第54話「源石の使い道」
_/_/_/_/_/
◇ななしの調査隊員
水蛇の湖沼のボスが倒されたってよ
◇ななしの調査隊員
ククク、奴は我ら第二フィールドボス四天王の中でも・・・最弱か最強かすら分からんな
◇ななしの調査隊員
他のフィールドのボスまだ見つかってすらないからね
◇ななしの調査隊員
ていうか胡椒のボスも発見報告なかったろ
◇ななしの調査隊員
噂じゃあ初見撃破したらしいぞ。四人パーティらしい。
◇ななしの調査隊員
どこの噂だよ・・・
攻略班が血海鼠になって探してるのに見つかってないのに
◇ななしの調査隊員
俺は海鼠だった・・・?
◇ななしの調査隊員
もう湖沼スレの方には詳細も上がってるな。
名前は隠遁のラピス。三つ首の蛇らしい。
[ぬまのぼす.pict]
◇ななしの調査隊員
なんだぁこれは・・・
◇ななしの調査隊員
これ足下にいるうさみみの子プレイヤーだよな? でか杉内?
◇ななしの調査隊員
中央の沼地の底にある横穴の奥にいたらしい
◇ななしの調査隊員
分かるかそんなん!!!!
◇ななしの調査隊員
むしろなんで発見できたし
◇ななしの調査隊員
そらレーダーにも反応ないわけだわ・・・
ていうかほんとよく見つけたな。河童でもいたか?
◇ななしの調査隊員
ちなみに赤い目したやつが防御力つよつよ、青い目がアーツ耐性つよつよ
金色のは石化させてくるらしい
◇ななしの調査隊員
石化 いず なに
◇ななしの調査隊員
新要素出し過ぎだろ・・・
◇ななしの調査隊員
これも勝たせる気ないのでは?
◇ななしの調査隊員
でも現に狩ってんだよな、このウサ耳の子のパーティー
◇ななしの調査隊員
湖沼散歩してたら物騒な輩がいっぱい来てるんだけどなんかあったの?
慌てて水ん中入ったらカエルに食われて死に戻ったんだけど
◇ななしの調査隊員
スレ読んで
◇ななしの調査隊員
なにやってんのこいつ・・・
_/_/_/_/_/
コーヒーカップを傾けつつ、次々に流れていく書き込みを読んで片笑みを浮かべる。
「どうかしましたか?」
隣に座り大きなあんみつの丼を抱えていたレティが何事かとこちらを見る。
あんみつの名前は長すぎて最初の一行あたりで覚えるのを放棄したが、安定の新天地クオリティだ。
「いや、雑談スレにもラピスの情報が流れてきてたからな」
「そういうことでしたか」
彼女は納得して頷き、再び巨大なスプーンを往復させる作業に戻る。
「〈水蛇の湖沼〉の攻略スレッドに情報上げたんだよね」
「ああ。撮影した写真とか、ドロップしたアイテムとか色々と」
「そのおかげで、今向こうは結構混雑してるみたいね」
対面するラクトとエイミーもそれぞれの飲み物を手のひらに包み、リラックスした様子で言う。
無事に〈水蛇の湖沼〉のボス、隠遁のラピスを倒すことができた俺たちは、沼の畔に現れたヤタガラスに乗ってスサノオに帰還した。
その前に一応、キャンプのあった場所を見に行ったのだが、案の定彼女たちが集め俺が解体したアイテムたちは消えてしまっていた。
「まあでもカルビに載せてた分はお金にできましたし」
「それに、ボスも倒せたからね」
少し肩を落としてしまったが、レティとラクトに慰められてしまう。
たしかにあれらのアイテムと引き換えにボスの初回撃破という快挙を手に入れたと考えれば悪くない。むしろ源石も一つ手に入れることができたのだから、トータルで見ればプラスだろう。
「そうだ。源石は本当に俺が貰って良いのか?」
「まだ言うんですか……」
「四人で話し合って決めたじゃないの」
インベントリから七色に光る石を取り出し、手のひらに載せる。
これはラピスから取れた源石だった。
手に入れてすぐに、誰が使うべきか議論したのだが、三人は俺に持っておけといい、多数決という強引な方法によって決まってしまった。俺としては、俺以外の誰かがいいと思うのだが……。
「どう考えても今回のMVPはレッジだもん」
ラクトが言うように、三人はこの意見を頑として譲らなかった。
そういえば俺はまだ炎帝のルボスの源石も使っていないな。
俺は基本的にキャンプ地に駐留している関係上、今のところあまり“勾玉”の性能を欲しいとは思っていないのだが。これ以上食い下がると本気で怒られそうなので、今のうちに二つとも使っておくことにする。
「速度と量、どっちがいいかね」
「アーツ使うなら速度だね」
「攻撃受けるなら量ね」
「どっちもバランス良く上げればいいのでは?」
