第330話 琴瑟相和

 布哇ハワイで有意義に旅行をしている大河だが、ちゃんと、仕事もしている。

 朝顔、ラナ、ナチュラを連れて、オアフ島を訪れていた。

 泳ぐ為―――ではなく、ワオラニを訪れる為に。

 オアフ島のヌアヌにあるその地は、ハワイの神々が地上に最初に降り立ったと伝えられている。

 日本で言う所の宮崎県高千穂町に当たる場所かもしれない。

 ハワイで初めての聖域ヘイアウが造られ、ハワイ人の祖とされる男性神のワケアと女性神のパパもこの地で暮らしていたと言われている(*1)。

 ゴルフコースの様な緑の世界に開けた空間がある。

 何も生えてないそこは近付くだけで、何かパワーを感じる。

「ここまで」

 案内者の王族が、制止する。

 それ以上、入れば聖域を侵す事になる様だ。

 郷に入っては郷に従え。

 大河と朝顔は、指示に従い、動かない。

 後ろのナチュラも横のラナも神妙な面持ちだ。

 神との対話が始まる。

「―――」

 案内者が、何事か話すと、

「……」

 木々が揺れ、風が起きる。

 ざわわわわ、と。

 時機が合った、とも考えられるが、聖地だけあって、感覚的には否定し辛い。

「「「「……」」」」

 4人は目を閉じて、神々に敬意を払う。

「……」

 鬼である橋姫は、毛髪に隠れた。

 大河には分からないが、圧が凄いのだろう。

 突如、灰色の雲がやってきて、人間の顔になる。

『……貴殿が、救国の英雄か?』

 直接、脳内に響く。

「……」

 目を開けて、他の人の反応を伺うも、彼等は驚いた様子は無い。

 喋りかけられているのは、大河だけの様だ。

(……失礼ですが、貴方は?)

雷の精カネヒキリである。真田大河よ、此度こたびの戦功、大義であった』

(有難う御座います)

『貴殿の戦功によって、歴史は変わった。この国は未来永劫、侵略される事は無い』

(神様、質問が御座います)

『積極的だな? いいぞ、申せ)

 鬼の橋姫と出逢ったのだ。

 雷神と逢っても、今更驚かない。

(カヘキリ国王は、神様の子孫だったのですか?)

『そんな事か』

 雷の精は、鼻で笑った。


 カへキリ王は、マウイ島の国王で、ハワイ統一戦争の際、カメハメハ国王と激しく戦った。

 彼は、自身の事を雷神カネヘキの子孫と主張していた。

 雷神カネヘキリは右半身が漆黒、左半身が白かったと言われており、 カヘキリも、右半身全部に漆黒の入墨をしていたという(*2)。


『貴殿は、現実主義者ではなかったか?』

(神話と現実がリンク―――繋がるのは、どこの国も同じでしょう?)

『確かにその通りだが、神々は、人間同士の争いには、関わらない。平和主義だからな』

(成程)

『貴殿は、面白い奴だな。流石、王女が惚れ込むだけある』

 雷神は、がっはっはと豪快に笑った後、釘を刺す。

『幸せにするんだ。家庭内暴力でもしったら……分かっているよな?』

(……は)

 言わないが、雷神だけあって、文字通り、雷を落とす事も簡単だろう。

 第二の清涼殿落雷事件を起こす事も出来ると思われる。

 ラナを見る。

 そして。抱き寄せた。

「?」

 ラナは、目を閉じたまま困惑しているが、雷神に見せる為だ。

『その姿勢を続けなさい。さすれば、貴家は安泰であろう』

 満足した雷神は、消え去る。

 直後、晴れ間が広がる。

 先程までの曇りが嘘だった様に。


[参考文献・出典]

*1:note 聖地の中の聖地『ワオラニ』。その不思議なマナのパワーに引き寄せられる 2020年7月26日 一部改定

*2:ハワイの神話と伝説

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