第644話 恋ノ冷戦
織田信孝が、大河と密会したのは、すぐに瓦版で報道された。
『【首相の謎の密会! 近衛大将に進退伺いの相談か?】
料亭は密室であり、女将も口が堅い為、内部から情報が洩れる可能性は少ない。
それでも『壁に耳あり障子に目あり』。
どれだけ情報統制しても、露見してしまうのはよくある話だ。
「昨日の外出はこれなの?」
チョコレートケーキを頬張りつつ、朝顔は尋ねた。
「そうだよ」
大河は、膝に松姫、稲姫、幸姫の3人を座られた状態で、チョコレート・クッキーを食べていた。
2月14日。
そう、今日は、バレンタインデーである。
朝から女性陣は、チョコレートを作り、家族会で披露しているのであった。
大河も
累や心愛、デイビッド、伊万や前田家三姉妹も仲良くチョコレート・ケーキを食べている。
「松、頬についてるよ」
「あ、マジですか?」
『マジ』は、現代の言葉と思う人々も居るが、実際には、江戸時代の天明元(1781)年の洒落本『にゃんのことだ』が初出とされている(*1)。
その為、意外と歴史があるのだ。
この世界線では、大河が時折、使う事を愛姫が注目し、物語の中の台詞で採用した所、瞬く間に流行語となり、松姫の様な一般人でも使用している。
「取るよ」
「あは♡」
接吻され、松姫は照れる。
大河が聖職者にも働き方改革を導入した為、以前程、松姫は忙しくない。
戦国時代、仇敵であった上杉謙信が子を産んだ為、武田家家臣団からも早期の妊娠を望む声は多い。
そういった事情から松姫は、積極的に大河と昼夜を問わずこの様に愛し合っていた。
「若殿、私にもして下さいよ」
稲姫が唇を尖らせた。
「稲も最近、積極的だな?」
「父が『孫を見せろ』と。千様が元康様を可愛がっているのを見て、父性が芽生えた様で」
「あぁ……」
江戸城での元康(3)の人気は凄まじい。
”日ノ本一の
早い内から英才教育を施され、
・亀姫(徳川家康長女 21歳 16歳の時に奥平信昌に嫁いだ)
・
・結城秀康(同次男 7歳)
・徳川秀忠(同三男 2歳)
・松平忠吉(同四男 1歳)
・
と兄弟や姉妹に囲まれ、すくすくと育っている。
護衛対象者の子供がそんな状態なのだから、本田忠勝が刺激されて、娘に発破をかけているのだろう。
「ま、そういうのは、
稲姫の額に接吻後、最後に幸姫の
「私は接吻じゃないんだ?」
「摩阿が見ているからな。流石に妹の前ではしないよ」
「あれだけ散々松姫と稲姫には出来たのに?」という突っ込みは飲み込んで、幸姫が大河の視線を追う。
その先には、豪姫、与免と共にチョコレートケーキを頬張る摩阿姫が。
然し、その視線は、時折こちらに向けられている。
距離は10m程なのだが、騒がしい為、御互いの会話は聞き取る事は出来ない。
「最近、摩阿の様子は?」
「私達の仲を気にしているみたい。年頃だからかもだけれども」
摩阿姫は、今年で8歳。
戦後の学制に当てはめれば、小学校2年生の
然し、名家・前田家に生まれた彼女は、立ち居振る舞いを見る限り、とても現代日本人と同じとは思い難い。
一方、豪姫、与免は年相応な感じだが。
相手によっては、教育方法が違うのだろう。
もしくは、幸姫が
そんな大人びた摩阿姫が2人の仲に興味津々なのは、当然の話だろう。
「……」
大河は、幸姫の肩に顎を乗せる。
そして、手招き。
「摩阿、ちょっと良いか?」
「! は~い♡」
「真田様、どうしました?」
「まぁまぁ」
笑顔でその頭を撫でる。
「なんです?」
「いや、幸と違って大人しいな、と」
「あ?」
幸姫が睨みつける。
然し、悲しい
業が深い事に大河は、美女に睨まれると興奮する
幸姫の頬に接吻すると、摩阿姫をその膝の上に座らせる。
幸姫を抱擁しつつ、大河は伊万の食事介助を受ける。
「若殿、どうぞ♡」
「有難う」
これだけチョコレートを摂ると、明日には口内炎が出来ているかもしれない。
伊万が囁く。
「(若殿、摩阿様の調理されたのは、お気を付け下さい。惚れ薬を入れてましたから)」
「(物騒だな。報告有難う)」
惚れ薬や媚薬等は、薬剤師が管理しているのだが、それでも拷問や人体実験等で使う為、正規の手続きさえ踏めば、山城真田家の人間であるならば誰でも簡単に入手する事が出来る。
尤も、相手が子供の場合は、流石に薬剤師の判断で許可が下りない。
今回の場合は、恐らく芳春院辺りが差し金だろう。
芳春院は現在、婚約関係にある摩阿姫と大河の仲を更に接近させたいが為に裏工作を行い、外堀を埋めつつある。
―――
例
①虚偽報道により印象操作
加賀国(現・石川県)の瓦版で大河と摩阿姫の結婚の
②朝廷に対する高額の献金
→近衛前久等の公家に対する
③防衛費の一部負担
→神宮防衛の為の前田兵派兵
本来は、皇宮警察の職務だが、余りにも京から離れていたり、費用が
北海道神宮:北海道札幌市中央区
明治神宮 :東京都渋谷区
鹿島神宮 :茨城県鹿嶋市
香取神宮 :千葉県香取市
気比神宮 :福井県敦賀市
熱田神宮 :愛知県名古屋市熱田区
近江神宮 :滋賀県大津市
石上神宮 :奈良県天理市
橿原神宮 :奈良県橿原市
吉野神宮 :奈良県吉野郡吉野町
白峯神宮 :京都府京都市上京区
平安神宮 :京都府京都市左京区
新日吉神宮:京都府京都市東山区
水無瀬神宮:大阪府三島郡島本町
國懸神宮 :和歌山県和歌山市
日前神宮 :和歌山県和歌山市
伊弉諾神宮:兵庫県淡路市
赤間神宮 :山口県下関市
英彦山神宮:福岡県田川郡添田町
宇佐神宮 :大分県宇佐市
宮崎神宮 :宮崎県宮崎市
鵜戸神宮 :宮崎県日南市
霧島神宮 :鹿児島県霧島市
鹿児島神宮:鹿児島県霧島市
―――
摩阿姫は良い子なのだが、この様に露骨なのを行うと、大河は逆にドン引きしてしまう。
2人の会話を気にしていた摩阿姫が尋ねる。
「真田様、伊万様と何か?」
「いいや。何でもないよ」
浮気を疑われる夫の様な回答だ。
伊万が横に座り、乾いた笑顔で
若殿には手を出すな、と。
対して、摩阿姫は、涼しい顔だ。
(……仲、悪そうだな)
大河は心の中で嘆息しつつ、幸姫、松姫、稲姫を順々に接吻していくのであった。
[参考文献・出典]
*1:『日本国語大辞典 精選版』
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