1-4 「やはり、怪人は幼稚園のバスを襲わなくてはな!」「幼稚舎の馬車ですが?」

少し、くすぐったいです

 快適な朝を迎える。体調は万全だ。


「おはようコデロ。朝ご飯食べるでしょ? 準備できてるから」

 一階に出ると、ミレーヌが朝食を用意して待っていた。

「トレーニングするんですって? それじゃあ、体力付けなくちゃ」


「ありがとうミレーヌ。いただきます」


 食事を終えて、コデロは待ち遠しいとばかりにソワソワし出す。


「ごちそうさまです。では早速外へ」


「待った。その前に、ミレーヌがいるうちに身体検査をしたい」

「身体検査?」

「コウガって、素体が女だろ? 俺じゃ触れない」


 ダニーは、コウガの素材を確認したいそうなのだ。


 いくらリュートが入れ替わっているとしても、身体はコデロのものである。うかつに触れられない。


「何を悩むのです、おやっさん。そういうことでしたら、ご自由に」

 おもむろに、コデロは服を脱ぎ出そうとする。


「ダメダメダメーッ!」

 ミレーヌが乱入し、コデロの服の乱れを正す。


「自分の身体は大切にしてよね、コデロ! 相手はヤモメなのよ! 油断してたら食べられちゃうわ!」


「食わねえよ! どんだけ女に飢えてるんだっての! 俺が愛するのはおっかあだけだ!」


 懸命な説得により、ボディチェックはミレーヌ担当になった。


 コデロは、コウガに変身し、棒立ちになる。


「よく見てなかったんだよなぁ。コウガの全身像って」

 ダニーが、コウガの纏う鎧を撫でる。


「何の金属だ? 見たことないぜ」


 続いて、ダニーは鎧のつなぎ目をくまなく調べた。


「もう、目つきがいやらしいわ!」

「うるっせえな! 細かく見ないと分からんだろうが!」


 ミレーヌに指示を出し、鎧のスキマに指を入れさせる。


「少しくすぐったいですね」

「優しくするから、ガマンしてね」


 鎧のインナーに、ミレーヌは指を滑らせた。


「素材は分からないけど、インナーは黒いわ。フルプレートメイルと同じような素材材じゃないかしら?」


 インナーを着ているのは、体感で知っていた。地肌ではない。つまり、まったく別の生命体になったのではなく、コウガはあくまでも外殻なのだ。


「よく伸びる素材ね。切り取れば、素材は分かるかしら。といっても、無理そう」


 ミレーヌが、インナーに包丁を突き立てる。

 インナーでさえ、刃物を通さない。素材は丈夫というより、柔軟だ。


「きつくない、コデロ?」

「いいえ、まったく」

 

 特殊な素材らしく、弾力があって通気性もいい。

 鎧のインナーより、遥かに優れた素材のようだ。


「簡易モードでも、同じ結果だろう。よし、もういいぜ」

 コウガは、変身を解く。


「どうだ、変身したら消耗したか?」

「特には」

「よし、次は外でチェックだな」


 外でトレーニングをいう段階で、ミレーヌが声をかけてきた。


「待って二人とも。はい」

 ミレーヌは、ランチカゴをコデロに持たせる。


「これは?」

「お弁当。サンドイッチが入ってるわ。本当は、コーヒーもあるとよかったんだけど」


 ランチカゴから、パンのいい香りが漂う。


「ありがとうミレーヌ。楽しみです」

「気をつけて行ってらっしゃい」


 コデロが弁当箱を受け取ると、ダニーがクスリと茶化すように笑う。


「随分と色気づいたな」

「もう、おちょくらないで! コデロ、お父さんの分も食べちゃっていいからね!」


 微笑ましい親子のやりとりに、コデロは思わず吹き出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る