第7話 謎の残る初イベ(3人称視点)
初イベント終了後、無事イベントクリアの祝いと打ち上げを兼ねて、アレク達は大きな町のファミレス的なところに集まっていた。飲み屋も存在するのだが、リアルで未成年の人もいるため、それを考慮してのチョイスだ。
「皆、お疲れ様。皆のおかげで無事に4体のボスを倒すことが出来た。初イベだからあまり大した報酬はなかったけど、今後のイベントに向けてのいい練習になったと思う。今後もこの調子で頑張っていこう。乾杯!」
アレクの乾杯の音頭と共に、静まり返っていた周囲が騒めき出す。
「あたしが注いで上げるよアレク~」
まだコップの中身はほとんど減っていないというのに、エリーがすかさずアレクの前に烏龍茶の入ったピッチャーを差し出す。彼は甘いものが苦手なので、飲むのはもっぱらお茶類だ。
「まだ残ってるのに注いでどうすんのよ? どうぞアレク様」
ピッチャーを持った状態で固まるエリーを他所に、シーダが取り分けたサラダをアレクの前に差し出す。
「ちょっ! 横からしゃしゃり出ないでよ色黒女」
「何言ってるんですか。男性なら注いでもらいたいのは色気のある女性。注ぐときに胸元も見えないまな板はお呼びではないのですよ」
「な、な、な、なんですってぇ!」
シーダの挑発に顔を真っ赤にして怒り立つエリー。
戦闘の時以外は二人ともアレクの気を引こうと、いつもこんな感じだ。
その向かい側に座るアレクは、「またか」と額に手を当てて小さく首を振る。
「いやー、大変そうだねアレク」
と、あっけらかんとした口調で近付いてきたのは、金髪の美少年ハルルだ。
彼もまたアレク達とは別のギルドのマスターだが、仲が良いため自然とこの中に入り込んでいた。
「あぁ、ハルルか。ま、いつものことだけどね」
「あはは。いつもこれじゃ狩り行く前に疲れちゃうね」
「狩りに行けば二人とも真面目になるから、狩りの間の方が気楽だよ」
そう言ってアレクは目の前の烏龍茶を一口飲む。
「それにしても」
ハルルがアレクの真横に移動すると、アレクは自然と横に移動し彼の座る部分を空ける。
ハルルは隣に座ると、内緒話しするかのように少し声量を落とす。
「一体誰が初戦のボス倒したんだろうね?」
ハルルの言葉にアレクの顔が険しくなる。
「俺達はベストメンバーでありながら、どのボスも5分はかかった。だが、初戦のボスだけは15秒程度で倒されている」
正面には今だ争うエリーとシーダがいるのだが、そこには焦点を合わせずに、どこか虚空を眺めながらアレクは低めな声で返す。
「僕達のところも大体5分ちょっとくらいだから……初戦のボスがやたら弱くて、NPCでも倒せちゃう程度だったのか――僕達よりも遥に強い人がいたか……」
「だが、そんな奴がいれば噂くらいにはなるだろう」
「そうなんだよねー」
言いながらハルルが席を立つ。
その瞬間、カランといった乾いた鈴の音を響かせ、店のドアが勢いよく開かれた。なにやら、慌てた様子で客が一人出て行ったようだった。
「それじゃ、僕もそろそろ行くよ。次のイベントでもお互い頑張ろうね」
「あぁ」
アレクの気のない返事を背中で聞きながら、ハルルはさっさと店を出ていく。
「俺よりも遥に強い奴か。一度戦ってみたいものだな……」
「アレク! 私が注ぐよ!」
「アレク様。私がお注ぎいたします」
いつの間にかエリーとシーダがピッチャーを抱え、準備万端の構えを取っていた。
テーブルを見れば、いつの間にか一口しか口を付けていないはずの烏龍茶が空になっている。
「やってくれたな……」
先ほどまでいた友人の顔を思い浮かべながら、アレクは二人の前にコップを差し出す。
この後、争いが激化したのは言うまでもない――。
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