第550話 君子九思
愛王丸の登城の準備は
都内には、旧朝倉家家臣団の多くが集まり、行事の準備を始めている。
尤も、彼等は、非公式であり、愛王丸や大河と会う予定は無い。
と、言うのも、愛王丸の保護者である小少将が、旧家臣団との交流を嫌い、大河に頼んで登城の許可を出さなかったのである。
それもその筈、旧家臣団の多くは、一の谷で多数裏切り、朝倉家滅亡を後押しした。
そんな不忠な者達の顔を小少将は、許す訳もなく、ほぼ絶縁、と言った状態だ。
それと同時に京都新城周辺は、厳戒態勢が敷かれていた。
今回の主役・愛王丸は、反織田の広告塔として反体制派に拉致される可能性がある為、その対策の為である。
「うふふふ♡」
大河の寝室にて。
小少将は、大河の腕枕を堪能しつつ、いつか来るであろう愛王丸を想っていた。
同衾している、
・綾御前
・井伊直虎
・甲斐姫
・早川殿
の4人は、若干、引き気味であるが、否定はしない。
いずれ彼女達も母となる可能性がある為、心情的には、理解出来るのである。
丸太の様にしがみついている綾御前が大河と接吻した後、
「私も子供が出来たら溺愛するかしら?」
「かもな」
もう一度、接吻する。
綾御前は、景勝を産んでいる為、万が一、妊娠した場合、彼以来の子になる。
大河と景勝は、伯父と甥の関係性なのだが、若し、綾御前が出産すると、景勝とその子供は、義理の兄弟になる。
既に家系図を作る時点で、滅茶苦茶なのに、これで更に混沌とするのは、言わずもがなだ。
「……」
小少将とは真逆の腕で、腕枕を堪能する早川殿は、
大河との愛の結晶の行く末が気になっているのだろう。
甲斐姫、直虎は、
この
腋臭には、腋毛を剃毛すると、その臭いは軽減されるのだ(*1)。
又、大河は、超がつく程の潔癖症でもある為、頻繁に臭いを嗅ぎ、問題がありそうならば、その都度、入浴している。
2人が嗅いでいるのは、石鹸の匂いで
甲斐姫は、大河の肩に顎を乗せると、
「真田様、父上が御挨拶の為に登城をお願いしているのですが……」
「成田氏長殿?」
「はい」
「いつでも良いよ。歓待するから」
「本当ですか?」
「ああ」
一方、直虎は、脇に顔を埋め、石鹸の匂いを堪能していた。
「♡ ♡ ♡」
痴女に見えるのは、大河だけだろうか。
ただ、他の女性陣は、自制している為、同じ様な行為はしないが、羞恥心が無ければ、思う存分している事だろう。
それ位、香ばしい匂いなのだ。
一種のフェロモン、と言っても良いだろう。
首だけ動かし、甲斐姫の額に接吻。
「寝る前にもう1戦、しようか?」
「! お願いします♡」
無論、小少将達もだ。
こうして、大河は、義理の息子の受け入れ準備をしつつ、妊活に励むのであった。
万和5(1580)年7月20日早朝。
「出発!」
国軍山城真田隊が、京都新城の基地から出発する。
1万の騎馬隊と100両の戦車による大行進だ。
早朝にも関わらず、
隊の指揮官は、弥助である。
首都を守る
「……」
凛々しい表情で騎乗しつつ、弥助は、内心、上機嫌だ。
(まさかこんな大役を任命されるとは……)
首都の部隊を
(大殿は、私を信頼し過ぎだ。全く……)
これが欧州諸国だと、この時代では人種差別が現代よりも露骨に且つ激しい為、こんな大役を掴む事すらほぼ不可能だ。
妻と帰郷時、オスマン帝国で、肌の色無関係に昇進させてくれる大河の話に、現地の人々は、理解が出来なかった。
任務は、越前国平定作戦。
最近、一向一揆が頻発しており、城主・大谷吉継が救援要請を出したのだ。
自分の領地を自分で守れないのは、二流だが、現実を見ずにその結果、滅ぼすよりかは恥を忍んで、行動を起こした方が、好感度は高い。
吉継は、大河が可愛がる忠臣の1人でもある為、大河の一声で増援部隊の遠征が決まったのだ。
訓練の成果を見せる
1万人の歩兵と100台の戦車部隊は、隣国・近江国に入り、その後、若狭国に北上。
それからは、北陸道を北進すれば、越前国だ。
北側からは、上杉景勝が率いる国軍の上杉隊4万も南進する為、越前国は、事実上、挟撃に遭う形である。
対する一向一揆は、僅か500。
5万人対500人、というのは、流石にやりすぎな感は否めないが、これは、全て大河の指示だ。
根絶やしにしろ、という意思が伝わる。
(……大殿は、優しい一方、悪魔だな)
これから弾圧される反乱軍に少しばかり同情しつつ、弥助は、馬を歩かせるのであった。
仕事を抑えている大河は、皇居に出仕する以外の外勤は、減らしている。
出張には、代理で誾千代や謙信、お市等に頼み、自身は極力、必要最低限の外出しかしない。
この日は、京都新城で子供達と過ごしていた。
「おに、いちゃん?」
「そうだよ。もうすぐ来るんだ」
累は、首を傾げる。
いきなり見ず知らずの者が兄になるのだ。
デイビッド、元康、猿夜叉丸、心愛は、興味津々で聞いている。
「どんな、ひ、と?」
デイビッドがたどたどしく尋ねた。
「お坊さんだよ。まだ見習いだけど」
「おぼー、さん?」
「
「ほー」
エリーゼから英才教育を受けているデイビッドは、その例えで何となく理解した様だ。
デイビッドを抱っこしたエリーゼが微笑む。
「デイビッドは、将来、何になりたい?」
「
「じゃあ、そうなったら、話が合うかもね?」
日ノ本では、宗教対立を避ける為によく聖職者同士の交流が行われていた。
仏教徒、神道、耶蘇教(=キリスト教)、猶太教(=ユダヤ教)、回教(=イスラム教)等の宗教の聖職者が盛んに交流し、相互理解を務めている。
デイビッドが
義兄弟で信仰宗教が違う。
これが、山城真田家の多様性である。
「喧嘩しちゃ駄目よ?」
「あい~」
分かっているのか、分かっていないのか、よく分からない返事だが、デイビッドは、エリーゼに抱き着いては笑う。
「……」
「ほら、貴方も嫉妬しないの」
実子が愛妻といちゃついでいる様子に、明確に嫉妬心を露わにした大河の頭に、エリーゼは、手刀を叩きこむ。
なんだかんだで愛されているのは嬉しいが、実子に
千姫も元康を抱っこ。
「山城様、愛王丸様は、穏やかな方でしょうか?」
「調べた限りな」
お市も心愛に母乳を与えつつ、問う。
「心配だわ」
と、眉を顰めた。
実家の織田家と敵対した家からの子供だ。
心愛や三姉妹、又、他の者達と仲良く出来るだろうか。
そこが懸念事項である。
「危険と判断した場合は、残念ながら、相応の対処はするよ」
「例えば?」
「その時次第だ」
お市の質問を、珍しく濁し、大河は、猿夜叉丸の頭を撫でる。
「だ! だ!」
猿夜叉丸は、両手を万歳し、「抱っこして」とお願い。
「おうおう♡」
目尻を緩ませつつ、大河は、猿夜叉丸を抱っこ。
「あははは♡」
上機嫌に笑うと、猿夜叉丸は、大河の頬を引っ張った。
「いてて」
「あ、猿夜叉丸! 真田様、大丈夫ですか?」
血相を変えて、茶々が走って来た。
「いいって事よ」
「だ! だ!」
猿夜叉丸の頬擦りに大河は、デレデレなのであった。
お市等、一部の女性陣が不安視するも、既に受け入れの準備は整っている為、覆す事は出来ない。
又、世間では、感動的な再会なので、それを喜ぶ者も多い。
そんな状況下で、破談に持ち込もうとすれば、非難殺到だ。
愛王丸の件は、朝顔も承知していた。
「凄い話よね。我が子が生きていたとは……」
妊娠、出産の経験は無いが、小少将の気持ちは痛い程分かる。
「登城したら今後、どうなるの?」
「暫くは、小少将と過ごす予定だよ。失われた時間を取り戻すには、義理は、不要だろうから」
膝を貸す大河の言葉に朝顔は、微笑む。
本来であれば、家長として、義父として、愛王丸と早くに家族関係を構築するのが、筋だろうが、それよりも本当の母との時間を優先させるのは、流石と言った所だるか。
膝に後頭部を預けていた朝顔は、大河を見上げた。
最初は顎、次に鼻、最後に目を見る。
「……何だ?」
「目、大丈夫?」
「ああ、これか」
眼帯を外して、左目を見せる。
伊達政宗のそれは、濁っているのだが、大河の場合は、橋姫の治療の下、修復しているので見た目は、綺麗だ。
「……本当に見えないの?」
「そうだよ」
「……触れても?」
「どうぞ」
朝顔は、姿勢を正すと、大河と向き合い、その左目に触れる。
「……陛下が御心配されていたわよ」
「マジか……」
分かり易く大河は、項垂れる。
近衛大将の癖に、護衛対象者である帝を逆に心配させているのだ。
玄人失格、と言えるだろう。
「……陛下に説明と感謝の為に行こうかな? いやでもお忙しい筈だから、余り公務を詰めるのも良く無いし……う~む」
「悩み過ぎwww」
笑って朝顔は、大河の頭を撫でる。
お優しい帝の事だ。
大河が急遽、説明に行っても、予定が詰まっていなければ、通してくれる筈だ。
然し、大河は、自分が行けば、休んでいた帝を動かす事になる為、本意ではない。
忠誠心と配慮が、ぶつかり合っている様だ。
「陛下には、私の方から説明しているから大丈夫よ。陛下も回復直後の怪我人を
「……済まんな。俺の為に」
「良いのよ。夫婦だから」
朝顔は、大河に抱き着くと、その体温を感じるのであった。
[参考文献・出典]
*1:家電Watch 2013年3月25日
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