」
一方リュウキは天導協会の支部で直営の武具屋があると聞いてそこに向かっていた。 ラナイは併設されている礼拝堂へ、オウルは何やら支部の人に呼び止められていた。
支部から少し歩いたところに天導協会の紋章を掲げた武具屋を見つける。
鋲を打った木製の扉を開けようとすると、中から街の入り口付近で分かれたはずの声が聞こえてきた。
「へぇーそうだったんだ。まさかこんなところで会うとは思ってなかった!」
何やら楽しそうなリルの声だ。また知り合いでもいたのかと思いつつリュウキは店の中へ足を踏み入れた。手前が剣や盾といった装備を壁や棚に並べた武具屋で、奥は石造りの壁に囲まれた火床のある鍛冶工房となっている。
「あ、きたきた。この人が剣の修理を頼みたい人で……」
リュウキに気付いたリルが話していた相手にそう言った。
カウンターを挟んだ向こうに黒茶色の髪を後ろで束ねた年配の女性が座っている。事務員というよりは鍛冶職人のようだ。
「ふーん。あんたがリルの今の任務仲間……」
その女性はリュウキの姿を見て言葉を途切らせる。そしてリュウキの方も彼女を見てその場で立ち止まった。
「……リュウキ?」
ぽつりと女性が呟く。
「リュウキだね!? その無愛想な面は!!」
驚きのあまりすぐに声に出せなかったようだが、確信すると女性は椅子を跳ねのけるような勢いで立ち上がった。
「……パルシカ……」
リュウキも予想していなかった事態に動揺しているらしい。女性の名を零すように言った。
「え、あれ、知り合いなの?」
リルにとっても全くの予想外の展開だ。目を丸くして二人を見た。
「リュウキ! 三年も連絡寄越さずに何してたんだい!?」
「…………」
リュウキはだんまりとしている。
「…………」
「…………」
「……あーもう、何か言いたいことが山ほどあったはずだけど、顔見たらどうでもよくなったわ」
喜びと怒りと安堵が入り混じった声で言い、鍛冶職人の女性――パルシカはその場に脱力した。
しかしすぐに思い直したらしく、間をおかずに顔を上げると茶色の目で睨むようにリュウキを見る。
「リュウキ、ちょっと裏に来な」
「……わかった」
もはや逃げるつもりもないリュウキは頷いた。
「リル、ちょっと仲間借りるよ」
「あ、うん、積もる話もあるだろうしごゆっくり」
パルシカの言葉にそう返し、リルは武具屋の奥にある工房の裏口に二人が向かう姿を見送った。
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