50話
「おうおう、【燕】んところにも酒豪がおるやん!」
「がっはっは!酒と言えば人生!人生と言えば酒よ!それにしてもまさかいやはや。伝説の酒造者、【桜印】がこんなところにおるとは思わんかったわ!これは酒飲み連中への自慢になるわい!」
「ウチに会ったくらいで自慢にならんやろ~、これくらい飲まんとなぁ!」
「お、おお!これが伝説の【桜印】!まさか本物に出会えるとは!」
「たぶん前に市場に流れたもんより上等やから……ぶっ飛ばんようになぁ……?」
生唾をごくりと飲み込む、世間一般で語られるドワーフのような姿をした男性プレイヤー。ハナミさんなんかすごい仲良くなってません?今回レイドバトルしに来たのわかってます?酒飲みに来たんじゃないんですよ。ほら、リーシュ君がすごい所在なさげにしているじゃないですか。こっち来ます?
「コマにぃよかったよ~、ハナミって無駄にコミュ力高いからこういう時すぐコミュニティ作っちゃうんだよね……」
「僕はリーシュ君もそのタイプかと思ってたんですけど違うんですね」
「一対一とか、二か三くらいまではいいんだけどそれ以上になっちゃうと……」
「僕も友達多いわけじゃないんでわかりますけど……ああ、なんか話始まるらしいですよ」
露骨に安心しだしたリーシュ君を近くに呼び、少しすると結局代表に決まったらしい暴風さんから話が始まる。後ろで一応オネーチャンさんが控えているが、我らがリーシャさんは隅の方から傍観している。
「あー、お集りいただきー……ってのはガラじゃねぇから手短に話すぞ。今回やるのはわかってると思うがレイドバトルだ」
まぁ長い挨拶する姿とかは想像できないけど、大勢の前でもあんな感じなんだなあの人。
「初心者で参加してるやつは少ねぇと思うが、レイドバトルってのは本来の六人パーティーやら四人パーティーやらよりも多い、大規模なパーティーで挑むクエストだ。今回はクエストの限界、合計三十二人に出席してもらってる」
そんなにいたんだこのお店の中。僕たち四人を覗いたらあと二十八人か。
「内訳としちゃウチのクランから八人、wikiのところから二十人、んで俺が個人的に呼ばせてもらった干支んところから四人だ。ただしこっちは遊撃に努めてもらう、俺も扱いがよくわからん」
暴風さんが僕らの方をさすと一斉にこちらに視線が向く。ああ、どうも。
僕は軽く会釈をするがリーシュ君は注目されていることに慣れていないのかがちがちに緊張しながら深々と頭を下げた。見た目は少年なので、少し視線に温かさが混じったのは幸いか。
「まず初めにプランからだ。事前に資料を配らせてもらったが……俺は詳しくは覚えてねぇ。オネーチャン、頼んだ」
「え~、引き継ぎましたオネーチャンです~、よろしくね~」
席に控えていた男性陣からうおおおおと歓声が沸く。人気だなぁ。ちなみにプレイヤーは女性のはずのリーシュ君も一緒に声をあげていた。RPなのか素なのかよくわからない。
「今回は私たちのクランだけでは戦力が足りないってことで~、この前のPK討伐の時にも協力いただいた『燕の暴風』さん、PK討伐の時になぜか戦闘になった『十二支』の人たちに来ていただきました~」
PK討伐という名目で来てあの時いたのが僕とミヅキ先輩だったので、間違いではないけど。僕も実質PKだったし。許してもらえたけど。
「まず討伐対象の竜騎士が出現した段階でフィールド内から出れなくなります~。最初のプランとしてはメインタンクと魔法・弓職で隊列を組んで攻撃ですね~。ここは普通の飛行型ボスと同じ戦い方でいいと思います~。一応遠距離攻撃を持っている人は隊列に加わってください~」
第一フェーズは確か上空からブレスと魔法で地上を焼き払ってくるんだっけ。ここで僕の出番はなさそうだな。
「ボクは何かやれるとしたらここだけかな?」
リーシュ君がボソッと呟くけど、リーシュ君も一応遠距離戦できるんだ。まさかタンクってわけはないだろうし。生産職ならDEXとかに振ってそうだし弓とか使えるのかな?そういえばこのクラン弓士いない気がするし。
