第493話 夜雨対牀

 卒園式の夜、大河は、久し振りに全員を寝室に招いた。

・朝顔

・誾千代

・謙信

・ヨハンナ

・ラナ

・お市

・茶々

・お初

・お江

・エリーゼ

・千姫

・稲姫

・松姫

・幸姫

・橋姫

・楠

・阿国

・アプト

・珠

・与祢

・ナチュラ

・鶫

・小太郎

 総勢23人。

 この数は、”膃肭臍オットセイ将軍”と称された江戸幕府第11代将軍・徳川家斉(1873~1841)が持つ妻妾16人(特定されている者のみ)を大きく上回る記録だ。

 当然ながら、バングラデシュ並の人口密度であるが、皆、苦ではない。

 これが家族だから。

 累等の子供達は、他の女官が代理で看ている為、育児放棄の心配は無い。

 居ないのは、

・マリア

・伊万

 等、大河の妻や婚約者、愛人ではない人々である。

 大河の膝には、朝顔、ヨハンナ、ラナの上皇、元教皇、王女の3人が陣取り、甘えていた。

「今日の真田の演説、良かったよ」

「有難う」

「私もしたかったな」

「神学校であれば、出来るよ」

「貴方♡」

 ラナに至っては、内容0で大河の頬をベタベタと触れるのみだ。

 誾千代は左側から、お市は右側から、其々、しな垂れかかり、謙信はあすなろ抱きして離れない。

 今日、皆が集まったのは、お泊り会の為だ。

 普段は、事実上、家族でありながら、別居状態にある皆を集めて、一晩を過ごす、という試みである。

 23枚もの布団を一度に並べるのは、大河の狭い寝室では、当然不可能の為、10人は一緒に寝れる大きな特注品の寝台を2台並べて、何とかその場を凌いでいる。

 眠たくなった大河は、そのまま後ろに倒れた。

 謙信が押し潰される事になるが、そこは、軍神だ。

 大きな包容力を持って受け入れる。

「あら? 貴方、軽くなった?」

「というと?」

「体重が前より減ってるよ?」

 流石、軍神だ。

 観察力が凄まじい。

「ちょっと絞ったんだよ。ここ最近、花見が続いたからね」

「真面目♡」

 朝顔が後頭部で、頭突きする。

「ごほ―――何?」

「眠たい」

「? 寝たらいい―――」

「うん?」

「何でもないです」

 眼力に負け、大河は、無条件降伏。

 エンペラーの威厳が、結婚後、益々、高まっているのは、気の所為だろうか。

 棋界では、『新婚ブースト』なる現象がある、とされる。

 その名の通り、新婚の棋士は、その時期、勝率が上がる、という話だ。

 科学的根拠が無い為、その真相は定かではないが、家庭という守るべき場所を背負った事で、責任感が独身時代より増し、より一層、対極に向き合うのかもしれない。

 無論、上皇と棋士では、比べ物にはならないが、若し、新婚ブーストが真実だとしたら、朝顔の覇気も強まっている、と言えるだろう。

 大河の胸板を枕にし、朝顔は、目を閉じる。

 硬い筈だが、それでも良いらしい。

「……良いなぁ。陛下」

「お江は明日以降だよ」

「そうだけど」

 お江に口付け。

「兄者?」

「いや、羨ましがる姿が可愛くてね」

「兄上♡」

「「「真田様」」」

「貴方♡」

 お初、松姫、稲姫、ナチュラ、ヨハンナの順に口付けをしていく。

 流れ作業で忙しい。

「もう遅いからね。寝様」

「「「はーい」」」

 元気良く返事したのは、機嫌が直ったお江と、与祢、珠だ。

 鶫が電気を消す。

 男女比1:23という、異様な部屋だが、その夜はとても静かであった。

 

