ナメクジ怪人『スライム』
仕込み作業をする中、ギイ、と足下から音が鳴る。
何者かが迫ってくるのを感じた。
ドロドロの物体が、肩に触れる。
『出たな怪人! トゥア!』
コデロは、怪人の腕を掴んだ。そのまま投げ飛ばす。
店内で暴れたせいで、食器類が散乱した。
「な、貴様は!?」
ブヨブヨの怪人が、起き上がってくる。
手足の生えたナメクジを思わせる、不気味な姿だ。
両方の手足さえ、ネバネバの粘液に覆われている。
『ひっかかったな、怪人!』
コデロは、セミロングのカツラを外す。黒髪が露わになった。
髪を整えていたのは、ミレーヌだけだ。
コデロはカツラを買って、ミレーヌに化けたのである。
「では、店を出たのは誰だお?」
『ミレーヌだ』
コデロに化けたミレーヌが、店を出たのだ。
『床下に隠れていたとき、アテムの斧の先がお前の身体に刺さったんだな』
「あなたの計画は筒抜けです。ナメクジ怪人!」
床のシミに化けて、こちらの様子を伺っているのは、「リュートの目によって」分かっていたのである。
『オレの目は、生体反応を探知できるんだ。お前がこの店に潜んでいたのは、お見通しだったんだ!』
「おのれ……。店を買ったおにゃのこを、人知れず喰らうオイラの計画が、ぜーんぶ台無しだおっ! お前を食ってやるお!」
身勝手な理由を並べ立てながら、ナメクジ怪人は身を震わせた。
「すると、他の女性たちは……」
「みーんなオイラと同化したお。おにゃのこの体液、あったかいナリ」
拳を固め、コデロの怒りが頂点に達する。
「なんという下劣な行為。許しません!」
コデロは、左手を腰に当てて腹を横に撫でた。
腹に、ベルトが浮き出る。
「変身!」
コデロが右手を天に掲げると、ベルトが光り出す。
防御フィールを周囲に張り巡らせ、コウガへと姿を変える。
「オイラは偉大なるデヴィランの魔物、【スライム】だお! 正体を知られたからには、もう逃げも隠れもしないお! 思い知らせてやるお!」
ナメクジ怪人が名乗り、粘液をまき散らしながら襲いかかってきた。
『トゥア!』
コウガはナメクジ怪人を掴み、窓を突き破る。
地面に転がりながら、外へ飛び出した。手を放し、怪人と睨み合う。
騒ぎを聞きつけたのか、街の人々が窓を開け、こちらを見下ろしていた。
『なぜ人を襲う?』
「オイラはデヴィランから力をもらって、我が道を行っているだけだお!」
『人の命を容易く弄ぶ外道! 許せん! トゥア!』
コウガは、怪人を殴り飛ばす。
『ムウ、手応えがない』
必殺のパンチは、全身のブヨブヨによって阻まれる。
『これでどうだ! 【フィーンドバスター】!』
コウガは、ベルトに手を当て、光線銃を召喚した。
魔力を弾丸に変換し、撃ち込む。
「ぐおおおお! 焼ける! コレはたまらんお!」
眉間に直撃すると、怪人は一際悶えた。
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