第354話 家庭円満

 万和4(1579)年1月下旬。

 婦人会定例会議で、阿国がある提案をした。

「……大河に休日を?」

 最初に反応を示したのは、誾千代であった。

「はい。真田様は休日でも家族への奉仕に積極的です。なので、御本人は休める時機が殆どありません」

「「「……」」」

 実際、妻達は大河が休んでいる所を見た事が無い。

 千姫が問う。

「では、わたくし達が、真田様に御奉仕を?」

「はい。妻ばかりが支えられていては、後世、私達は、悪女と記録されるかもしれません。真田様が努めて得た評価を、私達で下げるのは、本意ではないかと」

「「「……」」」

 全くの正論で誰も異論反論はしない。

 宮家みやけに次ぐ家格になった山城真田家を、妻達のせいで下げる訳にはいかない。

「大所帯の為、複数名による輪番制及び時間制で御奉仕出来れば、と考えている次第であります」

 誾千代が、木槌こづちを鳴らす。

「……この提案の賛成者は、御起立御願いします」

 ざっと、全員、立ち上がった。

 国会の様に多数決で決める。

 これが、山城真田家の方針であり、規則だ。

 1人、又は少人数による支配は出来ない。

「賛成多数。よって、本提案書は、可決されるに至りました」

 再び、木槌の音が鳴る。


 後日。

 大河の下に着飾った誾千代、謙信、お市がやって来た。

「貴方」

「うん?」

 新聞紙を寝転がって読んでいた大河は、尻を掻きつつ、起き上がる。

「どった?」

「今日は、外出の予定無いんだよね?」

「そうだよ? 何処かに行きたい?」

「そうじゃなくてさ。休んでもらいたいの」

「? 公休日だけど?」

「そういう意味じゃなくて、今日は、何もしなくて良いから」

「? ……そうか?」

 未だ理解していない様な大河の背後にお市が回り込み、肩を揉みだす。

「うわ、固い」

「疲れが溜まっているのかな? ―――ぐえ」

 そのまま、布団に寝かされた。

「ずーっと寝てて良いから。楽な姿勢でしょ?」

「……まぁ」

 襖が開き、華姫と累、三姉妹が、やって来た。

 猿夜叉も茶々の腕に居る。

「ちちうえとそいね~♡」

「「だ~♡」」

 愛娘達と息子が寄って来た。

 朝の気温は、1度。

 寒い為、布団で暖まりたいのは、事実だ。

「じゃあ、二度寝すっか?」

「「だー♡」」

「にどね~♡」

 3人は、大河の胸の上で寝る。

 正直重いが、想いは十分に伝わる。

「じゃあ、私達は、朝食作るから」

「兄様、御期待下さい」

「兄者、あいらぶゆ~」

 三姉妹から接吻を受けた。

 そして、誾千代達と出て行く。

 

