第260話「終業の時間」
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◇ななしの調査隊員
サカオ組到着したってよ
◇ななしの調査隊員
キヨウも到着したみたいだ
◇ななしの調査隊員
あとはウェイドだけか
◇ななしの調査隊員
ウェイド到着しました
◇ななしの調査隊員
ほぼ同時刻に三都市ともゴールって凄いな
◇ななしの調査隊員
すげえ僅差だな
ボーナスどこにつくんだろ
◇ななしの調査隊員
ボーナスはサカオみたいだな
◇ななしの調査隊員
アストラ達か
さすがというかなんというか、特に驚きもないな
◇ななしの調査隊員
順当
◇ななしの調査隊員
ただあそこは蜘蛛に生産職乗せてなかったからな
起点設営フェーズは出遅れそうだ
◇ななしの調査隊員
え、これウェイド組っておっさん?
◇ななしの調査隊員
白鹿庵だよ
テント飛ばしたところ
◇ななしの調査隊員
あそこ戦闘職何人いたよ
◇ななしの調査隊員
うさぎ、侍、忍者、魔法少女、格闘家の五人?
◇ななしの調査隊員
一応おっさんも戦えるはず。
槍持ってるしDAFも積んでたろ。
◇ななしの調査隊員
にしても六人で攻略できるもんなのか?
◇ななしの調査隊員
崖際で待ってたら針の雨が下から登ってきたり、攻略完了直前には黒い雷が落ちてきたりしてたからなぁ
◇ななしの調査隊員
ええ・・・
◇ななしの調査隊員
なんだそれ
◇ななしの調査隊員
アーツかね?
◇ななしの調査隊員
そんなアーツあったかなぁ
◇ななしの調査隊員
おっさんとこって生産職も何人か乗せてなかった?
◇ななしの調査隊員
姉御とタンガンとクロウリとムラサメ乗せてた
◇ななしの調査隊員
ガチ生産職じゃねーか
◇ななしの調査隊員
人脈もやばいけど、その四人守りながら進めるのもやばいよ
◇ななしの調査隊員
ガチタンクパーティがやられたのに
どうやって護衛したんだろ
◇ななしの調査隊員
俺も野営上げるかな・・・
◇ななしの調査隊員
ほぼ一人で特定スキルの株を爆上げさせてるおっさん
もしかしてやばいのでは
◇ななしの調査隊員
今頃かよ
◇ななしの調査隊員
ウェイド組、起点設営フェーズ第一段階終了
◇ななしの調査隊員
はえーよ
◇ななしの調査隊員
はやすぎ
◇ななしの調査隊員
ええ・・・
◇ななしの調査隊員
まだ降下フェーズ終わって30分も経ってないぞ
◇ななしの調査隊員
降下フェーズそろそろ終わったかと思って確認に来たら起点設営フェーズ終わってて意味が分からないのだが
◇ななしの調査隊員
起点設営は何段階かあるみたいだからまだわからないよ
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『“降下フェーズ”完了が確認されました』
『現時刻より“起点設営フェーズ”を開始します』
貪食のレヴァーレンがミカゲの鮮やかな手腕によって斃された後、俺がその巨体をなんとか解体して大量の素材に変えた所でそんなアナウンスが“飛蜘蛛”から発された。
何が始まるのかと視線を向けると、蜘蛛の腹が開き中から建材が現れた。
「これは?」
「領域設定用のマーカーと、標準マシンセル、簡易ネットワーク接続端末、あとは大型ブループリント・データカートリッジ。起点設営スターターセットですね」
地面にアイテムを並べながらトーカが言う。
「つまりこの設計図に従ってこのあたりに拠点を作ればいいのね」
「そういうことなら、ここからはワシらの出番じゃな」
それを見て生産者たちが俄にやる気を出し始める。
しかし当然、“飛蜘蛛”の中に納められていた建材だけでは要求された起点を建てるには到底足りない。
「〈採掘〉と〈伐採〉は持ってるけど、このあたりに採集オブジェクトはあるのかしらね」
「簡易保管庫に使いそうな素材は入れてきてるぞ」
蜘蛛の背中、テントの中に並べた簡易保管庫の中には鋼材、石材、木材、機械部品などの素材類を入れてある。
道中の“飛蜘蛛”補修用だったが、余ったのなら建材として流用してもいい。
「……これだけあれば足りそうだな」
「ふん。なら早いこと取りかかろうぜ」
保管庫の中身を見たクロウリが頷き、ムラサメが早速建材を取り出し始める。
「それじゃ、レティたちは少し周囲を回ってきますね」
「ああ。気をつけてな」
このフェーズでは特にやることもないレティたちは武器を担いで森の霧に消えていく。
周囲の原生生物を警戒してくれるおかげで、俺たちは起点設営に専念できる。
「基本は鍛冶作業か機械組み立てになりそうね。これならすぐに終わりそうだわ」
設計図を確認したネヴァが言う。
ここにいる生産職は全員〈鍛冶〉も〈機械製作〉も習得しているため、作業ははかどりそうだ。
「う……」
ネヴァたちが作業に取りかかろうとした時、“飛蜘蛛”の甲板から呻き声が聞こえる。
振り向けばミカゲが額を抑えてよろりと半身を起こしていた。
「目が覚めたか」
「うん。……今、どんなかんじ?」
ミカゲは周囲を見渡しながら言う。
無事に“降下フェーズ”が終了し、次の段階に進んだことを伝えると、彼はほっと胸をなで下ろす。
「厄呪もかなり消えてる。もう、動ける」
「もう少し休んで良いぞ。どうせこっちのフェーズはネヴァたちの出番だしな」
