2-2 『めんどくさそうな女だな!』『ボクも同じ意見だよ……』
レプレスタ王国へ
イスリーブの王子が、レプレスタへ出発する日を迎える。
「イクスに縁談ですってねぇ」
ミレーヌの経営する純喫茶で、ラキアスがつぶやいた。カウンター頬杖を突く。
「ご存知だったのですね、ラキアス様」
「そりゃあ、妹ですもの。レプレスタの事情は聞き及んでいますわ」
コデロの問いかけに、ラキアスは答えた。
妹、という言葉が出たが?
『まさか。では、あなたの出身は?』
リュートが質問する。
「はい。わたしは、レプレスタ王国の誇る四姉妹の次女。第二王女です」
レプレスタの国王には男児がおらず、四人の姉妹がいるだけだ。
「長女は遠方からお婿様をもらって、次期レプレスタ王妃となります。次女はわたくし、三女がイクスで、幼い末娘がいます」
今回で、三女のイクスが嫁に行くこととなる。
「しかしてラキアス様。王子は、どんな方で?」
「ひとことで言うと、モヤシですわね」
ふくよかな王とは違い、痩せているという。
「臆病で、頼りないですわ。きっとイクスは、王子を尻に敷くでしょう」
「何歳ですか?」
「一四歳ですわ」
中学生ではないか。
『幼すぎないか?』
「王族なんて、そんなものですわ」
現イスリーブ王は、一四歳で結婚し、一五歳ごろには子をなしている。
国王は、二九歳らしい。
ノーマン・ドランスフォード王子と同い年だといっていたが。
『ノーマン王子は、結婚しなかったんだな』
「イクスが逃げ回っておりましたから。我が妹ながら、情けないですわ」
ラキアスが、額に手を当てる。
「元よりイクスは、結婚などから程遠い性格ですが」
「そうですわよね。あの子は昔から喧嘩っ早くて、手を焼いておりました」
「どうして、そんな性格に?」
「母を、魔物との戦いで亡くしましたから」
イクスの母親は、襲ってきた魔物との戦闘で命を落としたという。
「自分が強くならなくては、という思いから、毎日トレーニングを欠かしません。人一倍負けん気が強いのです」
「そうだったのですね。それがエスパーダとしても活動に繋がったと」
「エスパーダ。レプレスタの英雄ですわね?」
レプレスタの城下町に夜な夜な現れては、冒険者顔負けの活躍をするとか。彼女によって葬られた魔物の数は、計り知れない。戦乙女になる以前から。
「あの子らしいですわ」
「ですが、危険です。戦乙女になったとはいえ、好戦的すぎて」
「わたくしも、参りましょう。
現時点で、キノコ怪人以外の驚異は現れていない。
遠出しても安心だろう。
「お見合いより、イクスが戦乙女となったのが気になりますわ」
「それだよ。吾輩も行くぞ!」
窓際のソファから、ノアが飛び起きた。
「新しい戦乙女なんて、見逃せん。ぜひとも研究がしたい!
「あの子がそう簡単に応じましょうか?」
「動力となっているのが、コーデリアの兄上というではないか! そちらから攻める」
はちみつのかかったパンケーキを、ノアは一口で口の中へ。それをカレールーで追いかける。実に悪魔じみた朝食だ。
「したたかですわね、あなたは」
「合理的と言ってもらいたいね!」
朝食を終えて、ノアが舌なめずりをする。
「じゃあ、あたしも行こっと」
ミレーヌまで、ついていくと言い出した。
「純喫茶の新店舗を開きたいのよ。レプレスタに支店ができれば、現地のハーブで何か作れるかも」
「カレー屋さんと言うより、不動産経営の考え方ですわね」
最近のミレーヌは、店舗管理で荒稼ぎしている。「お金に働いていもらう」という思考で、わずかながら安定した収入を得ていた。
「定額の収益が入っていれば、カレーの味に専念できるでしょ? 今後は魔道具にだってお金がかかっちゃうし。コデロやラキアス様だけに負担はかけられないわ」
「まあ、今は魔道具の売買で儲けいているがね」
研究所の活動資金は、ある程度自前でまかなえるようになっているそうだ。
冒険者やイスリーブ兵への、魔道具提供が順調らしい。
「レプレスタにも、ある程度魔道具を流しているんだ。本格的な研究所も建てていいかもな」
「そうやって、デヴィランを追い詰めていくと」
ありがたいことだが、リュートには懸念材料がある。
『怪人退治となると、荷が重い気がするが?』
当面、魔物の殲滅能力には期待できないだろう。
血の気の多い冒険者が暴走してしまわなければいいが。
「ベルト殿の言う通り、付け焼き刃かも知れない。たけど、自分の身を守るくらいできるようになるなら、キミら戦乙女の面倒事も減るだろう」
冒険者たちにも、ノアは念を押しているらしい。
当てにしすぎるなと。
「俺の銃が、参考になったらしい」
「あたしの斧もね」
ダニーとアテムが、それぞれの魔道具を持つ。
「おっしゃるとおり、説得力がありますね」
「すまないね、コデロ。あたしが弱いばかりに」
「ラキアス様の信頼が厚いあなたが、弱いはずありません。あなたには、悪を許さないハートがあります。それだけでも、勇者にふさわしい」
話し合いの末、全員がレプレスタへ向かうことになった。
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