37話

「つまりこれは花を引き抜いて道を確定させろと……」


「たぶんそういうことではないですねー」


つまり僕の花を引き抜く行為は完全に地雷だったと……?まぁそんな気はしていたけど。そもそも罠とかも普通に踏み抜くしダンジョン探索向いてないのかな。少なくとも地図士と盗賊役には慣れそうにもない。やっぱりAGI振りの軽装戦士かな!


「たぶん結構古典的なダンジョンだね」


「と、言いますとー?」


「正解の道、というか花の色を覚えて分かれ道を進めって感じかな?」


まぁそんな感じですよね。で、こういうのが覚えられない僕みたいな脳筋タイプは花を引き抜いて道を確定させろと。


分かれ道が一つ塞がったので今回は特に何も考えずに進む。というか僕に関してはマッピングもしないし罠を気を付けることもしないのでほとんどの負担がボタンさんだ。


「ボタンさん平気ですかー?」


「戦闘ではあんまり役に立てないし、こういうところで頑張らなきゃね」


この人の苦労性なのは根の部分なんだろうな。戦闘でも回復してるし、攻撃の届かない位置にポジショニングしてるし。役に立ててないってことはないと思うけど。


「あの、なんだったらもう対処法わかったんで花引き抜きまくっても平気ですよ」


「たぶんここってまだ上層というか、序盤なのよね、だから出来る限り戦闘は避けていきたいかなって」


「序盤なんですかー?」


「だってまだギミックで出てきたモンスターしかいないでしょ?罠も基本矢とかだけだし」


そういえばモンスターが星の力で〜とか言う話だったのにモンスター出てないな。


今更だけどこういう道に迷わせるギミックあるならエルフの人に道順聞いておけばよかったのではないだろうか。


……まぁ、過ぎたことを言ってもしょうがないので先へ進もう。モンスターいないかなー、活躍したいなー。



《スラッシュ》、顔の後ろを反射させてトドメに《クロスカット》と……もう蔦巨人は慣れたものだな。


「なんやかんや時間かかったね……」


「そうですねー、まさか青色の花がその場で待機って意味だとは……」


道中の青い花だけよくわからなかったので、めんどくさがった僕が引き抜いてしまったのだが、分かれ道ではなく新しく道が出現するのを見てボタンさんが待機ということに気づいてくれたのだ。


そうして進んでいった最後の階段前には蔦巨人が構えていた。一応一回は戦ってほしいという運営のアレだろう。たぶんほとんどのプレイヤーは攻略情報出たら花抜かないし。


「れっつごーコマイヌ君」


「いえーい」


ワンダードリームさんが気の抜けた声で枕を振りながら応援してくれたので、気の抜けた返事で突撃する。数回戦った感じでもう戦い方はわかったけど。


まずは右腕を切り離す。左腕でもいいけど。そうするとヘイトが一気にこちらに向くので、その間に後衛の人に援護射撃を飛ばしてもらう。その際高威力の魔法で目や頭の花を直撃させられればそのまま発狂モードに入るので速度でかく乱。

援護射撃がまだ直撃するようならそのまま避けタンクに徹し、ヘイトが後衛に向くようならジャンプ。


ちなみに頭を狙う際空中戦ができると一気に簡単になります、具体的に言うと≪飛燕≫、≪クロスカット≫、≪バッシュ≫、≪ステップ≫を組み合わせて空中で切り刻むことです。


≪クロスカット≫がいいよね。二回切りつけるまでが一定の動作扱いだから何故かそこに静止力というか、一瞬重力の力を弱くさせるのが。


「たぶんですけどー、一般人は空中戦しないかと思うんですよー」


いやいや。たぶんやり方わかれば誰でもできると思うんですよ。そもそも最初は≪スラッシュ≫もみんな縦でしかできない中、横とか斜めとか反対向きできるようになったみたいだし。いずれみんなも二刀流使えば空中戦できるようになると信じている。


だって僕しか使わないでなんかズルとか思われたら嫌だし。弱体化されてもいいけど使いものにならなくなったらもっと嫌だし。


「はぁー、やっと階段あったね」


「これでやっと一階終了ですー。結構広いですねー」


「たぶんこのタイプならあんまり深くはないんじゃないかな」


「だといいですねー」



階段を下ると先ほどまでと違い、壁や地面に草が生え、苔むし、鬱蒼とした森の中のような雰囲気を醸し出していた。僕このゲーム始めてから森の中来すぎでは?


「うえー、なんかジメジメしてる気がするー……」


「VRMMOなんだから気のせいだよ」


「いやこのゲームなら最悪湿度とかでダメージ判定に影響とか出そうですー……」


ありそう。無駄に科学的な根拠を使ったりして。父さんならそういうことやりそうだし。


「で、この階には何があるんですかー?」


「まだわからないけど、植物型モンスターが潜んでたりしたらわからないかもね。罠も草とかで隠されてるかも。警戒して進んでこっか」


あれ、僕らモンスターとか罠とか警戒してたことありましたっけ……と思ったけどボタンさんは警戒してくれていたのか。

もしかして僕とワンダードリームさんって似てるのかな。寝たきりのところと寝たがりのところとか。って誰が寝たきりじゃーい、体調がいい日は外は出とるわーい。


「ってコマ君!前!前!」


「え?」


考え事をしながら歩いていると前の茂みに突っ込んでしまった。森の中っていうより、ジャングルだな。

そういえば体を制御できなかったわけではないといえ、どこかに突っ込んで転ぶの久しぶりだな……って、うん?なんだこの蔦?


