布哇動乱
第323話 帝国主義
日ノ本では平和な時代に入ったが、
その総合面積は、約2万8313平方km。
主要な島は、八つ。
・ハワイ島
・マウイ島
・カホオラウェ島
・ラナイ島
・モロカイ島
・オアフ島
・カウアイ島
・ニイハウ島
どれも、日本人ならば一度くらいは、聞いた事がある地名だろう。
その中の一つ、ニイハウ島には沢山の欧米人が入植していた。
現代の所有者は行政だが、この世界線では違う。
1864年、スコットランド人のエリザベス・シンクレア夫人が、カメハメハ5世(1863~1872)からピアノ1台と 1万ドルで、ニイハウ島を島民付きで購入して以来、所有者は代々、その末裔なのだ。
島に出入り出来るのは原則としてその一家とカウアイ郡関係者だけで、一般人の出入りは難しいと言われている。
現在では島の一部を散策できるツアーもあり、上陸については容易であるが、島民への接触は招待された者以外は認められていない(*1)。
日本でも犬山成瀬氏が、平成16(2004)年まで犬山城を個人的に所有していた様に。
観光地が意外に個人の所有というのは、日本でもある話だ。
そんな島に危機が迫っていた。
時は、万和3(1578)年11月下旬。
そのニイハウ島の欧米系島民が、結託して、王宮を襲う。
「ぎゃあああああああああ!」
虚を突かれた衛兵は殺され、
「いやぁあああああああああああ!」
女官は暴行される。
襲撃者の島民は、欧米系であって、王国に忠誠を誓った覚えは無い。
国籍も
イギリスにドイツにスペイン、ポルトガル、オランダ、ロシア……
彼等は自分達の国籍があるにも関わらず、
王宮と共に武器庫も襲われ、沢山の武器が盗まれていく。
中には、大砲や連発式の銃等。
王国を守るが為に日ノ本から輸入した最新兵器も含まれていた。
各地で日本人傭兵と白人テロリストの銃撃戦が行われる。
島民は、日本人傭兵と近衛兵により、何とか周辺の島々に避難するも、カメハメハ国王は、遅れた。
島民を最優先した為だ。
「白豚め。選挙権を与えた恩を忘れたか?」
「異教徒から与えられた恩など要らぬわ」
テロリストを指揮するのは、エドワード。
イギリスからの入植者で、王制を倒し、独立国の建国を画策していた。
太い腕で、侍従長を絞め殺す。
「ぐえ……」
「色付きの癖に発展しやがって。身の程を弁えろ」
どさりと、侍従長の死体が、国王の前に横たわる。
「色付きとはいえ、お前は国王だ。簡単には殺しはしないよ」
エドワードは、侍従長の遺体に小便をかける。
「……!」
国王は、今にも飛び掛からない勢いだ。
それをしないのは、人質の安否を想っての事である。
「……ラナは、無事なんだよな?」
「当たり前だよ。奴は色付きだが、美人だからな。奴隷には勿体ない。見世物にして、ロンドンで働いてもらうよ」
「!」
―――人間動物園。
その名の通り、人間を見世物にし、入場客から金をせしめる興行だ。
イギリスやフランス等の植民地になったアフリカでは、多くの黒人が、欧州に連行され、動物の様に虐げられているという。
ラナもその対象に選ばれてしまったのだ。
「……悪魔め!」
「俺が悪魔なら、色付きは獣だ。白こそ貴い」
エドワードが口笛を吹くと、テロリスト達が、入って来た。
「!」
彼等は、女官を縛り上げ、犬の様に引き
「陛下。王国の最後は、貴方の判断次第だ。一切の主権を放棄し、俺達に全てを渡すんだ。なあに簡単な話だ。権利を放棄し、第三国に亡命すればいいだけなんだからよ」
「……!」
外国人参政権を許したばっかりに国が滅びかけている。
国王は自分の判断が、間違いだった事を今になって思い知るのであった。
『【
『【
『【10万人の島民、本島に帰れず。情報錯綜】』
———
様々な見出しが各紙を踊っていた。
が、それでも、日ノ本では、連日トップニュースだ。
夏場に人気な観光地であり、日系人島民も多く、皇室と仲良しな王室がある国だけあって、注目しない訳にはいかないだろう。
ナチュラは、新聞から目が離せない。
「……」
朝から晩まで血眼になって、記事を読んでいる。
親戚のラナの無事を祈っているのだ。
然し、どの新聞社も彼女の安否を報じていない。
一時は、大河の新恋人、と報じられた有名人なのだが、報道が無いのは、不思議だ。
(……逃げた島民の中に居るのかな?)
