第466話 挙案斉眉
万和5(1580)年1月20日。
捕縛された空誓は、頭に『悪僧』の刺青を彫られ、大河の前に引きずり出された。
眉毛等の体毛は、全て剃られている。
国家保安委員会御得意の薬(意味深)で、既にボロボロだ。
「……」
大河を見ても、無反応である。
「若殿、この者は、どうしましょうか?」
死刑執行人・鶫が尋ねた。
「ん? 死罪だよ」
松姫を抱っこしつつ、大河はあっけらかんと言い放つ。
「真田様♡」
悪僧の末路には、興味無いのか、松姫は、大河の頬を突っついては遊んでいる。
「鶫、達磨って知ってるか?」
「はい」
「じゃあ、手足を斬ってやれ」
「は」
切れ味鋭い日本刀であっという間に手足を切断。
スプラッター映画の様に血飛沫が上がる。
「小太郎、止血を」
「は」
簡単には、死なせはしないのが、大河のやり方だ。
「傷口に塩を塗り込め」
「は」
薬の影響か、空誓は痛覚を失っている様で全然痛がらない。
涎を垂らし、失禁しているだけだ。
聖職者を自称し、人々を惑わし、扇動するのはテロリストと同義だ。
見せしめの為にも残虐に殺害しなければならない。
「小太郎」
「は」
小太郎が、ロケットランチャーを渡す。
「皆、離れろ」
「「は」」
鶫、小太郎が安全地帯まで避難した事を確認すると、大河は松姫を抱いたまま、ロケットランチャーを放つ。
ロケット弾は空誓に直撃し、体は爆散する。
肉片が飛び散り、周囲は血の海だ。
九六九軍は、これにて事実上の解体だ。
問題は、もう1人、土田御前である。
義兄・信長の母である事から、系図的には、大河の義母にもなる。
流石に義母を殺害するのは、気が引けない事は無い。
小太郎が、肉片を回収し様とすると、
「放っておけ。豚が食うから」
「は」
大河は、松姫をお姫様抱っこしつつ、拷問室を出て行く。
鶫、小太郎も後に続く。
その後、拷問室には豚が多数、侵入し、肉片と骨を一つ残らず食べていく。
遺体こそ殺人事件の最大の物的証拠になる為、それが発見されなければ、立件は難しい。
無事、解決出来たのは、
①埼玉愛犬家連続殺人事件(1993年)
②ジョン・ヘイグ(1909~1949)による連続殺人事件(1944年9月~1949年)
くらいだろう。
「お仕事、御疲れ様です」
外で待っていたアプトが手巾で、大河の額を拭う。
殆ど発汗していないのだが、気持ちは有難い。
「お忙しい所、申し訳無いのですが」
拭きつつ、アプトは、言い難そうに言う。
「ん?」
「本多忠勝様がいらっしゃいました」
「? 御用件は?」
「『真田に直接御話になる』と」
「ふむ……会おう」
松姫と一旦、別れて応接室に行くと、忠勝が笑顔で待っていた。
「婿殿、御久し振りです」
相変わらず、プロレスラーの様な体格だ。
43・8cmもの『
余談だが、彼の子孫が日本一、有名な実業家の1人である(*1)。
戦国時代は、武勇で名を馳せ、現代では経営で世界的な実業家を輩出しているのが、この本多家だ。
「忠勝様、申し上げ難いのですが、今後は予約して下さい」
「済まんな。ただ、こっちも上様からの御命令で来たんだ」
「家康様が?」
「ああ。こっちの事情も理解してくれ」
「はぁ……」
忠勝は、にんまり笑う。
然し、大河には、「
「地獄耳な婿殿の事ですから知っているでしょうが……最近、我が娘が、上様の養女になりました」
「ああ、聞いています」
史実同様、この世界の稲姫は、最近、本多家の下から離れ、家康の養女になった。
史実では、真田信之に嫁ぐ為だったとされる(*2)。
この事は、本多氏の系図にも同様の事が記されている(*3)。
上田城の戦いで真田昌幸に煮え湯を飲まされた家康が、彼の息子である信之に重臣の娘を養女にした上で妻として送るのは、その時代ならではの複雑さだろう。
その真相は、家康が昌幸を従わせる為に彼の嫡男・信之に稲姫を送ろうとした所、昌幸が断った為、家康は一旦、自分の養女にした上で嫁がせる事を提案すると、昌幸は承諾した、という(*4)。
但し、信之の孫にあたる松代藩3代藩主・真田幸道が幕府に提出した書状等には、『秀忠の養女』と記載されている事から、歴史学的には未確定だ(*5)。
ただ、
・家康の養女とする複数の所伝が残っている事(*6)
