第333話 図南鵬翼
職場復帰後、大河は、赤線に居た。
公娼を買う為―――ではない。
責任者として見回る為だ。
売春を合法化した大河は、事実上、公娼の
大河に付き従うのは、鶫、ナチュラ、小太郎だけ。
何時もの侍女達は、婚約者でもある為、流石にここには、来させる事は出来ない。
「主、公娼って国家公務員なんですよね?」
「ああ。そうだよ。今では、人気の職業の一つだ」
大河が行っているのは、男娼や娼婦を第三者が管理する、『管理売春』という手法だ。
自分で客を見付けて行う『単純売春』とは、違う。
管理売春は、
・オランダ
・ドイツ
・オーストラリア
・ニュージーランド
・タイ
等で合法化に至っている。
これは、国によっては、理由が異なるが、
・性病対策
・性犯罪対策
の為に行われている。
現代でも、中国やタイ等では、地方での貧困から、少年少女が、都市部の闇で売春をする事例が多く、性感染症が蔓延し、大きな社会問題となっている。
タイでは性病の蔓延を防ぐ為、衛生管理を徹底し、かつ税収を確保する目的で、政府許可の下での管理売春が合法化された。
ドイツでは斡旋を伴う売春を完全に合法化し、売春地帯を一定の場所に隔離し、ドイツ政府が性病管理をする事によって、性病が減少したとされており、タイはドイツを参考にしたといわれる(*1)。
又、売春、犯罪組織の資金源にも成り得る。
現代でもマフィアやギャング等の資金源が一部になっているのが、実例だ。
その為、大河は犯罪対策としても公娼制度導入に踏み切ったのである。
「……」
鶫は、飾り窓を見る。
男娼は熊を彷彿とさせる者から線の細い者まで。
娼婦も、男性の様な外見から、老女までと幅広い。
若さ一辺倒だけでなく、年齢層が高いのも居るのは、様々な
流石に18歳未満は居ない。
そこは、意外と現代式だ。
「……鶫、如何した?」
「いえ、お肌が綺麗な方が多いなと」
「化粧品製造業者が、広告主だからな。良い広告塔でもあるよ」
現代で公娼に最も近いのは、スポーツ選手だろう。
体を使って働き、
又、公娼は、大名専用の
彼等は、エミール・ゾラ(1840~1902)の『ナナ』のモデルの1人とされる、コーラ・パール(1835? ~1886)の様な
一夫一妻制では無い為、男女共、幾らでも側室を作る事が出来る。
活躍すれば高給取り。
それが日ノ本の公娼だ。
夜の為、鶫は、後ろ指を指される事は無い。
「若殿、あれ、買いましょうよ」
ナチュラが興味を示したのは、仮面屋。
能面の、
・翁
・般若
・小面
等の他に、女王様系のドミノマスクも売っている。
「主、これって何ですか?」
「仮装用だよ。顔をあれで隠して交わるんだと」
実話誌で、「昨今の武将の流行りは、仮面で自分の正体を隠し、見知らぬ相手と寝る事である」と報じられてから、この様な性行為が巷では流行っているのだ。
寝る前、公娼と客は、性病検査を受けなければならない。
性感染症を発症していたら即アウト。
万が一、隠してまま寝た事が発覚した場合、客は一生、出禁。
治療費は、全額自腹の上、賠償金も支払う義務が生じる。
悪質、と判断された場合は、極刑もあり得る。
その為、客と公娼は、寝る前は、非常に緊張しているのだ。
「折角だし、皆で仮装するか?」
「「「!」」」
3人の目の色が変わった。
大河は、笑顔で自分と3人分―――翁(大河)、般若(鶫)、ドミノマスク(ナチュラ)、小面(小太郎)のを買うのであった。
赤線の事実上の
その中の一つが、尼寺だ。
連れ込み宿で3人と愛し合った翌朝、彼女達と共にそこに参拝していた。
「松、先月は、如何だった?」
「合計で100人でしたね」
「中々、減らないな?」
「保守的な殿方が多いですからね。法律で女性を守る事が出来ても、固定観念で凝り固まった馬鹿の脳味噌は、そう簡単に変えれませんから」
尼僧なのに言葉が強い。
だが、松姫が、怒っているのは、分かる。
尼寺に駆け込む女性が多い=それだけの女性が、弾圧されている証拠なのだから。
「真田様程の男性は居ませんよ。増えて欲しいんですが」
「時間が解決するしかないな」
徹底的に保護する事も出来なくは無いが、強権を使えば、顰蹙を買う可能性がある。
ただでさえ、大河は、潜在的な政敵が多いのだから。
妻帯者、そして家族が居る以上、余り目立った行動は、慎むべきだろう。
「真田様の様な男性が増えたらいいのに」
「有難い話だが、それだと、女性が不足するぞ? 男女比の均衡が崩れかない」
嫁不足が深刻な国は、中国だ。
2015年、衝撃的な資料が、報じられた。
―――
『中国の報道機関は、『2020年、「光棍」危機が大爆発、「光棍男性」が1千万人に達する』と報じている(*2)。
『光棍』は直訳すると「抜き身の棒」=「
中国では、出生時の男女比で、男児が異常に多い状態が続いている。
一人っ子政策の影響で、女児を妊娠した場合、人工中絶してしまう夫婦が相次いだからだ。
中国大陸において現在、25~35歳未婚の男性:女性の比率は136:100。
男性100人当たりに換算すれば、約26・5人は「相手女性が居ない」事になる。
35~45歳では男性:女性が206:100。
結婚出来ない男性の増加は、農村部で特に目立つ。
中国では戸籍の移動に強い制限があり、農村部では生活環境や行政サービスが劣悪な為、農村部出身の女性が都市部出身の男性と結婚する場合はあるが、その逆は殆ど考えられないからという。
中国政府が男女の産み分けを厳禁し、「計画出産」政策も緩和した為、出生時の男女比は2008年以降は「僅かに正常化」したが、現在でも女児100人に対する男児は「110人台後半」で推移している。
社会統計等を専門とする姚美雄氏は、過去34年間の平均値である「男児114.7人」の状態が続けば、中国は2020年に「独身男性爆発の危機」を迎えると指摘。
具体的には、
・高齢男性と若い女性の結婚
・既婚女性の夫以外の男性との性的関係
・同性愛
・性犯罪
・性感染症
等の増加を指摘した。
農村部では既に、
・売買婚
・売買婚に絡む詐欺
が多発している』(*3)
―――
その結果、外国人女性が、被害者に成り得る場合もある。
特に標的にされているのが、東南アジアだ。
―――
『【「妻として売られた」外国人女性1100人を救出 中国当局】』(*4)
―――
若し、大河の様な男性が増えたら、この様になるだろう。
一部の男性が多くの女性を囲い、多くの男性は結婚が難しくなる。
「俺の場合は、特殊だと思うよ」
「そうですかねぇ……」
松姫は首を傾げつつ、大河の膝に座り、甘えるのであった。
[参考文献・出典]
*1:ウィキペディア
*2:第1財経 2015年9月29日
*3:サーチナ 2015年9月30日
*4:AFP 2019年6月22日
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