第62話 『悪い人』
まあ、それはともかく……
「ねえ、糸魚川君。内調は大使館を見張る以外、なにもしてなかったって本当?」
「え? そうだけど」
あたしはリアルに視線を向けた。
リアルもあたしの言いたいことに気が付いたみたいだ。
あたし達は星野さんに送られてきたメールの事を話した。
「メール!? いや、内調ではそんな事はやっていないはずだ」
「じゃあ、いったい誰が?」
「おそらく、あいつらだな」
「あいつら?」
「僕が美樹本さんと初めて会った時、リアルをさらおうとしていた奴らがいただろ」
「あ!! そういえば、あいつら何者なの?」
「あの後、内調に連絡して調べてもらった」
「わかったの?」
「シーガーディアンだ」
「それって、この前桜ケ丘SCを爆破しようとした奴ら?」
「ああ。あいつら、かなり追いつめられてるからね」
「そうね。そのあたりは取材に行ったパパに聞いたわ。シャチがシーガーディアンのボートを襲ったって」
「それだけじゃない。シーガーディアンのポールは頭にきてシャチをライフルで撃とうとした。その動画を世界中に流されてしまった。おかげで奴ら、スポンサーからも見放されてしまった。『動物愛護団体がシャチを撃つとは何事だ』てね。まあ、それがこっちの狙いだったわけだが」
「それで、シーガーディアンはなんでリアルを追いかけていたの?」
「それなんだ。最初はなんで奴らが黒猫を追い回しているかわからなかった。ところが、リアルを美樹本さんが保護している事が判明してから状況が変わった。奴らは何らかの情報源から、内調ですら掴んでいないリアルの潜伏先を知ったんだ」
「でも、リアルを捕まえてどうするの? まさか、カツラをはがされた復讐?」
「そんなんじゃない。奴らはホームページに知性化動物の事を書いたけど証拠がなかった。だから、生きた証拠であるリアルを捕まえようとしていたんだ」
「そんな事してどうするの?」
「日本政府を貶める材料にするか、あるいはそれをネタに政府を強請って逮捕されたメンバーの釈放を要求しようってつもりだろ」
ガタン。
上から音が聞こえてあたし達は押し黙った。糸魚川君は、懐からピストルを抜く。
「糸魚川君。それは……」
「大丈夫だよ。弾は非致死性のゴム弾だから」
「俺が様子を見てくる」
リアルが部屋から出ていく。
「糸魚川君。ここを出てからどうするか考えてあるの?」
「一応ね。柳川内閣が倒れるまでの間、隠れていようと思う」
「にゃあああ!!」
不意に大きな猫の鳴き声が聞こえた。
「リアルは何をしているんだ? 外へ聞こえちゃうじゃないか」
「違うわ。これリアルの声じゃない」
ドタドタと大きな音を立てて一匹の三毛猫が駆け込んできた。
「ふにゃあ」
三毛猫はあたし達に気が付いて鳴き声をあげる。
「心配ない。二階の音はこいつだった」
三毛猫の後から、リアルが入ってきた。
「にゃにゃにゃ」「にゃあにゃあ」
しばらく猫同士で何かを話していた。
「リアル。この子何を言ってるの?」
「悪い人に追われているから匿ってくれと言ってる」
「でも、この猫はどこから入ったんだろう? 戸締まりはしてあったはずだが」
「甘いぞ糸魚川。この家はあちこちに猫用の出入り口があるんだよ。それを見逃したな」
「いや、見逃したわけじゃないが忘れていた。鍵かけとくんだったな」
「じゃあ俺が鍵をかけてくるよ」
リアルは部屋から出ていく。
ガタガタ。
その音は裏口の方から聞こえた。
「いけない。あたし、ここに入った時、裏口の戸締まりしなかった」
「なんだって? ここも嗅ぎ付けられたか?」
「そうかな、猫の言ってる悪い人じゃないの?」
ん? 悪い人?
それって猫にとって悪い人って事よね。
まさか……
扉が開き『悪い人』が姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます