第551話 心領神会
愛王丸保護の報せを早馬が届けてに来た時、大河は、前田家四姉妹と浅井家三姉妹の計7人と過ごしていた。
「了解。下がって良いよ」
「は」
使者が退室後、与免が、のそのそと近付いては、
「おにいちゃん?」
と、愛王丸の肖像画を指差した。
「そうだよ」
次に、豪姫が大河を見た。
「にぃにぃとは違った兄?」
「そうだね。俺とこの人は、義理の父子になるから」
「ほぇ~」
与免は、感心した様子で首肯すると、躊躇いなく大河の膝に座る。
・殆ど怒らない
・すぐお菓子くれる
・おねだりは、ほぼ聞いてくれる
これだけ好条件が揃えば、与免が懐くのも当然の事だろう。
「うー……」
そんな与免を睨むのは、お江だ。
狙っていた
幸姫も動く。
「与免は、甘えん坊さんねぇ」
与免の頭を撫でつつ、そっと、大河の左隣に座った。
浅井家三姉妹を
前田家に勢いづかせる訳にはいかない、と茶々も動く。
「その辺で言えば、うちのお江も負けてはいないわ」
お江の手を引いて、大河の右隣に座る。
「兄者、私も甘えん坊だよね?」
自称は中々、無い話だが、お江も又、その類であるのは、否定しようの無い事実だ。
「そうだよ」
「はい♡」
万歳して、「膝に乗せろ」とアピール。
「そうだな。与免、済まんが、寄ってくれ」
「う~ん……分かった」
渋々、納得すると、左膝に寄る。
そして、右膝には、お江が座った。
その間、摩阿姫とお初が背中で牽制し合っていた。
それぞれ―――後輩に譲りなさいよ、年功序列なんだから私が上、と。
「お江は、今更だけど、どう思う?」
「愛王丸様?」
「うん。陛下、小少将と俺、誾だけで決めちゃった話だから」
重要な事なので家族全体で話し合うのが筋であっただろうが、小少将が、早急な登城を望んだ為、この様な形になったのだ。
少数ですぐに決めてしまったのは、民主主義の理念に反している。
事情が事情なだけに致し方ない部分もあったのだが、大河は、他の女性陣に通していない事に負い目を感じていたのだ。
「ちょっと怖いかな。親同士が殺し合ったからね。然も、こっちは、向こうの家を滅ぼしてるから。僧侶であっても恨んでいてもおかしくはないよ」
先程の態度からは一転。
今度は、聡明な考え方を披露する。
なんだかんだで小谷城合戦前は、浅井家。
それ以降は、織田家で過ごしていた為、その辺の英才教育は、ばっちりな筈だ。
「まぁ、そうだろうな」
大河もその意見には、同意だ。
自分が同じ様な立場なら、相手の子供も無関係な事は、承知しているのだが、それでも嫌な感情は、否定出来ない。
恐らくは、十中八九、仲良くはなれないだろう。
「でも、小少将様、会いたがっていたからね。そこも考えないといけないだろうね」
「……分かった」
お江(茶々、お初もだが)は、小谷城で父親を亡くした。
それも目の前で。
我が子を亡くした小少将と、犠牲者の関係性は、逆だが、似ている。
そういった事で、反対し辛いのだろう。
明確に反対の意思を示したお市とは、対照的である。
お市は、現実的に我が子と家を守る為に反対。
お江は、心情的に理解出来る為に賛成。
どちらも正解だろう。
「……有難う。理解してくれて」
「うん♡」
大河に抱き着きつつ、お江は、幸姫に視線を送る。
好印象では私の方が上、と。
(……蛇みたいな女ね)
内心で舌打ちしつつ、幸姫は、大河の左手をしっかり握るのであった。
夜。
大河は、しっかりと、浅井家三姉妹と幸姫を抱く。
隣室で、前田家三姉妹が寝ている為、
「「「「♡」」」」
其々の位置は、右腕を幸姫、左腕をお初、胸部に茶々、お江である。
「もうお腹一杯♡」
「お疲れ様」
幸姫が寝落ちする前に、大河は労い、その額に接吻。
「有難う♡」
にへら、と笑った後、幸姫は、接吻し返し目を閉じた。
今回、最も激しく愛された為、4人の中では、最も体力が消耗しているのだ。
平等を重んじる大河が、珍しく
浅井家の御令嬢である茶々は既に妊娠、出産を経験し、この時代の価値観で言う所の女性の
当然、浅井家は、前田家に強く出る事が出来、前田家からは不満が出ても可笑しくは無い。
そういう事情も考えて、大河は、夜伽に努める事が迫られている為、艶福家は、楽ではないのだ。
順番を間違えば、それこそお家騒動の火種になりかねない。
日中でも、それがならない様に、配慮が必要不可欠である。
一夫多妻は、羨ましい様に感じるが、精神的圧力が半端ない為、それに耐え得る力が無ければ、一夫多妻は、非常に難しいだろう。
「……真田様」
「ん?」
「次は、お初をお願いしますわ」
「知ってるよ」
茶々と接吻した後、大河は、お初を見た。
「お初」
「はい♡」
「茶々の御指名だ。良いか?」
「今日はもう疲れたから、次回以降で良いよ」
名残惜しそうに大河の頬に手を当てた。
愛されたいし嬉しいが、何よりも体力が続かないのは、仕方の無い事だ。
「良いな。兄者に愛されて」
「お江も愛してるよ」
「……追加の様な感じがするけど?」