 暫くすると、

「お待たせ~」

 お江の陽気な声で起こされた。

 時間を見ると、二度寝は、30分程。

「「zzz……」」

 見ると、華姫と猿夜叉丸は、胸からずり落ち、横で寝ていた。

 起こす事は無いだろう。

 唯一、胸元を独占していた華姫と目が合う。

「お早う」

「おはよう」

 眠いのか、未だ、覚醒し切っていない目だ。

「まだ眠い?」

「うん……でも、おきる」

「そうか」

 華姫を抱っこしつつ、大河は2人を起こさぬ様、慎重に起き上がる。

「おお、美味そうだな」

「にっしっし。兄者好みの味付けだよ」

 献立は、

・白御飯

・味噌汁

・焼き魚

・目玉焼き

 誾千代達、三姉妹と一緒に摂る。

 大河には、目玉焼きが六つ。

 6人が心を込めて作ったものだ。

 お江が作った物だろうか。

 1個だけ、焦げに焦げた物がある。

「……お江?」

「失敗しちゃった。てへぺろ」

 可愛く舌を出す。

「……全く」

 座り位置は、

     お市

 誾千代:大河:謙信

 茶々 :お初:お江

 となっている。

「「はい、貴方♡」」

 左右からあーんされ、大河は口を開ける。

 焼き魚は、ちゃんと骨が取られ、味噌汁もフーフーされた状態で入れられた。

「真田様、御飯をどうぞ」

「兄者、これ私が炊いたんだ。食べて食べて」

「兄者、この御味噌、私が作ったんだ♡」

 6人と共に朝の時間は、斯うして過ぎるのであった。


 6人と子供達が去った後、御次は、

「山城様~♡」

「「真田様~♡」」

「大河、来たわよ」

 千姫、阿国、松姫とエリーゼがデイビッドを連れて来た。

 ここで大河は悟る。

 妻達が集団グループを作って、時間制で来ている事に。

「だー!」

「おお、デイビッド、よく来たな。眠くないか?」

 デイビッドを抱き抱えて、妻達に順番に接吻していく。

 阿国と松姫が左右に陣取り、千姫が背後を。

 エリーゼは、膝の上だ。

「デイビッドは、ね。もう研究タルムード、覚えたのよ」

「おー、凄いな。デイビッド、最も良い教師とは?」

「『最も多くの失敗談を語れる教師』、だ!」

 ヘブライ聖書は、ユダヤ人が苦労する事を求める。

 苦難を経験すべきだと教えるのだが、そうした発想が、ユダヤ人の渋とさやタフさの基盤になっているという。

 そして、ユダヤ人の議論では、失敗談を話し合うことが最も奨励される。

 失敗を分析する事で、正しい道が見つかると考えているからだ。

 その失敗を有効活用する考えは、スタートアップ等の新たな挑戦でも生かされる(*1)。

 デイビッドは、日本人の血を引いているが、エリーゼとの会話は、ヘブライ語だ。

 将来的には、日系ユダヤ人として生きるかもしれない。

「正解だ。流石だな?」

 頭を撫でると、デイビッドは、気持ち良さそうに目を細める。

 松姫が問う。

「真田様は、その本を暗記しているのですか?」

「暗記って程ではないが、幾つかはな?」

「えりーぜ様、私も読んでも良いですか?」

「良いよ」

「有難う御座います」

 異教徒同士(ユダヤ教と仏教徒)だが、この2人は仲が良い。

 エリーゼは、世界初の女性ラビとして、悩む事が多く、その度に尼僧の松姫に相談しているのだ。

「エリーゼ。朝シャンした?」

「うん。匂う?」

「ああ、香ばしいよ」

 エリーゼの髪の毛に顔を埋めてクンカクンカ。

「もう、匂いフェチね?」

「変態なんだよ」

 真顔で宣言すると、大河は、エリーゼの胸を剥く。

「さぁ、デイビッド。おっぱいだよ」

「だ!」

 デイビッドが母乳を飲みだすと、エリーゼも抱き締める。

 育児をしている間、大河は、3人と話す。

「元康は?」

「おじい様の所に居ますわ」

「孫煩悩だな?」

「山城様と一緒ですよ」

 千姫は、大河の胸を開けると、胸筋に触れる。

「誘っているのか?」

「それありますよ」

「も?」

「今日は、山城様に楽をさせて頂こうかと」

「……分かったよ」

 千姫を抱擁し、接吻する。

「山城様、第二子は、女の子を希望したいです」

「神様次第だよ」

 千姫と久し振りにイチャイチャ。

 蔑ろにしていた訳ではないが、最近はお互いの時機が合わず、疎遠の様になっていた。

 2人は、今まで接する事が出来なかったのを埋め合わせるかの様に愛し合う。

