第406話 奥羽ノ鬼姫

 山形城の各所では、次々と。

「こちらA《アルファ》、二の丸制圧クリア!」

「こちらB《ベータ》、三の丸制圧クリア!」

 伊達兵が叫び声をあげ、突入していく。

 突撃兵の中には、輝宗も居た。

「……」

 憤怒の表情で、槍を構えて暴れまくっている。

 病み上がりなのに、アドレナリンが出ているのかだろうか。

 誰よりも動いている。

 制圧は彼等に任せ、大河は装甲車の中で休憩時間だ。

「怒りは力だな」

「最上の敗因は、やっぱりそれ?」

 謙信が大河の肩に顎を置き、尋ねた。

 戦場でもイチャイチャ出来るのは、相当な肝っ玉でないと難しいだろう。

「そうだね。独立を目指すのであれば、もう少し平和的なら、伊達も俺も傾聴していた筈だよ」

 橋姫が魔法で、御茶を淹れる。

「はい、どうぞ」

大河は、御茶を飲む。

「美味しいよ。有難う」

「うふふふ♡」


『「有難う」。言う方は何気なくても言われた方は嬉しい。「有難う」をもっと素直に言い合おう』。


”経営の神様”、松下幸之助(1894~1989)の名言だ。

 彼は、大河が田中角栄同様心酔している偉人の1人である。

 ―――

 上に立つ者がこれ程低姿勢なのは、皇族に通ずるものがあるだろう。

 大河は、経営になる気は更々無いが、高位者な以上、相応の責任が生じる。

 誾千代がハッチを開けて、入って来た。

 彼女は、後から合流した景勝と共に朝日山城の事後処理に当たっていて、山形城攻めには、遅れていた。

「朝日山城の方は?」

「解決したわ。ただ、瓦版が嗅ぎつけちゃって、もう隠し通せないわよ」

「そうだな……」

 誾千代を太腿の間に座らせる。

 橋姫は、右の太腿。

 謙信は、左の太腿だ。

「あれ、楠は?」

「京に報告する為に帰ったわ」

「分かった」

「それで、今回、貴方は何人殺したの?」

「今回は、脇役だよ。主役は、伊達だから」

 本当は、大立ち回りを演じたい所だが、今回は、復讐戦だ。

「最上は、もう改易?」

「いや、徹底的に叩くと、逆に恨まれ易い」

 ナチスが台頭したのは、ベルサイユ条約で、アメリカの反対を押し切った国々が、ドイツを徹底的に弱体化させたのが一因だ。

 銃撃戦が激しくなる。

 最上兵最後の抵抗なのだろう。

 外部視察用潜望鏡で周囲を見渡していた小太郎が、告げた。

「主。鬼女きじょを発見した様です」

「うむ」

 地下牢に幽閉されていた義姫が、装甲車の前に連れ出される。

「……」

 キッと睨み付けた。


・”奥羽の鬼姫”という綽名

・息子の干乾びた目玉を本人の前で食べた

・醜くなった息子を疎んじて毒殺する毒親

・一触即発の戦場へ乗り込んで座り込み


 と、色々な逸話(*1)を持つだけあって、この期に及んでその態度は、流石だろう。

 大河は、装甲車から降りて行く。

「義様、初めまして。真田大河と―――」

 ぷっと、唾棄された頬にかかる。

「貴様!」

 すると、伊達兵が義姫を銃床で殴打した。

 そのまま殴り殺さんばかりの勢いだ。

 鶫も抜刀し、その首筋に宛がう。

「貴様―――」

「待て待て。殺すな」

 大河は、小太郎に塵紙で拭かれつつ、制止する。

「美女に唾棄されるのは、御褒美だよ」

「「変態」」

 誾千代、謙信は、ドン引きだ。

”東国一の美少女”の誉れ高い駒姫(幼名・伊万)の叔母だけあって、大層美人な義姫を処断は、中々難しい。

 大河は、笑顔で義姫を見る。

「義様。今後は、最上の菩提を弔って頂きます」

「分かっているわ! そんな事!」

 涙を堪えつつ、答えた。

「又、今後、最上は、一切の統治権を伊達に移譲します」

「……く」

 戦に敗れた以上、当然の事だ。

「義守、義時は、どちらで?」

「戦っているわ。死ぬまでね」

「敵ながら天晴ですな」

 嗤って大河は、義姫の顎に触れる。

 すると、噛んできた。

 瞬時に手を引っ込めた為、指は無事だが、毛利良勝の様に食い千切られていたかもしれない。

 恐らく、日ノ本で最も狂暴な女性かもしれない。

「まぁまぁ、落ち着いて下さい―――」

「黙れ! 私を犯すんでしょう? この下衆野郎!」

「この!」

 堪忍袋の緒が切れた鶫が、今度は、引き金に指をかけた。

 妄信する程の上官をそこまで罵られたのだ。

「鶫、待て」

 それでも大河は、笑顔で銃口を掴む。

「若殿!」

「良いんだよ。策はあるから」

 慈母の様に微笑んだ後、大河は、指パッチン。

 直後、橋姫が現れ、そっと義姫に吐息をかけた。

「ひゃ!」

 可愛らしい声を出した後、義姫は、へたり込んだ。

 そして、失禁する。

「「「……」」」

 ”奥羽の鬼姫”のその姿に伊達兵もニタニタ。

「な、何をしたの?」

「貴女には、知る必要の無い事Need not to know.、ですよ」

「へ?」

 徐々に眠くなっていく。

「く……」

 隠し持っていた短刀で、大河の胸を狙うも、届かない。

 義姫は、静かに倒れるのであった。


[参考文献・出典]

*1:和楽web

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