「でも、好意は事実だ」
お江の頬に口づけし、証明した。
4人が積極的なのは、小少将が関係している。
小少将が愛王丸の受け入れの準備で忙しく、戦線から一時的に離脱している現在、恋敵が1人、減っている。
その分、愛されよう、というのは、当然の考え方だ。
他の女性陣も同じ様に狙っているだろう。
然も、大河は否定しているが、愛王丸は、将来、年齢からして後継ぎの最有力候補に成り得る。
万が一の為に早めに妊娠、出産したいのは、家を背負う女性陣からすると、行動に走り易い動機に成り得るだろう。
「……もう♡」
愛を確かめる様にお江は、濃厚な接吻を御見舞い。
そして、再戦が始まるのであった。
明け方。
慣例通り、寝室を抜け出して、誾千代の部屋で過ごす。
以前、不規則だった為、誾千代はその都度、寝不足になる事が多かったが、現在は、
寝室に入るなり、誾千代が抱き着き、接吻。
それから尋ねた。
「昨日も愉しんだ?」
若干、
愛する者が自分とは違う側室と寝ているのは、誰だって不愉快だろう。
「まぁな」
否定するより、肯定した方が良い。
「相変わらずの清々しさね?」
苦笑いを浮かべると、誾千代は、布団に誘う。
「昨日は誰と寝たの?」
「幸、茶々、お初、お江」
「相変わらず、大人数相手によく出来るものね」
もし、日ノ本が一夫一妻制であり、妻が誾千代のみであったら、毎日、抱かれ、その分、疲弊し、寿命が縮まっていた事だろう。
そういった考え方ならば、誾千代は、負担を軽減していくる側室等に感謝しなければならない。
「多分、平和になったからじゃないかな?」
「どういう事?」
「戦争中は、昂っていたから、それが平和になった途端、こういう形で表れたんじゃないかな?」
「う~ん……」
余り納得していない誾千代。
言わんとする事は分からないでは無いが、戦争中も大河は、好色であった。
つまり、戦争も平和も無関係に大河は、好色なのだ。
「平和とは無関係だと思うけどね?」
「そうかな」
誾千代は、俯せになり、夜着を脱ぐ。
「揉んで」
「へい」
腰に跨り、肩や背中を揉み始める。
若夫婦は、最近、営みの前にマッサージを行う。
どちらかが言い出したのかは分からないが、これも又、
「1番の被害者は幸?」
「そうなるな」
「じゃあさ。幸よりもお願い」
「正妻だから?」
「そういう事」
毎朝、大河が夜這いに来るのは、誾千代1人。
これは、明確に愛を独占出来ている証拠である。
それが誾千代が、大河に愛想を尽かさない理由の一つでもあろう。
幸姫には悪いが、幸姫以上に愛されなければ正妻の意味が無い。
「分かったよ」
大河は首肯して、更に押す力を強めるのであった。
万和5(1580)年7月25日。
越前国から近江国を経由して、愛王丸が上京を果たす。
「……」
越前国では見られない高層ビル群と人の多さに、圧倒される。
護衛は、弥助だ。
彼を見る迄、外国人を見た事が無く、その時も驚いたが、今回はその比ではない。
同じ日章旗を掲げた国なのに、地方と都の格差が大きいのだ。
越前国は、戦乱後、復興中ではあるが、未舗装の道路や掘っ立て小屋は多く、孤児も居る。
最速の移動手段も馬である。
一方、都は、どこもかしこも道路は綺麗に舗装され、建物は、コンクリート製の高層ビル。
孤児院はあるが、越前で見る様な、戦災孤児は、見られない。
移動手段も多種多様で、飛行機に新幹線、自動車と、どれも見た事が無いものばかりだ。
人々も同じ民族にも関わらず、都の人々は、洋服を着て、若い女性に至っては、ミニスカートだ。
もし、越前の人々が見たら、カルチャーショックで卒倒するかもしれない。
「……近衛大将は、どちらに?」
「あちらの城です」
「!」
弥助が向けた掌の先には、東京都庁の様に都内を見下ろす大きな城が。
これも又、福井城の比ではない。
体感だと福井城が1だとすると、京都新城は100位だろうか。
京都新城の近くに二条城があるのだが、あれよりも大きく見えるのは、気の所為だと思いたい。
「……あの城主が、今後、義父になるんですね?」
「そうですね」
弥助が笑顔で首肯する。
越前では、山城真田家家臣団は、日ノ本一、忠誠心が厚く、更に日ノ本一、残虐な軍団とされ、その最高司令官・真田大河は、最近、”東亜で最も危険な男”と有難くない異名で呼ばれる様になっているのだが、弥助の反応を見る限り、少なくとも忠誠心の部分の様は、事実の様だ。
「……弥助様は、近衛大将はどう思いますか?」
「9割9分優しく、1分、非常に厳しいお方です」
「……有難う御座います」
何となくその言葉で、愛王丸は、大河の人となりが分かった。
恐らくだが、平時では、温厚だが、有事や訓練、仕事では手を抜かない、という事なのだろう。
(逆鱗に触れなければよいが)
会う前から少しビビる愛王丸であった。
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