本当に裏切ったんですか⁉
エスパーダの剣と、コブラ大怪人の杖がぶつかり合う。
「深手を負ったアタシは、支配を配下に任せたのさ」
「その中に、あなたもいたのですね、レンゲ?」
レンゲは、悲しげな顔になる。
「ワタシはレネゲイドとして、レプレスタの城に潜入し、現王国の弱みを握ることにしました。ディアナ様が、要塞を起動させるほどの力を持つと知ったのです」
レンゲは、ディアナにピアノを教えることにした。
母を失って消沈していたディアナに、母親が得意としていたピアノを教えるという口実で。
「メトロノームに擬態させた像を置き、ディアナ様の魔力を奪っていたのです。長年の間」
だから、ディアナは病弱になったのか。
「あとはクイラスの内部にある武装を開放するのみ。さあ、ディアナよ、そのピアノを弾きな!」
「ピアノが要塞となんの関係が?」
「ディアナの演奏によって、要塞に設置されている砲門のスイッチが開放されるのさ!」
エネルギーは、炭鉱で集めた魔法石で潤沢に集まっている。
あとは、起動させるだけらしい。
「レプレスタの血が濃いディアナの力さえあれば、要塞は無敵の破壊兵器と化すだろうね!」
「そこまで、ディアナの力は強いといいますの?」
「ディアナがというより、こいつの母親が強いのさ」
イクスたちの母は、エルフ王国オンディールの王女だった。
強いのは間違いない。末妹のディアナに目をつけていた。
「あんたも兵隊として取り込もうとしたけど、魔力は大したことなかった。レプレスタの武術センスだけ受け継いだようだね。そこで、ディアナに目をつけたのさ。いやあ、すばらしい! オンディール王女の生き写しかと思ったよ!」
アロガントが、ディアナに好奇の目を向ける。
青ざめて、ディアナが身震いした。
ディアナは、姉妹の中でも魔力が特別強い。
アロガントはレンゲに指示を出して、ディアナから魔力を奪い続けた。
あとはディアナ本人を要塞へいざなうのみ。
「さっさと演奏しな! あんたの絶望感を食らって、要塞の魔力はより濃くなっていく!」
「いやです! どうして、わたしが故郷を破壊しなければならないのですか!」
「うるさい小娘だね! 黙って演奏するマシンになりゃいいんだよ! レンゲ!」
レンゲが、ディアナを諭すかのように隣に立つ。
「乱暴をしないでくださいまし!」
『待って、イクス。様子がおかしい……』
レンゲには、ディアナを虐待する徴候が見られない。
どこか、見守っている気配さえ感じる。
「何をしている? 折檻でも罵倒でもいいからピアノを弾かせるんだよ!」
アロガントが急かす。
「あんたがやらないなら、ワタシが無理矢理にでも」
「やらせません。あなたを、ディアナの元ヘは行かせませんわ!」
エスパーダの剣を、コブラ大怪人の杖が弾く。
「どこまでも邪魔な女だね!」
大怪人が、エスパーダの腹に膝蹴りを入れた。
圧倒的な戦力差に、エスパーダは壁に叩きつけられる。
「考え直してくださいレンゲ! あなたは、本当に裏切ったんですか⁉」
よろけながらも、エスパーダは立ち上がる。
「ワタクシとあなたは、仲間じゃなかったんですか?」
エスパーダのアゴに、無情にも大怪人の杖がヒットした。
顔を打ち抜かれ、エスパーダが大きく宙返りをする。
レンゲはエスパーダの言葉を無視して、ディアナに演奏を促す。
「ワタシを信じてください」
優しく、レンゲはディアナの手の甲に、自分の手を載せた。
「よしなさい、ディアナ!」
うつ伏せになりながら、エスパーダがディアナを呼ぶ。
『待つんだイクス。なにか変だよ』
ノーマンの言葉にも、イクスは素直に従えない。
無理にでも、立ち上がろうとしてしまった。
「あんたは地べたを這いずって、よく見ておくんだね! 自分の故郷が焼かれるさまを! アハハハ!」
大怪人が、エスパーダの背中を踏み潰す。
ディアナが、演奏を始めてしまう。手の震えが止まっていて、自由に指を走らせる。
何が起きたというのか。
聴いているエスパーダにさえ、ディアナの雄大さを感じ取った。
透き通った声で、レンゲが歌い始める。レプレスタの民衆に聴かせるはずだった歌を。
「これだよ! アタシが失った歌声を、レンゲは見事に再現してくれた!」
何度もエスパーダをヒールで踏みつけながら、大怪人が興奮する。
「レンゲは無改造なのですね?」
「歌声に支障が出てしまうからね!」
レンゲの歌は、彼女の均等の取れた肉体だからこそ成り立っているらしい。
ヘタに改造を施せば、美しい声は失われ魔力にも影響が出てしまう。
「歌えなくなった自分の代わりに、身内に呪いを歌わせるとは。どこまでも度し難いですわね!」
「なんとでも言うがいいさ! 勝てばいいのだから!」
コブラ大怪人が、勝ち誇る。
だが、その顔がみるみる曇っていった。
暴れるはずのゴーレム部隊が、デヴィランの陣営を攻撃し始めたのである。
「ど、どういうことだいこれは⁉ レネゲイド、あんた⁉」
「言ったはずです。ワタシの悲願だったと!」
歌をやめたレンゲが、コブラ大怪人に向き合う。
その顔は、いつもの正義に染まっていた。
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