 深夜。

 皆が寝静まった中、

「……」

 もそもそと1人が起き上がる。

「(真田)」

「うん?」

 寝ていた大河を起こすには、ラナ。

 もう1人、起床する。

 彼女の妹のナチュラだ。

「(お外、行こう)」

「(……分かった)」

 真剣な表情なので、付き合う事にした。

 3人は、皆を起こさない様に、慎重に部屋を出て行く。

 四六時中、付き従っている鶫達も就寝中なので、本当に3人だけだ。

 中庭の東屋に入る。

 辺りは松明のみの明るさ。

 松明が無ければ漆黒の世界である事は言うまでもない。

「んで、話というのは?」

「失礼しますわ」

「失礼します」

 2人は、大河の両脇に座る。

「最近、我が国である構想がありますの」

「構想?」

「はい。私がこの国に嫁いだ後から陛下が提案されているのですが、我が国と貴国―――日ノラパナの統一化です」

「……」

 日ノ本と布哇王国の統一。

 併合だと、日ノ本が侵略する感が否めず、後世にも、

・ハワイ併合(1898年)

・日韓併合 (1910年)

独墺合邦アンシュルス(1938年)

・ズデーテン併合(1938、1939年)

・バルト三国(1940年)

・チベット(1951年又は1959年)

・クリミア併合(2014年)

 と、国際問題になった例も多数存在する。

 その為、「統一」というニュアンスなのだろう。

 尤も、国家が他国に統一を要望するのは、当然のことながら、売国奴だ。

 ブルガリアの共産主義者、トドル・ジフコフ(1911~1998)は、モスクワに対し、ブルガリアをソ連の一部に組み込むよう提案した、とされる。

 本人は、純粋だったのだろうが、モスクワはその意図を図りかね、拒否した為、冷戦期、ブルガリアがソ連の一部になる事はならなかった。

 若し、モスクワが了承していれば、ブルガリアの歴史は変わっていただろう。

「統一、ねぇ……」

 大河は、侵略者では無い為、外国を侵略する気は更々無い。

 防衛ラインを、

・北方領土

・竹島

・尖閣諸島

・水無月島(現・ミッドウェー島)

・北米大陸(現・米加)

 と、現代の日本政府が自国領と定めている地域と最近、得た地域までに限定しており、それ以上先の朝鮮半島や台湾、中南米等には、進出しないつもりだ。 

「……」

 顎に掌を添え、大河は、熟考する。

 国家の連邦化(布哇王国は、「統一」と表現しているが、実際には、「連邦」が適当だろう)は、現代でもある国家構想だ。

 例

・アラブ連合案(1915~)

アフリカ合衆国ユナイテッド・ステーツ・オブ・アフリカ案(1958~)

高麗民主連邦共和国コリョミンジュリョンバンコンファグッ案(1988~)

・中央アジア連合案(2007~ カザフスタン、キルギス等)

・連合国家案(2011~ ベラルーシ、ロシア)

 ……

 その多くが提案されただけで、具体的には進んでおらず、事実上の廃案になっている物もあるが、連合国家案の様に、両国共、好意的に示しているのもある為、将来的には、統合される例も出て来るかもしれない。