【メガプラント】


わぁお。敵だぁ。

そう思った時には蔦で足を引っ張られ、空中へと運ばれる。


「コマくーん!」


「わぁ、コマイヌ君が触手物みたいなことになってますよ。スクショ取っておこ」


あのワンダードリームさん?触手物がよくわからないですけど助けていただけると。

いや別に驚いたけどこれくらい別に自力で抜け出せるか。体と足、腕をぐるぐる巻きに縛られているみたいだけど縛られている箇所がちょうど【素兎しろうさぎ】に守られてる部分だし。


両腕、腰、足の全てに刃を展開。一つずつ展開するのでどれも短く攻撃には向かないが、剃刀のように蔦を少しずつ引きちぎっていく。

力が入りやすい分腕の拘束が解けるのが早く、最初に解放された。腕の拘束が解ければあとは不安定な体勢でスキルを撃つのなんて慣れたもので、足、腰と拘束を解いていく。


地面に着地し、改めて相手の姿を見ると先ほどの蔦巨人とは違い、なんというか、豚とかみたいな胴体が太い動物を二足歩行にして、背中にうねうね動く蔦を付けたモンスター?はっきり言って背中が気色悪い。


「うえー、気持ち悪いですー」


「コマ君が前衛してくれてるんだから私たちは援護するよ!」


そう言って先ほど同様地面をぬかるみに変えたり、回復やバフを飛ばしてくれる。

確かに動きは制限することができるが相手のメインの攻撃方法は背中の蔦なのであまり意味がない気がする。ただ別に視界内から飛んでくるなら全部切れるな。たぶん蔦じゃなくて本体殴れば普通に倒せるかな?と接近しようとすると後ろから気配を感じる。


「あ、ボタンさん、ワンダードリームさん、後ろです」


「え?あ、キャッ!」


背後から近づくもう一匹には気づかなかった。ワンダードリームさんはちゃっかり蔦攻撃を回避しているが……あれ?さっき蔦巨人の攻撃を避けなかったのは本当にダメージなさそうだったからなのか。


「おおー、見てくださいコマイヌ君。ボタンさんが捕まってると本当にえっちなやつっぽいですよ」


「十八歳未満なのでそういうの見たことないからわかんないですけど、早く助けたほうがいいんじゃないかなーって」


あの人ヒーラーだけど。助けてあげなくていいのかな。ワンダードリームさんってなんかフワフワしててよくわからないんだよなぁ。


「ボタンさんはああ見えてリーシャさんが丹念込めたアイテムと装備持ってるんで硬いんですよね、だからスクショ取っておきましょう」


「それ別に外に持ち出せないですし何のために撮ってるんですか……?」


「多分今のところネタバレ防止とかでスクショ禁止とかにしてると思うんですけどー、いずれ配信業とかデザイン勢のために解禁されると思うんですよねー。今も一部のインフルエンサー相手はスクショを乗せるのとか開放されてますしー、そのために撮っておこうかなーとー」


めっちゃ考えてた。とりあえず僕は助けに行きますけどいいですかね?いいですか。おっけーです。


しかし背中蔦は意外と知能が高いらしく、僕が近づこうとするとボタンさんを高く掲げ救出できない位置へ置く。


「ボタンさんはそこから抜け出す方法持ってたりとか」


「ないよ!いくらうちのクランとはいえみんながみんなコマ君みたいな装備してるわけじゃないから!というかドリちゃん!スキル使えば助けられるでしょ!」


「えー……まぁいいですけどー……」


そういうとワンダードリームさんが魔法を二匹の下に展開する。それでは別にいつも通りでは……と思っていると枕を抱きかかえる。


【 Action Skill : 《 羊が一匹》 】


ワンダードリームさんのスキルログが表示されるとどこからか羊の木の抜けた、め~という鳴き声が聞こえる。スキルが発動した割には変化がないと思って辺りを見渡すと相手の足元、ぬかるみに代わっていた部分がもこもことした毛で覆われている。背中蔦モンスターはそこで抵抗するようにもがくが、だんだんと瞼を閉じていき、最後には静かに横たわっていった。


え、終わった。いやポリゴン化してないし、まだ倒してはいないのか。


「眠らせただけですよー」


「ドリちゃんさっきもやらなかったし……もう、最初からやってよね」


「植物型モンスターに聞くかわからなかったのですよー、今回は下の変な生き物がメインっぽかったのでやりましたけどー」


ワンダードリームさんはなんかイメージ通りというか、特殊デバフの眠りというのを相手に付与するのが得意なデバッファーらしい。自分が眠るだけではなく相手を眠らせるとは。何気に強くないだろうかそのスキル。対人戦だと無双できそう。


「レジストも結構されちゃんですけどー、うーん。説明めんどくさいですー子のスキルー」


「うーん、私もよくわかってないんだけど、ドリちゃんがいると多数対多数の戦いは強いよー、ってことだけ覚えておけば平気だよ」


まぁミヅキ先輩も正直何してるかいまだにわからないし、二人からしたら僕も何してるかわからないみたいだし。このゲームそういうことなんだろうな。


「スキル取れればマネできるので夢とミヅキちゃん、コマイヌ君を比べないでほしいのですよー」


「まぁ、コマイヌ君はミヅちゃんとかハナちゃんよりかもね……」


あんな人たちと一緒にしないでほしい。



ワンダードリームさんが真面目にやってくれるようになってからの戦闘は簡単だった。二階からは罠少な目、植物に擬態したモンスター多めという階層らしく、だいたい僕が遭遇、先制攻撃から離脱、そしてワンダードリームさんが眠らせる僕が最大火力で止めを刺すという行動を繰り返すだけだ。なんなら一階よりも楽な気がする。僕にあってるからかな。


「さて、二階はこれで終わりみたいですねー」


「思ったより早かったね。この階こそ本当になんもしてない気がしちゃうよ……」


いやいや、ボタンさんいないとたぶん僕だったらもっと彷徨っていたと思うので。

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