ミミズ怪人【ワーム】
コデロたちは、鉱山の上空を飛ぶ。
「何かが暴れています!」
『怪人じゃないか!』
表で、怪人がエルフたちを襲っていた。
全身がピンク色で、蛇腹状のヨロイで武装している。
ろくろ首のような伸縮自在の首を持つ。
目や鼻はなく、顔の構造は口だけである。
ミミズの怪人らしい。
口しかない顔が膨らみ、アゴが大きく開く。
円形の口に、ギザギザの歯が並んでいる。
怪人のノドが、ボコリと不自然に膨らんだ。
エルフに向けて、口から粘着質の毒液を吐いた。
逃走経路に粘液が落下し、ポイントをどろどろに溶かす。
またも、ミミズ怪人のノドがボコリとうねった。
『いかん! フィーンドバスターッ!』
コウガは、ミミズ怪人に銃を放つ。
「ぬお!」
ミミズ怪人の、首の軌道が狂った。
エルフのそばにあった岩が、毒液を浴びてドロドロに溶けていく。
『早く逃げるんだ!』
コウガは援護射撃を繰り返し、エルフたちが一目散に逃げていった。
「ボクの食事を邪魔するやつは誰だ⁉」
『そこまでだ、ミミズ怪人!』
「なんだと、【ワーム】をミミズ呼ばわりとは! 解せぬ!」
ワームの口が、コウガをロックオンした。
『毒液が来るぞ!』
「ライジングフォームで!」
コウガの身体が、銀色に変色する。
『任せろ。冷凍ガス!』
敵が吐き出す粘液を、ガスで次々と凍らせた。
『自分の粘液を浴びてしまえ、怪人め。フィーンドバスターッ!』
凍った粘液を、コウガは光線で粉々に砕く。
粘液の雨が、怪人に降り注ぐ。
「ぎゃああ!」
ミミズ怪人のヨロイが、溶解性の雨を浴びて煙を上げた。
「こしゃくな、これでどうだ!」
怪人の首が、バイクの車輪に取り付く。
直後、コウガはバイクをベルトに収納した。
バランスを失い、ミミズ怪人は転倒する。
『コウガ・ライジングキック!』
風の魔法を使って、コウガはキックを見舞う。
「まずい!」
なんと、ミミズ怪人が地中へと潜って逃げてしまった。
キックが地面に着弾する。
激しい爆風が轟く。
だが、怪人を撃退した気配はない。どこへ逃げた?
「後ろだ! 七時の方向!」
クリスが、的確に相手の位置を示す。
「きええええ!」
コウガの死角に、怪人が首だけを出した。大きな口を開けて、コウガを飲み込むつもりだ。
『フィーンドバスターッ!』
怪人の口をめがけて、光線を打ち込む。
「ぐおおお! ボクの完璧な作戦が!」
またしても、怪人は地中深く潜る。
「逃しません!」
レンゲが、地面に剣を突き立てた。
「超音波!」
刃を指で弾き、レンゲは音波を発生させる。
「三時の方向、組み付いてくるぞ!」
クリスの合図で、コウガは蹴りの姿勢をとった。
『今度こそ。ライジングキック!』
地面から怪人が飛び出すタイミングで、コウガは一撃を喰らわせる。
「ぐほお! デヴィランは不滅ぅ!」
背中が大きく膨らみ、ミミズ怪人は爆砕した。
「お見事でした」
「やったぜ。魔物を軽々とブチのめす戦乙女がいるってのは、本当だったんだな」
エルフの冒険者二人が、コウガの活躍をたたえてくれる。
『オレの名はコウガという。二人がいなかったら、もっと苦戦していた。感謝する』
「お見事でした。ありがとうございます、お二方」
コウガが礼を言うと、二人の勇敢な戦士は照れ始めた。
「いやぁ。たいしたことはしてねえって」
「あれは、エルフの伝統的な戦い方です。特別強いわけでは」
鉱山の安全を確保し、魔法石を運び出そうとしたときだ。
「やはりだ。魔法石の数が少ない」
鉱夫たちが、掘った土を手で掴みながら騒いでいる。
『何があった?』
「あのミミズ野郎! ここで採掘できる魔法石を、どこかへ持ち去ったらしい」
現状を確認し、クリスが舌打ちをした。
「とはいえ、魔除けには申し分ない。急いで持ち帰ろうぜ」
あの怪人は、怪しまれないように魔力石を程々の数を持ち逃げしていたらしい。その現場を鉱夫に目撃され、口封じのために殺そうとしたようだ。
『こんな事態は、毎回あったのか?』
魔法石採掘の作業を見守りながら、コウガはクリスに確認をとった。
「ここ数ヶ月、同じようなことがあったようだ。魔力石が、ほとんどが持ち去られている。それも、純度の高いやつばかりだ」
小さくても純度が高ければ、魔力石を媒介として高度な魔法を放てるという。
純度の高い魔力石と聞いて、コウガはもしやと考えた。
「ベルト様、時期がエスパーダのベルト製造期間と合致します。もしかすると」
『ここの魔法石が、エスパーダに用いられた可能性があると』
リュートとコデロが意見交換していた時である。
「コウガ!」
洞窟の最奥部を探索していたレンゲが、こっちに向かってきた。需要な手がかりを見つけたらしい。
「この奥に、大きな洞穴ができていたそうです」
レンゲに案内されたのは、人が体を縮めてようやく入れるような場所だった。
『オレが行ってみよう』
コウガは両手から風魔法を放ち、穴を崩さないように広げていく。
「何か見えますか、コウガ?」
『深いな。何も見えん』
コウガのセンサーを持ってしても、穴の奥を確認できない。
魔法石強奪が発覚しないように、怪人はかなり入り組んだ道を進んでいたようだ。
『ダメだ。レンゲ、さっきの超音波とやらを出してみてくれ』
ミミズの人間離れした進路を追跡するのは、あきらめた。
洞窟の深さを、音で確かめる作戦に移行する。
「分かりました」
超音波で、洞窟の全体像を予測してみた。
穴を無視して、音が逃げていく方角へ突き進む。
『出口だ!』
地上へ出ると、そこは深い森の中である。随分と、鉱山から離れた場所だ。
後から来たレンゲたちが、コウガと合流した。
「お疲れさまでした、コウガ。野営の跡がありますね」
轍がある。ここから、どこかへ鉱石を運んだのだろう。
「この進路は、ドランスフォードです!」
位置的に、ドランスフォードへ運び込まれた可能性が高くなった。
やはり、エスパーダのベルトを作るためだったらしい。
だが、ミミズ怪人は未だ活動していた。轍の軌道も変わっている。
となると、まだ実験は続いているかも知れない。
「轍の跡は、オレたちが追跡しておくぜ」
「事後調査はこちらでするので、コウガはレプレスタへ。石を運ぶ鉱夫たちの安全を」
後のことは、二人に頼んだ。
『心得た。協力に感謝する』
冒険者二人と別れ、レプレスタへ先行する。
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