第9話 突如始まる一人クイズ大会
現在実装されているMAPの一番北にある村、それがここルイス村だ。
ミスターKの話によれば、ここにクイズを出すNPCがいるらしい。
お手伝いとは違うので無視してもよかったのだが、単なる好奇心と、こっちの方面には来たことがなかったので、探索を兼ねてである。
「あの、あなたがクイズを出す人ですか?」
「いいえ、違いますよ。あ、ちょっと困っていることがあるんですが、手伝ってもらえませんか?」
「あ、はい」
といった感じで、この村の人達は困っている人が多く、来てから1時間程経っているのだが、未だクイズを出してくれるNPCに会うことは出来ていなかった。
一人、また一人とお手伝いクエストをこなしていき、かれこれ5時間は経過したであろうところで、私は一息ついた。
そして、思考が固まった。
「どこにもいないじゃん!」
思わず大声で叫んだ。
ここは訪れるプレイヤーはほとんどいないため、幸いというか、誰もこちらを不思議そうな目で見ることはなかった。
うーん、これはもしかして騙されたのだろうか?
本当かどうか裏も取れない情報に、安易に飛び付いたのが悪かったのかもしれない。いくら情報が欲しかったとはいえ、もう少し冷静になるべきだったか……。
そんなことを思いながらボーっとしていると、一人の小さな男の子が近付いてきた。
よくRPGで見かける、町の中を元気に走り回っていた子供だ。
「お姉さん、お姉さん」
NPCとしては珍しく、相手の方から話しかけてきた。
ただ、今の私にはそれに反応する心の余裕はない。
「パンはパンでも食べられないパンってなーんだっ?」
子供らしい単純ななぞなぞを出してくる少年NPC。
答える気もなくしばらく黙っていたのだが、質問を口にした後のNPCは基本的にプレイヤーの返答がないと動かない。
「はぁー。フライパン」
ため息をついてから振り返りもせずに返答すると、
「正解! 次の問題いくよ」
どうやら正解すると勝手に次に進むらしい。
わざと間違えようかと思ったが、子供用なぞなぞで不正解もいやなので、しばらく子供の出す問題に答えていく。
そして丁度10問目に答えたところで、台詞は変わった。
「正解! お姉さんはクイズ大会への参加資格を得たよ、挑戦する?」
嬉しそうに言う少年。これでどこかに……
「えっ、今何てっ!?」
「クイズの大会に参加する?」
思わず声を上げて少年の方に振り返る。
少年は私の問いに答え、丁寧にもう一度質問を口にしてくれる。
こ、こんなところにクエストのトリガーが隠れていたなんて……。
次からはどんなNPCでも話かけるようにしないと。
「挑戦する!」
「おっけー。専用部屋に移動するよ!」
少年がそう言うと同時に周囲の風景が一瞬歪み、それが戻るとそこはすでに別の空間になっていた。
それはなんというか、クイズ番組とかで見るあの光景である。
少年は目の前の司会席に、私は回答席に立っていた。
クイズ大会とは言いつつも、回答者は私一人しかいない。
「じゃあルールを説明するよ」
と、クイズのルール説明を始める少年だが、事前に情報をネットで調べているため、中身は全て知っている。
簡潔にまとめると以下のような感じだ。
・挑戦は1度のみ。
・間違えたところで終了。
・正解数に応じた報酬が貰える。
・問題は全部で100問。
ちなみに、既に答えはネット上の攻略サイトに全て載っている。ただし、最後の1問を除いては。
最後の1問はかなり難しいらしく、未だに解けた者はいないという。
どんな問題かも、せっかくなので挑戦して確認して欲しいと書かれているだけで、何の情報もなかった。もっと探せばどこかにあったのかもしれないが、99問の答えを記憶するので精一杯で、そんな余裕はない。多くの人が分からなかったのだ、どうせ見ても分からないで終わるだろう。
「じゃあ始めるよ!」
少年がそう言うと同時に、目の前の空間に問題が浮かび上がる。
『第一問:このゲームのタイトルは?
1:〇ナと雪の女王・オンライン 2:アナザー・ワールド・オンライン 3:穴・ザワールド・オンライン』
…………ふざけてる?
正解の答えは知っていたが、他の答えは初めて見た。
「2番」
「正解!」
某クイズ番組のように溜めはなく、答えを言うと少年の声がすぐに返ってきた。
精神にやさしい配慮だが、外れた場合バッサリ切れた感じになりそうだ。
そんなおふざけみたいな問題が延々と続き、あっという間に90問目にたどり着く。ここまでの問題は全て選択問題で、ほぼサービス問題かと思うようなものばかりだった。
もしかしたら、このクエストはアイテムをプレゼントする目的なのだろうか?