「……一応、警戒だけしとく」
ミカゲはそう言って“飛蜘蛛”の縁に座る。
霧を透かす陽光を浴びてぼんやりとした表情をしているが、あれでも警戒しているのだろうか。
「しかし、さっきの攻撃は派手だったな」
簡易鍛冶場で鉄を打ちながらムラサメが言った。
二つの五芒星が回り、形代が歩き、黒い雷と槍がレヴァーレンを貫いた光景は、確かに見た目にも印象的な、大規模な攻撃だった。
「〈呪術〉スキルの、呪儀っていう系統の技。準備に時間が、掛かるけど、つよい」
言葉を選びながらミカゲが説明する。
「レヴァーレンの体内に、釘を刺して縄で纏めて、怨嗟を集める。それを照魔鏡で反転させて、結界の中で増幅させて、呪具を通して攻撃に使う」
「なるほど。さっぱり分からんな!」
快活に笑うムラサメ。
俺も十分に理解はできていないが、要は複数の呪具を組み合わせて〈罠〉スキルの“領域”と同じようなものを作ったと言うことか。
「前に言っていた“禁忌領域”タイプとは違うのか?」
「あれは、〈罠〉スキルの“領域”要素で呪儀を補強してるから。もっと準備が必要だけど、もっと強い。たぶん、“禁忌領域”タイプは、定点戦闘だと最強」
「断言するほどか……」
俺はまだ“禁忌領域”タイプの呪術師に会ったことがないから実感が湧かないが、ミカゲがそこまではっきりと言い切ることは稀だからこそ信憑性がある。
「呪儀系テクニックは、強力だけど、厄呪も大きい。ラピスラズリが、それをどう回避してるのか、分からない」
「ラピスラズリは……“禁忌領域”タイプのトップだったか」
記憶を掘り返して言うと彼は頷いた。
ミカゲの顔を覆っていた樹状の痣もようやく薄れこうして意識も戻ってきているが、厄呪の負荷というものは随分と大きいらしい。
「そういえば、その狩衣みたいな装備はどうしたんだ?」
気になっていたことを思い出し、ミカゲの服装について尋ねる。
レヴァーレンの腹から現れた彼はいつもの忍装束から真っ黒な狩衣へと装いを変えていた。
それを指摘すると、彼は少し俯いて答える。
「……ホタルに、作って貰った。これも、呪具の一種」
「ホタル?」
「知り合いの、呪具職人。呪杖とか、照魔鏡とか、僕の使ってる呪具は全部、その子に作って貰ってる」
以前話していた、キヨウに店を構えている呪具職人の名前だったらしい。
ミカゲが〈呪術〉スキル関連の掲示板スレッドで知り合い、以降はネヴァに代わって彼の呪具の製作を請け負っている生産者だ。
「なるほどねぇ。ふんふん」
「ネヴァ……」
途端に興味深げな眼を向けてくるネヴァに少し呆れる。
短期間とはいえ呪具を作っていただけに、好奇心を刺激されたらしい。
「呪具職人のホタルか。聞いたことはあるな」
作業中だったクロウリも手を止めて顔を上げる。
流石はトップバンドの長と言うべきか、隣のタンガン=スキーも聞き覚えはあるようだった。
「呪具ってのは結構マニアックでニッチな分野だからな。専門にしてる奴ってのは多かれ少なかれ目立つもんだ」
「ホタル印の呪具はなかなか出回らないらしいがの」
「ホタルは、人見知りだから。店も、ほとんど開いてないし」
タンガンの疑問にミカゲが答える。
一度くらい会ってみたいと思っていたが、そうなると少し難しいのかもしれない。
「呪具の要素を刀に流用できれば妖刀なんかも作れるのかと思って俺も調べてるが、あれはなかなか難しい」
「ムラサメがそう言うか。ならば相当なんじゃのう」
今は拠点の柱を作っているが、本来ムラサメは刀しか打たないことで有名な刀鍛冶だ。
そんな彼だからこそ新しい刀の可能性に注ぐ情熱は信頼できるし、その言葉も重い。
「呪術界隈はまだ分かってないことが多い。ホタルも、苦労してるみたい」
「なるほどなぁ。俺も諦めずに研究するかね」
大きな柱を完成させ、ムラサメは立ち上がる。
「これでパーツは全部できたな。あとは組み上げるだけだ」
話している間に全てのパーツが揃ってしまった。
早速ネヴァたちはマーカーを配置し、パーツを組み上げていく。
「これが起点か」
「まあ、最初はこんなもんなんだろう」
そうして出来上がったのは小さなコンテナだった。
ちょうど建材を2個使った俺の小屋と同じくらいのサイズで、中には中央制御塔にあるような端末が一つだけ置かれている。
コンテナの上部からは、崖の上に向かって真っ直ぐに伸びる赤い光線が放たれていた。
「随分簡素だな」
「設計図は本当に必要最低限だったからな。こっから後続が降りてきて少しずつ拡張していくんだろう」
煙草を吹かしながらクロウリが言う。
『“起点設営”フェーズ、第一段階完了が確認されました』
“飛蜘蛛”からのアナウンス。
これにより、ようやく俺たちの仕事は終わったのだった。
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Tips
◇呪儀
複数の呪具を使用し強力な呪いを発する大がかりな呪術。様々な欠陥や弱点が存在するが、それを補ってあまりある凶悪な呪いを生み出す。複数人の呪術師が協力することも可能で、人数に比例して呪いの規模は拡大し性質も複雑化するだろう。
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