エルフ、ラキアス

「でもな、また誰も救えなくなるところだった」

「何をおっしゃいますか。あなたは、立派です」


 コデロが言うと、アテムは「ありがとよ」と返した。


「もっと話したいが、子どもたちを帰さないと」

 アテムが、子どもたちを乗せた馬車を見に行く。




 だが、馬が死んでいる。

 ペンギン怪人の攻撃を受けて、身体はズタズタになっていた。




「これじゃ、馬車を引けないな」


息絶えている馬に、小さな少女が歩み寄る。子どもたちが泣き叫んでいる中、彼女だけは怯えていない。背は児童の中で一番小さいのに。


「どうかしたのか、ラキアス様?」


 アテムが語りかけている少女は、ラキアスという名を持つらしい。


「おうまさん、かわいそうです」


 少女ラキアスは、自分たちを牽引してくれた馬に敬意を払っているらしかった。

 優しい子である。貴族とはもっと偉そうにしていると思ったのに。


『景色のいいところに、埋めてあげよう』


 リュートが提案し、コデロはコウガとなった。火炎の魔法を放ち、馬を焼く。遺骨を袋に詰めて、近くの河原へ埋めた。


 ラキアスは、一輪の花を馬の墓に植える。


「きっと安らかに眠るだろう」

「はい。ありがとうございます。騎士様」


 とはいえ、馬がないとなると、馬車を引けない。


「どうします、おやっさん?」


「だったら考えがある」

 ダニーは、子どもの馬車をコウガのバイクに繋げる。


「よろしいので? おやっさんの荷台を引けませんが」

「俺は大丈夫だ」


 ダニーは荷台の先頭に座った。


 バイクと同じエンジン音が鳴る。


「自走できるように、ちょくちょく改造してたろ? ようやく完成した」


 天井のない全地形対応車両、いわゆるバギーカー状態になった。


 バイクを走らせると、子どもたちも喜んでいる。


『フフッ』

 うれしくて、リュートは吹き出してしまった。


「何です?」

 自分を笑われたと思ったのか、コデロがムッとした顔になる。


『いや。どうもしない』



 リュートは、言及しなかった。

 子どもたちを守ったのは、コデロの意志なのだと。


 いつものコデロなら、「子どもたちなど放っておけ。まっすぐイスリーブへ向かう」と言うはず。


 なのに、そうしなかった。


 彼女は自分の憎しみを超越して、子どもたちの命を守ったのだ。


 コデロにも正義の血が流れていると、気づけたのは収穫である。



『フフフ』

「気持ち悪いですね。音楽でも流してください。子どもたちが喜びそうなのがいいですね」

『ならば少し古めの特撮ソングを』

「結構です」


 秒で断られた。


 仕方なく、リュートは子ども向け特撮曲を流す。


 後ろでは、子どもたちによる大合唱が始まった。



 もっとも、一番声がデカイのはアテムだったのだが。

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