信濃真田ノ一族
第448話 萎縮震慄
本家・真田氏の祖は、
・
・
の2説が語られている。
この異世界では、後者が信濃真田氏の
その為、万和4(1579)年時点だと、信濃真田氏は、まだまだ歴史の浅い武家だ。
始祖が亡くなって56年しか経っていない。
なので、まだまだ始祖を知る人物も居る程だ。
現当主・昌幸から見ると、頼昌は、祖父に当たる身近な存在である(*1)。
歴史が浅い為、信濃真田氏では、「真田」を自称する人物は早々居ない。
居ても、直ぐにバレるからだ。
そんな中、現れたのが大河であった。
突如、現れては瞬く間に出世を果たし、日ノ本の頂点に立った。
昌幸は疑問視しつつもその手腕を評価し、大河に取り入り、娘・於国(現・阿国)を送り、急接近。
と、同時に調査も抜かりない。
配下・猿飛佐助に指示を出し、大河を徹底的に調べ上げさせた。
その結果がこれだ。
「……佐助、これは、
「はい……」
忍び装束の忍者は、心細く頷く。
佐助が提出した報告書は―――
『
』
全くの白紙。なのだ。
真田十勇士の1人に数えられる程、有能な家臣なのだが、そんな家臣でさえ、情報が何一つ得られなかったのである。
「……その、調査員が全員、急死しまして、撤退した次第です」
「死んだ?」
「はい」
調査員は、100人居た筈だ。
それが、全滅するとは聞いた事が無い。
「……死因は?」
「事故死と病死です」
「……分かった」
手塩に掛けて育てた忍びが、100人も死ねば、大打撃だ。
昌幸は、頭を抱えた。
「我々以外にも島津、毛利、伊達等が、忍びを放っていますが、全て返り討ちに遭っています」
「……お上か?」
「いえ。朝廷にそれ程の軍事力はありません。あるとするならば幕府ですが、事実上、織田家は、近衛大将の家臣です」
「……では、あやつが」
「恐らく……我々の動きにも気付いているかと」
「……では、何故、改易されない?」
「阿国様が生命線の可能性があります。それで各家も生き長らえているのかも……」
「……」
あくまでも佐助の意見は、推論しかない。
然し、説得力はある。
「……娘を送ったのは、正解だったな」
「はい」
「年末年始は、来るんだよな?」
「はい。その様に聞いています」
昌幸は、気を引き締めた。
阿国が生命線とはいえ、大河に生殺与奪権がある以上、信濃真田氏は、今後、如何なるか分からない。
(……娘には、何としても子供を作ってもらわないと困るな)
数時間後、上田城に山城真田家一行が到着する。
あくまでも
「「「上皇陛下、万歳!」」」
日章旗の小旗を老若男女、振りに振る。
朝顔もそれに応え、リムジンの窓を開け、笑顔で手を振る。
車の速度もゆっくりだ。
上田の人口は、約15万人。
「上田の人々は、温かいね。この雪の中、
「そうだな」
朝顔と手を繋いでいる大河は、同意する。
流石にイチャイチャを見せびらかすのは、「上皇の権威に影響を与える」という朝廷からの判断により、自粛が要請されているのだ。
然し、京から2人の鴛鴦夫婦が伝わっている上田では、
「近衛大将、見えなかったね?」
「多分、車内に居るよ。陛下の御傍に居たがりだから」
「
と、残念な反応である。
「上田って温泉にすきー場もあるみたい?」
「すきー場、良いね」
女性陣は、信濃真田氏から提供された上田の観光スポットが記されたパンフレットを見ていた。
「焼き鳥も美味しそう。じゅるり」
「お江、
お初が、手巾でお江の口元を拭く。
今回の旅の目的は、数々の映画やテレビ番組のロケ地にもなっている別所温泉。
あの
謙信は累を抱っこし、温泉の地図を見ていた。
「結構、高所にあるのね」
別所温泉は、約570mの高地にある。
これは、鞍馬山(584m)と同じ位だ。
「貴方、高山病ってどの位からなるの?」
「625里(2500m)だよ」
猿夜叉丸の寝顔を覗き込みつつ、大河は答えた。
「ただ、あくまでも目安だから、その位の高さでもならない人は居たり、逆にもっと低い場所でなる発症する人も居る。だから人次第やね」
「そうなんだ。有難う」
謙信は、大河の頬に接吻し、席に戻る。
「父上、物知り」
「
「うん」
「んで、政宗はいつ来るんだ?」
大所帯だから、一部のメンバーは、時間差で合流する予定になっている。
大所帯で行くと、交通規制の時間が長くなったりしてしまい、現地住民の生活に支障を来すからだ。
朝顔もそれは望んでいない。
私的で訪問しているのに、市民生活に悪影響を与えるのは、本意ではなかった。
「今夜です」
「分かった」
「父上と一緒♡」
「有難う。俺も嬉しいよ」
愛姫は、大河の膝に飛び乗った。
義父と養子。
血縁関係は無いが、その絆は、本物の父娘以上かもしれない。
「父上、くりすますぷれぜんと♡」
「おお、有難う」
愛姫から贈られたのは、大河を主人公とした小説。
「これ、来月、出るの」
「おお、新作なのか?」
「うん♡」
「ほー」
パラパラ捲った後、大河は閉じて、アプトに渡す。
「後でゆっくり読むよ。有難う」
「えへへへ♡」
大河に頭を撫でられ、愛姫は、
受け入れる側の信濃真田氏は、上田城で大忙しだ。
「警護に抜かりないな?」
「羊羹は、人数分あるな?」
「温泉迄の動線は確保出来ているな?」
最終確認に余念が無い。
これ程、大慌てなのは、やはり、朝顔が理由だ。
私的と雖も、多くの私服警官を引き連れて入城するのだから。
交通規制は勿論の事、場合によっては、行く先々で貸切りをする必要がある。
無論、朝顔が来る事によって、多くの観光客が来て、天文学的利益が生み出される長所もある為、迷惑な事ばかりではない。
「……」
昌幸は、大広間で考えていた。
白紙の大河の報告書を手に。
(……これ程、氏素性が怪しい者を、朝廷が認めた、と言う事は……もしかすると、朝廷に関わりのある人物なのか?)
そうだとしたら、納得が行く。
どれ程、調べても何一つ出てこないのは、
出家後も子作りに励んだ花山天皇(65代・968~1008)の例がある様に。
帝の落胤は無くは無いのだ。
破戒僧で有名な一休(1394~1481)も又、落胤説がある。
―――
『秘伝に云う、一休和尚は後小松院の落胤の皇子なり。
世に之を知る人無し』(*2)
―――
現時点で大河=落胤説を示す証拠は何一つ無いが、証拠が無い事が、逆に落胤説を推す理由の一つにもなるだろう。
一休と大河は、共に女性好きだ。
若しかしたら、2人には、何らかの繋がりがあるのかもしれない。
昌幸は、震えた。
(……2239年もの歴史を持つ、家を怒らせない方が良いかもな)
御家存続の為、皇室は絶対に怒らせてはならない。
勝手に推理し、勝手に誤解し、勝手に恐怖する昌幸であった。
[参考文献]
1:丸島和洋「真田頼昌」『真田一族と家臣団のすべて』株式会社KADOKAWA 2016年
2:東坊城和長 『和長卿記』明応3年8月1日(1494年8月31日)の条
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