「一応シャーは弓使うよ。戦闘してるの見たことないけど」
ウチのクラン前衛少なすぎでは?ギリギリやれるとしても回避盾が僕とミヅキ先輩の二人で、ハナミさんが前衛召喚士。タンクいないの珍しい気がする。
「ウチの情報班が集められたのは次のフェーズ、つまりここまでなんですけど~ここから竜騎士がチャージしたり分離して竜が独自に攻撃したりと色々大変ですね~、今回のプランとしてはとにかく竜にフォーカスして~」
まぁ分離するということはばらばらに倒せるのだろうし、それならドラゴンから倒すよね。機動力だし、空を飛ぶのもこいつが原因だし。
「次に竜がいなくなった騎士が何をするかはわかりませんが~、一応人型モンスター想定ですので~、無難に正面にタンク、回復中はサブタンクがスイッチ、横から前衛の攻撃職がダメージ出して~、後衛が回復や援護射撃の定番戦術でいいと思います~」
僕は前衛のダメージ職扱いでいいのかな。遊撃という扱いだから好きに動いていいってことだろうけど、せっかくの合同討伐だし周りに合わせて動きたいもんね。ハナミさんも……あの人話聞いてるのかな、まだお酒飲んでるけど。後でちゃんと確認しておこう。
「じゃあ大規模パーティーを組むので~、燕の暴風と十二支の人たちはウチのクランのクエスト条件を満たしてる人とパーティー組んでもらいますね~」
そんな好きな人とペア作って~みたいな。
◇
「よよよよよ、よろしくお願いしままま」
「んな緊張せんとええんちゃう?」
何の因果か、もしくはオネーチャンさんがそう采配したのかわからないが、何故か僕たちとパーティーを組んでくれるwikiの人は僕がPKクランの根城でPKしてしまった人だった。ハナミさんはそれを知らないのか、めちゃくちゃ緊張している謎のプレイヤーと認識しているが。
「あの、その、わ、私」
「そこまで怯えなくても……」
「ひっ!」
僕が落ち着かせようと話しかけるとフードを目深に被り視線から隠れる。いや、隠れられてないですし、僕そんないきなり殺しにかかったりしないですから。
さすがに不振に思ったらしいハナミさんがこっそりとクランチャットで話しかけてくる。
【クランチャット】
ハナミ:コマイヌ君何したん?
コマイヌ:ミヅキ先輩とPK倒してたときにうっかり瞬殺してしまって……そこからずっと怯えられているみたいで。何とかならないですかね?
リーシュ:あー、それはコマにぃが悪いかも
リーシャ:女性プレイヤーを怯えさせるのは重罪ですよ
リーシュ:シャーは時々気持ち悪いことになるよね……
ハナミ:年上好きが露骨やねんな。コマイヌ君もこんな感じで行ってみぃ?
とりとめもない雑談になってしまった。この人たち何の参考にもならねぇ。
店を出てクエストの位置へ向かうのだが、僕らのパーティーが最後尾なのも相まってめちゃくちゃ空気が悪い。前方からなんかあいつらだけ空気暗くね…?とか思われてそうなほどだ。
「まぁ、コマイヌ君が怯えられててもウチらはあんまり関係あらへんか」
「そういえばそうですね。よろしくお願いします」
「え?え、えと。はい!【アカリ】って言います!よろしくお願いします!」
「アカリねぇか、よろしくね~」
参考にならないどころか僕をハブいて仲良くなろうとしていないだろうか。気のせいかアカリさんも僕を前にしているときよりも堂々と話している気がするし。
……一応フレンド申請しておこう。
フレンド申請して数秒して、おそらくメニューパネルを操作したのだろう。そして僕からのフレンド申請に気づいたのか、唐突にフードを被りまた震えだす。え、そこまで、と思ったがフレンド申請は一応受理される。
社交辞令……脅し……いや、これは相手からの歩み寄りに違いない。そう信じよう。僕は決して威圧なんかしていない。
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