第49話 ギャングたちの夜(1)

 晩飯を食い終わって居間でのんびりしていると、俺の『魔力感知』に反応があった。

 反射的にラグナルに視線を向けると、やつも近づいてくる気配に気づいたようだった。


「来たようですな」

「あぁ」


 俺とラグナルのやり取りで、居間の雰囲気が一気に張り詰めた。

 ミーシャとクーファはかなり緊張した様子で、武器を握りしめている。

 もちろん、握っているのは朝の訓練で使ったような訓練用の武器ではなく、刃ややじりが鉄でできた本物の武器だ。

 アトリは俺と同様、外套がいとうとフードで外見を隠しながら、思い詰めたように青い顔をしている。


 ……なんつーか、戦う前から潰れそうなツラだな。

 戦いが始まる前に、念のため俺とアトリのことを『鑑定』でておく。


     セツナ・クロサキ

     種族:ヒューマン

     クラス:勇者(タイプ:暗殺者)

     状態:正常

     レベル:13

     魔力:155/200

     スキル:

      鑑定(レベル:9)

      超暗殺術(レベル:2)

      隠密(レベル:3)

      魔力感知(レベル:3)

      俊敏(レベル:2)

      闇魔法(レベル:2)

      言語理解(レベル:9)

      短剣術(レベル:1)


     アトリーシア・エル・ディード・バルディア

     種族:ハーフエルフ

     クラス:賢者

     状態:正常

     レベル:20

     魔力:344/1500

     スキル:

      全属性魔法(レベル:4)

      虚無の因子(レベル:9)


 魔力もかなり回復してきてるし、ステータス自体は問題なさそうだな。

 俺はアトリの頬をつまむと、むにむにと引っ張った。


「なっ、なんですか、セツナ」

「固くなってんじゃねえ。もっと気楽にしろ」

「そ、そう言われても……」

「いざとなったら切り札があるって言ったろ? お前のことはミーシャとクーファが守るし、俺もちょいちょい様子見ておくから、安心して魔法ぶっ放してくれればいいんだよ。一人でそんなに気負ってんじゃねえ」

「…………わかりました。でも、セツナこそ気をつけてくださいね?」

「まぁ、ほどほどにな」


 俺の適当な返答に、アトリはため息をついて脱力したようだった。

 続いて、俺はミーシャとクーファの頭をぐしゃぐしゃと雑に撫でた。


「お前らも、アトリのことを頼んだぞ」

「ん。任せて、セツナ兄」

「う、うんっ。アトリさんには指一本触れさせないからっ!」

「敵が寄ってきても、適度に距離を取って応戦しろよ。接近戦ばっかやってると、アトリが狙いをつけにくくなるからな。……任せたぞ」


 最後に二人の頭をぽんぽんと叩いてから、俺はラグナルに向き直った。

 全員の緊張がほどけたのを見て、ラグナルは朗らかに目元を緩めた。

 ラグナルも完全武装の状態で、剣を腰にいて短槍を握り、肩から腰にかけて投擲用の短剣を並べたナイフホルダーを巻いている。

 物騒この上ない格好だが、まったく緊張した様子もないのは、くぐった修羅場の数が違うってことだろうな。


「では、迎え撃つとしましょうか」


 ラグナルはのんびりとした口調で言って、玄関のドアを開けた。


 ラグナルに続いて外に出ると、外は完全に夜のとばりが下りていた。

 母屋から五〇メートルほど離れたあたりには、兎耳種ラビリスの若者たちが横一列に並んでいる。

 人数は三〇人近くだろうか。剣や短剣、弓など、各々に武装しながらこちらを睨みつけている。


 その中央に立つラゴスは朝と同じ出で立ちだったが、その表情には凄まじい怒気がみなぎっていた。

 脇腹の傷がすでに癒えているのか、痛みを堪える様子もなく歩み寄ってくると、こちらに向かって吠えてくる。


「クソジジイ! 俺たちの用件はわかってるみてえだな!?」

「そう吠えんでも聞こえておるよ」

「なめやがって……今日こそてめえを引きずり下ろして、兎耳種の自治を取り戻してやるっ! だが、その前に……」


 前置きしてから、ラゴスは俺を指差した。


「まずは、てめえに借りを返さないとな。その間、ジジイはうちの仲間と遊んでろや」


 …………やれやれ。随分と嫌われたもんだな。

 とはいえ、ここまでは予想の範囲内だ。

 俺がラゴスを押さえ、ラグナルが一体多の形でギャングをひきつけ、アトリが遠距離から支援する。ミーシャとクーファはアトリに張り付いて、接近してくる敵や矢を迎撃する。

 これが俺たちの作戦だ。


 ラグナルはまぁなんとかするだろうが……作戦の最大の不安要素は、俺がラゴスを相手にどこまでやれるか、だな。

 朝は不意打ちでなんとかできたが、さすがに二度は同じ手は通じないだろう。

 夜のおかげで闇魔法の使い勝手はよさそうだが、手の内がバレてる状態で不意を打つのはかなり難しい。『毒物生成』も警戒してるだろうから、傷を負わせるのにも苦労しそうだ。


 念のため、俺は横に立つラグナルに確認する。


「やっぱ、殺しちゃまずいんだよな?」

「申し訳ありませんが、そうしていただけると」

「……そいつはかなり厳しいな」

「致命傷にならない傷で戦闘不能にする分には、問題でしょう。腕や脚を切断するくらいなら、ウィスラ神教の教会か、治療院で治してもらえるでしょうからな」


 なかなかえぐいこと言いやがるな。

 まぁこれ以上の面倒事になっても困るし、ここは指示通りにやるしかないか。


 右手に剣鉈マチェットを、左手に短剣を構えながら、俺は戦闘開始に備えた。

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