軽い気持ちで意見を乞うと、いっそ清々しいほどにきっぱりと分かれた三者三様の答えが返ってくる。結局、自分で考えろと言うことだろう。
「ふむ……」
_/_/_/_/_/
◇ななしの調査隊員
急募)源石の使い道
_/_/_/_/_/
「なにスレ立てしてるんですか!」
「自分が必要と思った方上げればいいのよ」
「ぐええ……」
スプーンの柄で腕を絡め取られ、正面のエイミーに呆れられる。
泣く泣くスレッドの作成をキャンセルし、自分に何が必要かを考える。
「……まあ、LP量の拡大だろうなぁ」
分かりきっていたといえばそうだ。
そも、キャンプにいるのだから回復力は十分だと先ほど自分で結論を出したばかりだった。
「ほら、使ったよ」
「二つとも量ですか」
「まあ高レベル帯のテクニックが増えてきて、LP量は心許なかったからな」
俺のステータスを覗き込んでくるレティに見せて頷く。
彼女たちも異論は無いらしく、というよりあまり反応もなかった。
「三人の源石の配分は、それぞれさっき言ったとおりなのか?」
「そうですね。レティは被弾頻度もそこそこですが、大技も使うので」
「私は盾を破られたらLPで受けるしかないし」
「アーツは回復力が連射力になるからねぇ」
なるほど。やはり三人ともよく考えてるんだな。
スタイル的にはエイミーと同じだが、よく考えると彼女と俺とでは目的、理念が違うらしい。俺の場合は大技、LPを大量に使うテクニックを気兼ねなく使えるようにLP量の拡大を選んだが、彼女は敵からのダメージを盾で受け止めきれなかったときの緩衝材としての役割を重視している。それは、彼女が使う〈格闘〉スキルが比較的少ないLPでテクニックを連発できることとも関係しているのだろう。
「しかしまああれだな。源石は一銭にもならんことに今気付いた」
源石は自己の強化には使えるものの、それを他人に売れるかというとそこまでの需要は無さそうだ。戦闘系ビルドのプレイヤーは自分で集めるだろうし、生産者はそもそも初期値のLPでそれほど不自由していないらしいから。
「でも、ラピスの素材はネヴァさんに見せたら高く買い取って貰えそうですけど」
「ううーん、たしかにそうなんだが、それよりもコイツで武器か防具を作りたい気持ちもある」
「レッジさん、お金無いんですよね」
机に頬杖を突いて項垂れる俺を、レティが冷たい目で見下ろしてくる。
「確かにそうだが――。二週間後に第1回イベントもあるだろう?」
「そのための装備更新ですか。確かに必要かもしれませんね」
攻略も進み、町中にもファングシリーズはそれなりに散見されるようになってきた。そんな中で初めてのイベントで活躍しようと思うなら、装備の更新はかなり有効だろう。
なにせ、今のところラピスの素材を持っているのは俺たちだけなのだ。
「簒奪者のナイフを買っといて良かったよ。ボーナスがかなり付いたからな」
「レッジはほんと、家電みたいだよねぇ」
「家電?」
ラクトのよく分からない言葉に首を傾げる。
その場から全然動かないってことを遠回しに責められているのか?
「一家に一台欲しいくらい便利ってことよ」
「そういうことか。……そういうことなのか?」
エイミーに言われ、更に首を傾げる。
なんとなく言わんとしていることが分かるような、分からないような。
「何にせよ、お金不足は解決してないですし、人数分の源石も集めないとですし、これからも遠征は続けますよね」
いつの間にかバカみたいなあんみつをぺろりと完食したレティがパチンと手を打つ。
彼女の言っていることは的を射ているし、俺以外の二人も同意する。
とりあえず三人の強化は戦力の拡充に直結するし、源石集めは早急にこなさなければならないだろう。
「じゃあ、やることは変わらないか」
俺はステータス欄に並ぶスキルをぼんやりと眺め、そう呟いた。
_/_/_/_/_/
Tips
◇隠遁のラピス
〈水蛇の湖沼〉で悠久の時を生きる白燐の大蛇。三つ叉に枝分かれした頭を持つ奇形のスケイルサーペントとして生まれ落ちたが故に生存競争に負け、深い沼の底へ沈んだ。そこで見つけた洞窟の奥へ逃げ込んだ蛇は時折迷い込む雑魚や水虫を食べながらゆっくりと成長し、やがて強大な力を持つに至った。金眼が支配格であり、左右の赤眼と青眼は単純な思考しか行えない。
Now Loading...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます