第760話 秉燭夜遊

 琵琶湖に遊びに来た山城真田家一行であるが、その遊び場は「坂本城周辺」と限定している。

 権力者なので、琵琶湖全体を貸切ることも出来なくはない。

 それでもしないのは、民衆の生活に配慮しているからだ。

 護衛で来た明智光秀は、坂本城で旅行の再確認を行っていた。

「珠、若殿は徳勝寺には行かれるんだよな?」

「その予定です。15里(約60㎞)ありますが、牛車でゆっくり御移動される予定です」

 坂本城と徳勝寺は、大雑把に表現すれば琵琶湖の真反対に位置する。

「宿泊先は雄琴温泉でよかったよな?」

「はい。その間、風俗業は自主的に休業されるようですが」

「お待ち下さい」

 幸姫が手を挙げた。

「先ほど、若殿よりご指示を受けました。『営業は続けろ』と」

 夏休みの時期は観光客が来る分、雄琴温泉の風俗街は、いつも以上に忙しい。

 昼間は琵琶湖で、夜は雄琴温泉で遊ぶ、というのが、既定路線だろう。

 山城真田家が来たことで、風俗店が軒並み休業し、売り上げは下がり、利用客も残念がるのは、大河の本意ではない。

 その怒りがこちらに向けられる可能性もあるのだ。

「では、そのようにするか。”七本槍”」

「「「「「「「は」」」」」」」

・加藤清正

・福島正則

・加藤嘉明

・平野長泰

・脇坂安治

・糟屋武則

・片桐且元

 の7人は正座したまま、進み出た。

「雄琴温泉組合長の先ほどの件を伝えろ。もう一つ、営業中の警備も行え」

「「「「「「「は」」」」」」」

 大河が宿泊中に雄琴温泉で事件が起きれば、当然、朝顔、ヨハンナ、ラナの耳に入る。

 高貴な彼女たちの耳を、事件で汚したくない大河なりの報道規制だ。

「山内殿は引き続き後詰ごづめをお願いしたい」

「は」

 山内一豊は武装していた。

 反体制派は大河が秘密警察を使って弾圧したのだが、スターリン並の偏執病パラノイアがある為、決して気を抜くことはない。

「今回の休暇は、江戸より千様が元康様と来る。珠、今、お二人は?」

「駿府城(現・静岡県静岡市葵区)にて休憩中です。明後日には、坂本城に到着予定です」

 江戸城で過ごす2人は、今夏、大河と再会する予定だ。

 元々、里帰りは予定されていたのだが、丁度、4人が出産したこともあり、挨拶する理由も出来た。

「分かった」

 順調に計画が進んでいることに、光秀は満足気に首肯するのであった。


 琵琶湖では、山城真田家の観光が続いていた。

 皆、今夏流行りの水着で楽しんでいる。

「若殿、泳ぎましょうよ♡」

 マイクロビキニの阿国は、大河の腕に絡みつく。

「そうそう♡」

 同じようにするのは、松姫。

 一応、檀家だんかに見られる可能性もある為、上下が繋がったワンピース型の水着だ。

「おいおい、押すなよ」

 2人に背中を押され、大河は渋々、湖に入る。

 水温は、30度。

 冷たくも無く、熱くも無い丁度いい感じだろう。

 大河がやってきたことにより、女性陣はワッと集まる。

 布哇ハワイ王国出身のラナは体に自信あるらしく、スリングショット。 

 テンションが高い橋姫、璃子、ヨハンナ、マリア、稲姫はビキニ。

 お市、茶々、お初、お江は、Tバッグ。

 など、各々、好きなのを着ている。

 女性陣の中で最も露出が少ないのは朝顔だ。

 イスラム教徒ムスリムの女性が着るブルキニのように、顔と手足の先しか出ていない。

 上皇な分、過度な露出は私的プライベートいえども配慮しているのだろう。

 璃子が朝顔の手を取り、大河のそれと握らせる。

「璃子?」

「陛下、甘えちゃいましょう」

 悪乗りなような気もしないが、甘えたいのは事実だ。

 朝顔は、璃子を睨みつけつつ、大河の手をしっかりと握った。

「溺れさせたら許さないからね?」

「その気は全然無いよ」

 朝顔を肩車し、大河はズンズンと琵琶湖の奥に入っていくのであった。

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