ふと、そんなことを考えていたが、少年の声がそれを遮る。
「第九十問:現在実装されている村に分類されるものは何箇所ある?」
来た!
事前情報で覚悟はしていたが、急に難易度が跳ね上がった。問題も選択式ではなくなっている。
現在実装されているMAPでもかなりの広さがあるのに、そこに存在する村を全て把握するのはかなり厳しい。
事前に答えを知らなければ、ほとんどの人がここで間違えるだろう。
この空間の中では画面を開いたり、道具袋の中を見たりすることが出来ないらしい。まぁ、出来たら完全にカンニングになってしまうわけだが……。
なので、ここから先は完全に記憶頼りとなる。
「5箇所」
「正解!」
「第九十一問:今いる領土を治めている国の国王の名前は?」
現在いる国の名前はリヴィルニア王国。この間のイベントで城下町は見たが、まだ未実装であり、そこにいる国王の名前など分かるはずがない。問題にする以上どこかのNPCから聞けるのかもしれないが、私は今のところ聞いたことがない。
「リゲイル=ゼノ=リヴィルニア」
「正解!」
攻略サイトで覚えた名前を答え、すぐさま少年がにこやかに返す。
ほんと、どこの誰が情報集めたのか分からないけど、攻略サイト様様だ。
記憶を頼りにその後も順当に正解していく。
「正解!」
九十九問目を正解したところで、少年が私の方をジッと見つめる。
「さぁ、次が最後の問題だよ!」
大きな声を上げバッと両手を大きく広げる少年。
次の瞬間今いる空間を照らしていた照明が消え、スポットライト的な照明だけが私と少年を照らし出す。
なかなか粋な演出ではあるが、プレッシャー以外の何ものでもない。
最後の問題と聞いて、自然と心臓の打つ音が早くなる。
「最終問題:初イベント、王都襲撃イベントにて、イベント初日の初めのボスを討伐したプレイヤーの名前は?」
「…………は?」
一瞬思考が固まった。
だが、すぐに腑に落ちなかった点が合点いった。
あんなほとんど誰も知らないような問題を解く人達がいるのに、なぜ最後の問題だけ誰も解けないでいたのか。
知っていてあえてこれを最終問題にしたのであれば、製作者はとんでもない根性悪である。
「10秒前だよ」
焦らせるように早口で言う少年を、私は正面から見つめ、
「夜桜アンリ」
正解である自分の名前を口にする。
突然全ての照明が落ち、周囲が暗闇と化す。
なにごとかと、声を上げようとしたその瞬間、
「だいせいか~い!」
少年の上げる声と共にファンファーレが鳴り響き、周囲がパッと明るくなる。
私は思わず安堵の息をつく。
倒した本人なのに、まさか間違えたかと思ってドキドキした。
「おめでとう! 見事全ての問題をクリアしたお姉さんへの報酬はこれだよ」
『参加報酬:30万G、チケット、知恵の実5個』
お金と、謎のチケットと、消費アイテムのようだ。チケットは表裏見たが用途がよく分からない。知恵の実は使うとINTが1上がるようだ。参加するだけでINTが5も上がるなら、魔法職にとってはすごく美味しいだろう。
これだけで終わりではない。
『初クリア報酬:
パッシブスキル:インテリ眼鏡っ子
賢さをアピールする最強装備、眼鏡装備時INT+999』
…………。
なんだこれッ!?
思わず説明を二度見した。
眼鏡を装備した時限定で、とんでもないI程NTが上昇する。
これ考えた奴どれだけ眼鏡掛けさせたいのよ! 眼鏡っ子大好きなの!?
と、心の中で突っ込みを入れたのも束の間、報酬には続きがあった。
『装飾品:委員長眼鏡
賢く見える黒縁の眼鏡。魔法のMP消費を半分にする。』
ただの眼鏡かと思ったら、こっちもとんでもない物だった……。
「ぜひその眼鏡を顔の一部にしてね!」
なんかもう、付けたら二度と外せない呪いのアイテムのような少年の台詞に、私は眼鏡をそっと道具袋の中に仕舞う。
「じゃあ、元の場所に戻るね」
気が付けば風景は元の村の中に戻っていた。
「じゃあね、お姉さん。また遊びに来てね」
そう言うと少年は、また子供NPCらしく走り出してどこかへ行ってしまった。
色々突っ込みどころの多いクエストだったが、まぁ、面白かったので良しとしよう。
情報にあったクイズクエはお手伝いではなかったが、この村では結構お手伝いクエをこなせた為、結果オーライだ。
「よし、次行こう!」
気持ちを切り換え、私は村を後にした――。
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