・信濃国国衆の1人の長男も、松平信康の娘を家康の養女として正室に迎えている事
から、養女の体裁が採られた可能性はある(*6)。
現代の感覚だと親の都合で結婚相手を決められたので、理不尽さは否めないだろう。
肝心の夫婦仲は、良かったとされる。
政略結婚とはいえ、2人の馴れ初めは、初対面の時から良かった。
稲姫の婿選びの際、彼女の前に若い武将達が連れて来られた。
家康を前に委縮する若武者達。
そんな彼等を稲姫は、平伏している1人1人の髻を掴んで面を上げさせて吟味した。
その中に居た信之は、髻に手を差し伸べられた瞬間、叱咤して、鉄扇で彼女の顔を打った。
稲姫はこの気骨に感動して信之を選んだ、という。(*7)。
場合によっては、手討ちも致し方無い場面だが、鉄扇で打たれたにも関わらず、気に入る稲姫も又、戦国時代を生きた女性らしい勝気さだろう。
彼女が元和6(1620)年に48歳で病死した際、信之(当時54歳)は、「我が家から光が消えた」と大きく落胆したとされる(*8)。
信之が92歳で亡くなった際、家臣のみならず百姓までもが大いに嘆き、周囲の制止を振り切って出家する者が続出し、百姓や町人も思い思いに冥福を祈る仏事を行ったとされ、家臣や領民にも慕われる名君であったと伝えられている(*9)。
夫婦仲の事はその夫婦間でしか分からないが、この様な名君と結婚出来、死去した時も大いに悲しまれた所を見ると、政略結婚とはいえ、稲姫は幸せ者だったかもしれない。
そんな稲姫の話だ。
大河も自称とはいえ、同じ真田姓として、傾聴せざるを得ない。
「稲様がどうされました?」
「元康様の件で上様は、心配されています」
「? もう少し、多く行かせた方が良いですかね?」
平和になって以降、戦国武将の多くは隠居し、家族と過ごす時間が増えている。
大河の義父に当たる人物で言うと、
・織田信長
・徳川家康
・島津貴久
等だ。
彼等の最近の楽しみは、子供と遊ぶ事だ。
現役時代、
その中で最も好々爺なのが、家康だ。
頻繁に千姫を江戸城に来させては、元康と会い、一緒に入浴等しているそうだ。
同名の実子を切腹に追い込んだ過去から、余計に同名の孫が可愛いのだろう。
「いえ、今のままで十分かと。これ以上、増やすと、千様が怒るので」
「……はぁ」
真意が読めない。
困惑していると、マネキン人形が入る様な大きな箱が、忠勝の家臣によって運び込まれた。
「……これは?」
「上様―――いえ、徳川家と本多家の総意です。受け取って下さい」
「?」
家臣が箱の蓋を外す。
すると、出て来たのは、花嫁衣装に身を包んだ稲姫。
「……」
唖然としていると、稲姫は、文金高島田に結られた後頭部を見せて、はにかむ。
「お慕い申し上げます」
と。
この瞬間、久方ぶりに山城真田家に女難の相が吹き荒れる事が明白になった事は言うまでも無かった。
[参考文献・出典]
*1:NHK 『ファミリーヒストリー』 2018年12月18日
*2:信濃史料刊行会編 『新編信濃史料叢書 17巻 真田家御事蹟稿』 信濃史料刊行
会 1977年
丸島和洋『真田四代と信繁』平凡社〈平凡社新書〉 2015年
*3:『参考御系伝』
丸島和洋『真田四代と信繁』平凡社〈平凡社新書〉 2015年
*4:『本多家武功聞書』等
平山優『大いなる謎真田一族 最新研究でわかった100の真実』PHP研究所
〈PHP文庫〉 2015年
*5:丸島和洋『真田四代と信繁』平凡社〈平凡社新書〉 2015年
黒田基樹『真田信之 真田家を継いだ男の半生』KADOKAWA〈角川選書〉
2016年
*6: 黒田基樹『真田信之 真田家を継いだ男の半生』KADOKAWA〈角川選書〉
2016年
*7:小松姫の墓(芳泉寺) 上田市文化財マップ 上田市立マルチメディア情報
センター 2016年3月24日
藤沢衛彦編国立国会図書館デジタルコレクション 「小松姫(小県郡上田
町)」 『日本伝説叢書 信濃の巻』 日本伝説叢書刊行会 1917年
*8:歴史の秘話 ひすとりびあ
*9:平山優 『真田信之 父の知略に勝った決断力』 PHP新書 2016年
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