エスパーダの追加武装

「あんた……最初から騙していたね⁉」

「敵を欺くには味方から、とさる方から教わりまして」


 きっと、クリスのことだろう。

 イクスにもレンゲにも、正体は筒抜けであった。

 彼は自分の身分を隠し通しているつもりだろうけれど。


「ええい、こしゃくな!」

 大怪人が、ピアノを真っ二つにする。


「きゃああ!」

 ディアナが悲鳴を上げた。


 レンゲが怯えるディアナを抱えて跳躍する。

 直後、エスパーダの元に。


「さあ、ディアナ様を……ぐうっ⁉」

 杖がムチの状態になって、レンゲのノドを締め上げた。


「レンゲ、あなたははじめからコレを狙って」


「はい。悪魔になるのは最初だけ! レプレスタで受けた恩を、今こそ返す時!」

 レンゲもやられっぱなしではない。弓で応戦し、コブラ大怪人の目を潰す。


「ぎゃあああ!」

 首からムチを払い、レンゲはイクスにかしずいた。


「妹君を危険に晒しましたことを、深くお詫びいたします」

「よいのです。敵の懐に入るには、これが最良と感じたのでしょう」


 ディアナに説かれ、「はい」とレンゲも答える。


「復讐を思いとどまらせようと、説得も試みようとも考えておりました。が、決意は凝り固まったままで、止められず」

「あなたの勇気によって、妹は救い出されました。なんともありませんね?」


 イクスが問うと、ディアナはうなずいた。


「おのれ、要塞も機能を停止して、レプレスタに一太刀も浴びせられず! こうなれば、あんたらだけでも道連れにしてくれる!」

 大怪人が、腰のベルトに手をかざす。


「幻身!」

 怪人の姿が、装甲をまとった状態に変わる。


「アタシはまだ、怪神の力があるんだ! 通常変身しかできぬエスパーダごとき、返り討ちにしてやんよ!」


「その大口を叩けなくして差し上げますわ!」

 エスパーダが刀を抜いて突撃した。


 確実に、エスパーダの刀は怪神を切り捨てたはず。


 しかし、強固な装甲によって刀は弾かれてしまう。


「ムダさ!」

 軽く蹴飛ばされただけで、エスパーダは反対側の壁まで押し出された。


「戦乙女に対抗して開発された怪神システム。エスパーダごとき、ものの数ではないさ!」


 一瞬で、エスパーダの変身が解けてしまう。しかし、闘志は失わない。

「まだですわ! あなたの野望を砕くまで、ワタクシは何度でも立ち上がりますわ!」


「こざかしいぞ、レプレスタの娘ども! さっさと始末してぐへええ⁉」


 窓を突き破って、白いバイクが飛び込んできた。


 背中をはねられた怪神が、転げ回る。


「オマエさんムチャクチャだな!」

『誰かがピンチの時、ヒーローはこういうものだ!』


 颯爽とバイクに乗って現れたのは、コウガだった。

 後ろのシートには、クリスも乗っている。

 


「あなたはクリス!」

「よう、イクス! ハデなやられっぷりだな!」


 クリスから指摘され、イクスはようやく自身が額から血を流していると知った。


「その姿、オンディール直属騎士団か!」

 起き上がったコブラ怪神が、叫ぶ。


「ああ。女王も見ていられねえってさ」

「レプレスタ侵攻が終わったら、次はオンディールだ!」

「そいつぁ、エスパーダを殺してから言うんだな!」


 言ってから、クリスは自分の腰にぶら下げていた物体を手に取る。ベルトのバックルのようだが。


「イクス。ピンチ状態のお前さんに、お届けものだ!」

 クリスはイクスに、バックルを投げ渡す。


 バックルには、オンディールの紋章が金の細工で施されていた。エスパーダの宝玉をカバーする役割を持つらしい。


「ベルトの能力上昇・拡張機能だってよ」

 イクスは、ベルトに装飾を取り付けた。宝玉が紋章に光を当て、うっすらと透けて映し出される。


『すごいよイクス。これは……小型の魔導書だよ! 魔導書を金属板に圧縮して、装飾を介してエスパーダのベルトに行き渡らせている!』

 ベルトの影響を直接受けているノーマンが、バックルのポテンシャルを解説した。


 魔法攻撃に乏しいというエスパーダの弱点が、バックルによって克服できるようだ。 


「ありがとうございます、クリス。いえ、クレシェンツィオ・フォン・オンディール王子」


「んだよ。知ってやがったか。オレがオンディール王家の者だって」

 クリス改めクレシェンツィオ王子が、頭をかく。


「エルフ女王直属の騎士団を率いて、こんな高性能のアイテムを用意できる方は、女王のご子息以外にいませんわ」


 エルフ女王の子孫は、長い間存在が伏せられていた。

 レプレスタでさえ、顔すら知らなかったが。

 まさか、自分の仲間だったとは。


「おっしゃるとおり、オンディール女王からの差し入れだ! やっちまえ、イクス!」


 紋章の装飾など、本来ならオンディール王家にしか許されない。


 つまり、オンディールがエスパーダを認めたことになる。


 責任重大だ。しかし、コレ以上の名誉はない。


 小さな諍いを長年続けてきたレプレスタとオンディールを、問題児エスパーダが繋ぐことになるとは。


『二人で協力するぞ!』

 バイクから降りて、コウガも怪神と対峙する。


 だが、イクスはコウガの肩に手を置いた。


「いいえ。この場はワタクシ一人にお任せを」

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