第27話 「まさか、許可されるとは思わなかった」

 まさか、許可されるとは思わなかった。


「良かったわね。先生が許してくれて」


 星野さんが嬉しそうにそう言ったのは、学校から帰る途中での事。


「う……うん、そうね」


 星野さんの気持ちに水を差すわけにもいかず、あたしは不本意ながら同意した。

 なんでこんな事になったんだろう?

 あの後、あたしは星野さんと職員室へ行き、明日からリアルを学校に連れてきたいと、担任の黒沢先生に頼み込んだ。

 理由は今日みたい勝手に猫がやってくると、騒ぎになるからという事だったが、黒沢先生は『ダメだ』と一言の元に却下した。

 当然だろうな。

 むしろ怒鳴られなかった分だけまし。まあ、これでこの話は終わり。一件落着のはずだった。

 隣のクラス担任、三枝さえぐさ美子よしこ先生が余計な口を挟んでくるまでは……


 以下、再現映像。


 場所・放課後の職員室。


 黒沢先生に却下されるも、星野さんは未練がましく頼み込んでいる。

 だが、黒沢先生はアンドロイドの様な無表情で、女子中学生の懇願を黙殺していた。

 その時、隣席から若く美しい女教師が声をかける。


「あら、いいじゃないですか、猫ちゃんぐらい」


 その一瞬、黒沢先生のアンドロイドの様な無表情にほころびが生じた。堅物の黒沢先生が三枝先生に気があるというウワサはあったけどどうやら本当のようだ。


「何言ってるんですか。三枝先生。いいわけないでしょ」

「どうしてですか?」

「どうしてって、常識でしょ。勉強と関係のない物を学校に持ち込むなんて」

「そうでしょうか? 学校は勉強だけしていればいい、というものではないと思いますが」

「いや、だからって」

「授業の邪魔だと言うなら、授業中は職員室で預かるということでどうでしょう?」

「いや、だめでしょう」

「そうですねえ。そうなると、誰かが猫ちゃんの世話をしなきゃならないですね」

「いや、そういう問題ではなくて……」

「仕方ないですね。それなら私がやりますわ」


 三枝先生の顔はとても嫌な事を仕方なく引き受ける人の顔ではない。嬉々としている。


「そうじゃなくて、他の先生方が迷惑すると言ってるんです」

「ええ!? そうなんですか」


 三枝先生は周囲を見回す。様子を見ていた他の先生達は一斉に目をそらした。


「みなさん。迷惑ですか?」

「いや、わたしは特に……」

「僕は猫好きだけど、嫌いな人もいるから」

「でも、この学校で猫が嫌いな先生なんていましたっけ?」


 論点がずれてるよ……てか、先生達の目は如実にこう語っていた。

『誰も余計な事言うなよ。職員室で猫とすごせるチャンスなんだから』と……


「黒沢先生は反対されてますが、猫が嫌いなのですか?」

「いや、僕は猫が嫌いで言ってるのではなくて、モラルの問題として」


 そうよ!! モラルの問題よ。


 てか、この学校は黒沢先生以外まともな先生いないの?


「ダメです。職員室で猫を預かるなんてとんでもない」


 一人だけいた。さすが校長先生は言う事が違う。


「職員室は教師だけでなく、生徒さんも来るんですよ。その中に猫アレルギーの子や猫が嫌いな子もいます」


 うんうん。その通り。


「したがって、猫は校長室で預かります」


 は……? 今、なんと……


「校長先生ずるいです。猫ちゃんを一人占めする気ですね」

「では、三枝先生が世話係という事で」

「それならいいです」


 良くなあい!!


 以上、再現映像終わり。


「それじゃあ、私こっちだから」

「さよなら。明日学校で」


 別れ道で星野さんと別れた。


「はあ」


 あたしのため息は寒い空気にふれ、ドラゴンブレスのように広がっていく。

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