一般的なフィクションでは、『<エンディガ>という怪物を意図的に作り出して人口の調節なんてことを目論んだかつての<管理者>達とその子孫と思しき王族を断罪して罪もない人々を救う』のが王道だろうね

一般的なフィクションでは、『<エンディガ>という怪物を意図的に作り出して人口の調節なんてことを目論んだかつての<管理者>達とその子孫と思しき王族を断罪して罪もない人々を救う』のが王道だろうね。


だけど、彼女はロボットであるからこそ、割り切った考え方ができてしまう。


彼女自身の計算でも、現時点でのルビアートで確保できるリソースでは、


<エンディガによる人的被害>


も計上しないと社会が成立しないという結果が出てる。エンディガに殺されるであろう人がすべて助かってしまうことによる人口増加に、今のルビアートの社会基盤が耐えられないんだ。


しかも、エンディガを絶滅させれば、エンディガそのものから得られるリソースも失われることになる。


『エンディガさえいなくなれば人間はさらに多くの農地とかを確保できて豊かになるはずだ』


と考える人もいるだろうけど、それまで<ただの原野>だったものを農地として開発するには大変な時間が掛かる。人口増加とのバランスが取れないんだ。


そうなると当然、飢餓が起こる。飢餓が起これば食料の奪い合いが起こる。それによって多くの人間が犠牲になる。


結果、今度は人間同士で憎しみ合うことになる。


これまでは<エンディガという外敵>がいたことで一致団結できていたのが、


<人間こそが敵>


ということになる。


それじゃ、何をやってるのか分からないよね? 


『同じ被害が出るならエンディガによるそれの方が』


彼女はロボットならではの冷淡なまでの合理性でその結論に至る。


彼女に搭載された超高性能AIによる計算は、結果として、王族がこれまで連綿と続けてきたシステムこそがルビアートにとっては必要なものであるとはじき出しちゃうんだ。


だからこそ、ルビアートは今日まで存続できたっていう現実を。


そして彼女は、自身に残された時間を使って、少しばかりエンディガの勢力圏を押し退けて、<ルビアートの土地>を広げ、将来、農地として活かせる場所を確保することで、今よりも少しだけ多くの人間が無理なく生きていけるリソースが確保できる可能性を高めるんだ。


この頃にはもう、彼女の<自己再生用ナノマシン>はほぼ尽きて日を追うごとに機能が低下。遂には人間よりも弱くなってしまって……


そんな彼女を、慕ってた女の子達が、支えて……


『人間を支えるのが役目であるはずの私が、こうして人間達に支えられる……


本末転倒とは、まさにこのことですね……』


彼女はそう思いつつも、女の子達は、自分達のために死力を尽くしてくれた彼女を支えられることが嬉しくて……


<決死隊>に参加していた二人も、甲斐甲斐しく彼女の世話をしてくれて。


こうしてみんなに看取られながら、彼女は静かに機能を停止するんだ。


結局、彼女がどうしてここに来ることになったのかは、分からずじまいだった。


でも、そんなことはどうでもいいんだよね。


だってさ、人間だって完全に目的が決められててその通りに生きられることなんてまずないじゃん?


彼女もつまりそういうことなんだよ。


『自分がなぜここにいるのか分からなくても、自分に何ができるのかは分かる』


ってことでさ。


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