第77話 今までにあった事

 サムを待っている間、あたしが拉致されてからあった事をリアルから聞いた。

 星野さんはやはりあたしが飛行船にさらわれた事に気が付いていなかった。リアルと糸魚川君が家の前に戻った時には飛行船は飛び去った後だった。

 三人はその後話し合って、糸魚川君とリアルがあたしを救出に向かい、その間に星野さんが知性化動物を公表する準備をする事になり、二手に分かれた。

 救出と行っても、糸魚川君の場合は内調からあたしの奪還命令がないと動きにくい。命令が出ないときは単独で動くつもりだったが、その場合内調の支援が受けられない。

 そもそも、糸魚川君の受けていた任務はリアルの捜索だったのだから、そんな命令出ないだろうと思っていた。

 だが、意外にも奪還命令が出た。

 政府としてはシーガーディアンを何としても悪の組織として世間に印象付けたい。

 そんな時に奴らが日本の少女を拉致した。

 悪の組織として印象づけるのにまたとない好材料というわけだ。

 一方、リアルは家の庭でトロンとサムに再会した。『一緒に大使館へ逃げよう』という誘いを断り、あたしを助けにいくというと、トロンとサムも協力を申し出てくれた。

 こうして、一人と二匹と一羽という変則的なチームができあがったというわけだ。




 パソコン画面には夜の土手が映っていた。

 潮風に揺れる枯れ草の間に一本の粗末な杭が打ち付けられている。

 杭の根本に横たわる一人の少女。まるで死んでいるようだが、その顔は紛れもなくあたし。3Dプリンターで作ったあたしの人形だ。

 それにしても悪趣味な。


「ここで騙された事に気が付いたんだ」


 首輪から延びたケーブルを、パソコンにつないだ状態でリアルは言った。


「この時、第三台場の近くにいた船が急に動き出したので、怪しいと思って追いかけた」


 パソコン画面は夜の大海原に変わった。

 このとき、リアルはさっきの大きな鳥、サムに掴まって空を飛んでいたんだ。

 やがて海の真ん中に真っ黒な船が現れた。

 しばらく船の周りを飛び回り、やがて船室の一つにあたしがいるのを見つけた。


「この時、糸魚川に連絡したんだ」


 ここでリアルはパソコンの映像を止めてケーブルを外した。


「でも、リアル。内調から逃げ出した動物達が糸魚川君と行動して問題ないの?」

「問題ないはずないだろ。糸魚川の奴は俺達の事は内緒で行動しているんだよ」  

「バレないの?」

「さあ……」


 不意にリアルが押し黙った。


 どうしたんだろう?


「サムだ。サムから連絡がきた」

「どうだった?」

「巡視船のヘリが故障して飛べないって」

「ええ!?」

「しかし、糸魚川がここまで来るのに使ったモーターグライダーがある。それに乗ってやってくるって」

「そうなんだ」

「お!! サムからの映像だ」

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