第718話 噬指棄薪
前田家三姉妹が二条城に入り浸るようになった為、京都新城に平穏が訪れる。
「……平和だね」
「そうだね」
鶫と小太郎は微笑みあう。
三姉妹———特に豪姫と与免には悪いが、彼女たちの
昼夜を問わず、暴れたり泣いたりとすることから、2人の御守りである与祢や伊万は疲弊し、
「若殿はいつお帰りに?」
「陣頭指揮は殆ど終わっているから、引継ぎが終われば帰ってくるよ」
答えた鶫だが、暫く大河に会えていない為、その横顔は寂しげだ。
「……会いたいね?」
「会いたいいぇ
2人は大河を想いつつ、洗濯物を畳むのであった。
その頃、二条城では、
「……」
大河は議会から送られてきた提案書に渋面を浮かべていた。
その題名は『周山街道廃止案』。
山賊が出て治安が悪く、人が少ない周山街道を
「やっぱ予算の問題か?」
「はい……」
珠は元気なく頷いた。
「元々決まっていた整備に復興予算が上乗せされた為、『それに投じるのであれば他に
「……まぁな」
周山街道に
廃案を推す議員の気持ちはわからなくはない。
人通りが少ない道路を維持する必要があるのか?
遠回りになれど、もう一つの道があるのだからそちらを使えばいいのでは?
というのが、彼らの意見だ。
「……通りそうか?」
「恐らく……廃案反対派は、我が一族だけなので……」
伝統的に京北と付き合いが深い明智氏としては、この動きはあまり好ましくない。
ただでさえ過疎化が激しいのに、廃道になれば地域自体が
そうなれば、影響力が落ち、財政的にも悪い。
更に言えば、票も失いかねない。
「……若殿、どうにかできませんか?」
「公私混同になりかねないから俺にはどうにも出来ないよ」
「……」
「ごめんね」
謝りつつ、大河は珠を抱っこする。
「賛成派を説得し、民主的に廃案に追い込むしかないよ」
「……はい」
珠は落ち込むも大河が公私混同を嫌っている為、こればかりは仕方がない。
珠の頭を撫でつつ、
「貴方、帰る準備は出来た?」
お市が与免を抱っこしつつ、やってきた。
「もう終わってるから」
答えた後、珠の額に接吻する。
「あ♡」
甘い声の珠に、与免は、
「……あにうえんのいじわる」
不快感を露わにした。
「珠が落ち込んでるからね。慰めてるんだよ」
「たま、おちこんでるの?」
「ええ……まぁ……」
恥ずかしそうに珠は、肯定する。
「なら……ゆるす」
不承不承に与免は、納得した。
お市は微笑んで、隣に座った。
「私も疲れたから愛してね?」
「当然だよ」
肩を抱き寄せて、その頬に口づけ。
与免が居なければそのまま一戦交えそうな雰囲気だ。
「心愛に会いたいな」
「大丈夫よ。デイビッドたちと遊んでるし」
「う~ん。でも会いたい」
「
「親ばかだからな」
親ばかを自認する父親は、
大河は、珠の肩に顎を乗せて、片手でお市にベタベタ。
もう片方の手で、与免の頭を撫でる。
「あにうえ、おしごとはおわり?」
「うん。引継ぎが終わればね」
「……? なにもしてないようにみえるけど?」
「してるよ」
大河が顎で示すと、扉が開き甲斐姫が書類を持ってきた。
「引継ぎが済みました」
「おお、ありがとう」
書類を見て満足すると、大河は甲斐姫を横に座らせる。
「済まんな。引継ぎさせて?」
「いえいえ。仕事ですから」
別の業務をしていた甲斐姫だったのだが、大河が無理を承知で頼み、代行させたのだ。
「仕事した分、明日は職務免除でいいよ」
「ありがとうございます♡」
仕事をすれば働いた以上の休みが確実に貰える為、山城真田家で働く官僚の士気は高い。
甲斐姫とも接吻した後、大河は尋ねた。
「与免、摩阿と豪は?」
「直虎さまとおふろだよ」
「与免は行かなくていのか?」
「おふろよりあにうえがすき―――」
「清潔な女性が好きだな」
「おふろ、はいりゅ」
お市の膝から飛び出していく。
「こら、走らないの」
お市も慌てて、その後を追いかけていく。
血は繋がっていない2人だが、その様子は本当の母娘のようであった。
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