「……山城様♡」

「好きだよ―――」

「「私もです」」

 阿国、松姫も加わる。

「しょうがない。全員纏めて相手してやる―――」

「止めなさい」

「ぐえ」

 エリーゼに手刀を叩き込まれ、大河の頭部に大きなたん瘤が生成される。

「そういうので来たんじゃないんから。ゆっくりしなさい」

「いや、でも―――」

「しなさい(威圧)」

「……はい」

 結局、千姫からマッサージ、エリーゼからは御茶を、松姫からは肩叩きを。

 阿国からは、舞踏を披露される大河であった。


 昼頃。

 朝顔、ラナ、楠、幸姫の4人と昼食のカレーを楽しむ。

 カレーは、ムガル帝国(現・インド)から輸入した物を大河が魔改造し、日ノ本士流カレーが誕生していた。

 ココ〇番屋の様なカレー専門店も大河が経営者として、創業し、今では全国に支店が存在する程だ。

「朝顔、ほっぺに付いてるよ」

「あら、御免」

 朝顔は、舌で舐めとる。

 本来だと手巾等で拭くのが、正式な作法なのだろうが、山城真田家は、其処まで礼儀作法に厳しくは無い。

 なので、不作法と感じつつも、朝顔は自由に過ごす。

 楠がカツカレーを頬張りつつ、

「これって饂飩にもあるんだよね?」

「そうだよ」

「じゃあ、今度、作ってみるね?」

「おお、そうだな。でも、汁には、気を付けるんだぞ?」

「うん。分かってる」

 ラナと幸姫は初めてのカレーに興味津々だ。

「野菜が沢山……良い料理ですわ」

「肉も美味しい……」

 2人共、虜になった様で、両目は、分かり易く♡になっている。

「御馳走様」

 朝顔が1番に完食後、大河の太腿を枕にする。

「おいおい、奉仕に来たんじゃないのか?」

「私は、皇帝よ。奉仕される存在なのよ」

「……そうだな」

 苦笑いしつつ、大河は、朝顔の頬を撫でる。

「お休み。御姫様」

「えへへへ」

 笑顔で朝顔は手を振った後、眠ってしまう。

 逆側の太腿は、ラナが占拠した。

「もう、御腹一杯食べすぎちゃった。私もお休み」

「ああ、お休み」

 左右の太腿を上皇と王女に枕にされてしまった。

「「……」」

 幸姫と楠は、羨ましそうに見つめるしかない。

「2人も御出で」

「え? でも、貴方が休む日―――」

「良いんだよ。午前中、ゆっくり出来たしね。後は、俺が奉仕する番だ」

 大河は微笑んで2人の手を掴んで、引っ張る。

 3人は、見つめ合い、接吻する。

 時間は許すまでの間ずっと。


 最後は、

・アプト

・ナチュラ

・橋姫

・鶫

・小太郎

・珠

・与祢

 の7人だ。

 和菓子と甘茶を持って来て、一緒に食べる。

「若殿は、今日も休みませんでしたね?」

 典侍のアプトは、大河の体調を心配していた。

「根っからの仕事中毒者ワーカホリック何だろうな?」

「わ? 何て?」

「何でもないよ」

 アプトは侍らせ、大河はその頬に接吻。

「ああ、先輩狡い!」

「若殿、珠にも」

「はいよ」

 珠にもして、やはり、横に座らせる。

 7人の中で2人は、最も愛されているだろう。

 尤も、5人も負けず嫌いだ。

「主、愛を下さい」

「「「若殿……」」」

 小太郎、与祢、ナチュラが迫る。

 鶫と橋姫は、見詰めているだけで何もしない。

 2人共、大河の傍に常時居る為、以前程の嫉妬心は無いのだろう。

「おいおい、愛してるぜベイベ」

 3人をクレーンゲームの様に腕を使って掻っ攫い、膝の乗せる。

 最年少・与祢が真ん中だ。

「若殿、今日も目合まぐわいましたね?」

「接吻しただけど?」

「それも駄目です。今日は、完全にお休みなさって欲しかったのに」

「済まん」

 与祢の頭に顎を置く。

「反省してませんね?」

「これでもしてる方だよ」

 与祢の態度にアプトは、注意する。

「若殿にそんな口の利き方―――」

「良いんだよ。気にしてないし。鶫も殺気を抑えろ」

「……は」

 女性陣の中で最も忠誠心が厚い鶫は、最も沸点が低いだろう。

 大河が居なければ、与祢を殺していたかもしれない。

 そういう時の対処方法は、一つだ。


[参考文献・出典]

*1:NEWS PICKS 2017/8/25

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