「何故、陛下は、そんな御提案を?」

「我が国の発展と、貴国との交流ですわ」

「……それは、国民も望んでいる事なのか?」

「国民投票では、過半数ですわ」

「……」

①国王の提案

②国民も過半数が賛成

 布哇王国の親日度の高さが分かる。

「……ラナはどう思う?」

「陛下には、『真田は拒否するかと』と否定したのですが、陛下は『相談してくれ』と仰って」

 ラナは、現実主義的だ。

 然し、王女である以上、国王に強く言えない立場なのだろう。

 ナチュラが助け舟を出す。

「殿下は、御存知の通り、大使館で普段、御公務を成されている為、国王陛下支持派が大勢居る手前、反対論を公言出来ないんです」

「それで今の時機になった?」

「はいですわ……」

 ラナは、申し訳なさそうな顔だ。

 深夜、起こして連れ出したのだ。

 これで申し訳無さが無ければ、酷く無礼な人間だろう。

「……分かった。ただ、俺の一存では決められない。一応、上に報告しておく」

「……」

「そう暗い顔するな」

 大河は、ラナを抱っこし、その頬に口付け。

「陛下の御好意は分かる。だけど、布哇は、ちょっと急ぎすぎたな。こっちの事情も考えて欲しいな」

「……」

「責めてないよ」

 次にナチュラを膝に乗せる。

 そして、2人を見比べた。

「……何ですの?」

「何ですか?」

「いや、似てるな、と」

「姉妹ですもの」

「姉妹ですから」

 マ〇カ〇並のコンビネーションだ。

Aloha au ia `oeアロハ・アウ・イアー・オエ

「「!」」

 布哇語での「愛してる」。

 正確な発音に2人は、驚いた。

 布哇への関心が高まっている日ノ本であるが、如何せん、布哇には、文字の文化が無かった。

 宣教師が来る迄は、口伝えで生きており、彼等が布哇語を習得し、ラテン文字で表したのが、布哇文字の始まり、とされる(*1)。

 その為、歴史が浅く、布哇人でさえ、布哇文字を書ける者は少ない。

 なので、日ノ本でも布哇語教室は少なく、転じて、日本人が布哇語を習得する機会は中々無いのだ。

 2人は、大河に抱き着き、其々、両側から接吻。

 3人の営みを松明は、煌々と照らすのであった。


 朝。

「「「……」」」

 肌艶が良くなった2人に対し、女性陣は思う事はあれど、誰も何も言わない。

 大河は、共有物。

 何時誘っても良いのだ。

 それでも抜け駆け感は否めないが。

「……お江、これは?」

「兄者の腑抜けが治るよう、御呪おまじない」

「……」

 味噌汁に山盛りなのは、唐辛子。

 赤過ぎて、もう血の海にしか見えない。

 アプトが持って来た味噌汁を、お江が引っ手繰り、このざまである。

「……」

 アプトが替えようと、手を伸ばす。

 然し。

 ギロリ。

「ひ」

 お江の一睨みで撤退した。

 浅井長政の娘だけあって、その効果は絶大だ。

「お江、アプトを虐めるな」

「うん。でも、兄者が悪いんだよ?」

「何が?」

「夜、勝手に出歩く何て」

「厠に行っただけだよ」

「逢引は?」

「俺から誘った」

「「……」」

 ラナ、ナチュラの姉妹は、俯く。

 大河が庇っているのだ。

 お江に怒られない様に。

「……全く」

 お江は、呆れた後、大河の膝に乗る。

「兄者の馬鹿。浮気者」

 それから、胸板に顔を埋めた。

「貴方」

 お市が心愛に授乳しつつ、声を掛けた。

「お江にも愛を」

「分かったよ」

 お江を抱っこし、その頭を撫でる。

「兄者、私、もう大人なんだけど?」

「知ってるよ」

「舐めてる?」

「可愛がっているのさ」

「もう大人として扱ってよ」

 魚虎ハリセンボンみたいに頬を膨らますお江。

 出逢った時、大人と子供の関係性であったが、お江は今や元服を果たし、れっきとした大人だ。

 大河が可愛がる程の子供ではないのだ。

 因みにお江と接する時は、お初も一緒である。

「お初」

「はい」

 右隣に呼んで、座らせる。

 言わずもがな、左隣は、誾千代だ。

 これは、2人が離縁しない限り、ほぼ終生、変わらない。

「お江、お詫びに今度、湯治に行こう。近江にさ」

「本当?」

「ああ。本当だ」

「……許す」

「有難う」

 お江を抱擁していると、お初もにじり寄って来た。

 私も忘れないで、と。

 嫉妬深く、寂しがり屋な似た者姉妹であった。


[参考文献・出典]

 *1:MAHALO WEDDING HP 2018年11月8日

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