川落ちは生存フラグ

「余計なことを! 今は逃げる方が得策なのではないのですか!?」


 コーデリアの理屈は理解できた。

 しかし、見過ごすわけにはいかない。


『この子たちは、逃げられないんだ!』


 我々が守ってやらなければ。

 コーデリアだって分かってはいるはず。

 

 牢獄の錠を破壊し、扉をこじ開ける。

 同時に、馬車に取り付いている戦闘員たちを蹴散らした。


『逃げるんだ。早く!』

 コウガは先導し、人々を逃がす。



『冒険者よ、ココはオレに任せろ。お前たちは、避難民の保護をよろしく頼む!』


「引き受けた! こっちだ!」

 住民の避難を、冒険者や兵隊に引き継いだ。コウガとなったリュートは、オークと対峙する。


「こしゃくな。全身鎧の女に何ができるってんだ!」

 棍棒を振り回し、怪人はコウガを叩き潰そうとした。


『トゥア!』


 コウガは棍棒を受け止める。


 だが、思っている以上にパワーが出ない。

 まだ、身体がベルトに馴染んでいないのだ。


『うおっ。万全なら、これしき』

 川の手すりまで追い詰められてしまう。


「さっきの威勢はどうした? そうら!」


『わあああ!』

 


 オークに振り回され、城の壁に叩き付けられた。

 デヴィランの兵隊たちに取り囲まれる。


『こんなところで捕まるオレではないぞ! トゥア!』

 ひとっ飛びで、コウガは城壁のてっぺんに降り立った。城壁の後ろを見る。


 城の向こうは、深そうな湖だ。この城一帯が、巨大な湖の上に立っている。


「もう逃げられんぞ、曲者!」

 イノシシ怪人が、コウガを追い詰める。


「とどめ!」

 棍棒を振り回し、イノシシ怪人が跳躍した。


『最後の力を振り絞る。せめてこの怪人さえ潰せれば、あとは戦闘員だけだ』


 同じように、コウガも跳躍する。


『せいやー!』

 イノシシ怪人の胸部に、キックを見舞った。


「ぬお!?」

 必殺の蹴りを浴びても、イノシシ怪人は堪えている。


『仕留めきれなかったか!』


 とはいえ、イノシシ怪人は血を吐いていた。

 かろうじて、大ダメージを与えたらしい。


「おのれぇ! 必ず殺してやる! 覚えていろ!」

 子分に肩を借りて、怪人が逃げていく。


 だが、残った戦闘員たちは諦めていない。コウガを捕らえようと集まってきた。


 コウガの変身も解けかかっている。こうなれば。


『諸君、また会おう! トゥアーッ!』

 コウガはそのまま湖へダイブした。落下し、変身が解ける。


「どうなちゃうんです!?」


『別にどうもしない。平気だ。ヒーローにとって、水場に落ちるのは生存フラグだからな!』


「死にかけてるんですけどおおおおおお!?」


 だが、高速で泳ぎ、そのまま身体を水に紛れさせた。


 湖に繋がる川の流れに沿って、進んでいく。


 川が深くてよかった。浅ければ、見つかっていただろう。


 城と大陸を繋ぐ石橋の上では、オーク怪人が「探せ」と必死になって部下に探索させている。


「このままどうなさるおつもりで?」

『川を下る』

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