記事によれば、島民の9割は、政変が起きた時、近隣の王室直轄の島に逃げた。
残りの1割は、日本人傭兵と共に義勇軍を率い、侵略者と本島で戦っている。
「失礼します」
焦った顔のナチュラが来た。
義姉が行方不明なのだから、そんな表情にもなるだろう。
「姉の件か?」
「はい……若殿の情報網なら、何か御存知かと」
「今、
「そう……ですか……」
「案ずるな。手は打ってある」
「え?」
「
「救出、ですか?」
「そうだな。派兵は、流石に出来ん。政府の許可が必要だからな」
「……」
ナチュラは、今にも泣きだしそうだ。
家は違えど、仲は良い。
「……分かったよ。助けに行く」
「!」
女性の涙に弱いのが、大河だ。
ナチュラを抱き締めつつ、
「小太郎」
「は」
「私兵は、幾ら出せる?」
「急ですので、1万は無理かと」
「其処までは要らん。300で十分だ」
「え?」
テロリストの数が分からない為、その数でも不安だが、戦争をしに行く訳ではない。
あくまでもラナの救出だ。
それ以外の目的は無い。
「
「……」
何か言いたげなナチュラだが、
『第1条 家長は常に正しい。
第2条 家長が間違っていると思ったら第1条を見よ』
と家訓が示している様に、大河の言う事は絶対だ。
「……」
遂に泣き出してしまう。
「ったく」
大河は、小さく呟いた後、有給休暇申請書を引出から取り出す。
そして、12月1~23日までの23日間の有給休暇を取得する。
「……若殿?」
「冬の
急に決まった遠征だが、旅行も兼ねている為、妻達も反来しない。
「兄者、12月の
「1年間、泳げるから問題無いよ」
12月の
都市 :最高気温:最低気温
ヒロ :26・7 :18・3
ホノルル:27・8 :20
カフルイ:27・8 :18・3
リフエ :26・1 :20
と、那覇市より暖かい(*2)。
都市 :年間平均気温:年間平均最高気温:年間平均最低気温
那覇市 :23・1 :25・7 :20・8
「お江、行くわよ」
「はい、姉上」
女性陣は、服屋に新しい水着を買いに行く。
侍女の3人も一緒だ。
城に残るのは、大河と愛人のみ。
「主、私達も行くんですよね?」
「そうだよ」
「水着を新調したいんですが?」
「分かってるよ」
小太郎、ナチュラ、鶫を抱き締める。
「3人には、向こうで買うから」
「「「!」」」
特にナチュラには、優しい。
その首筋に接吻し、
「あ……♡」
「ラナは、絶対に助けるからな? 安心してくれ」
「……はい♡」
大河は、約束は、遵守する男だ。
絶対、と言った以上、完遂出来るか如何かは分からないが、実行するのは、確かである。
愛人、という不安定な立場であるナチュラにも、正妻同様の気配りと優しさ。
愛人達が、大河を慕うのは、それらも理由であった。
鶫が問う。
「若殿、今回の旅は、よく朝廷が御許しして下さいましたね?」
「
現代でも皇室は、タイのチャクリー王朝と親しい。
プミポン国王が崩御された際、当時の天皇は、訪越から御帰国される際、訪泰し、弔問された。
『さよならを告げる時がやってきました―――』
という事前の弔電もタイの国民の胸を打ち、両者の絆の深さを表した程だ。
現在、タイを支配しているのは、アユタヤ王朝(1351~1767)。
山田長政(1590~1630)が活躍した時の王家だ。
現代のチャクリー王朝の創設は、次代のトンブリー王朝(1767~1782)を経てからの事。
その為、
派兵される海軍は、巡洋艦2隻。
・浪速
・高千穂
である。
何時もの航空母艦ではなく、巡洋艦なのは、大河の意向であった。
史実のハワイ併合直前。
当時の日本政府は、白人に侵略されていく親日国・ハワイ王国を助ける為に東郷平八郎率いる防護巡洋艦の浪速等を「邦人保護」を理由に派遣。
ホノルル軍港に停泊し、白人政変勢力を威嚇したのだ。
アメリカの軍艦、ボストン等が停泊する中、この行為は、日米が、衝突しかねない危ない瞬間であっただろう。
太平洋戦争よりも遥か前の事だ。
この日本の行動に王党派のハワイ人は、感涙したという(*3)。
結局、ハワイは、アメリカの一部になってしまったが、日露戦争以前、有色人種が白人に勝った事が無い戦史を考えると、当事者でもないのに、ハワイを気にする当時の日本政府の決断力は、危険であった筈だ。
にも関わらず、巡洋艦を派遣したのは、アメリカと最悪、対峙してもハワイを助けたい、という政府の思惑があったのだろう。
大河も当時の政府に倣い、敢えて、起源がアメリカの航空母艦ではなく、国産の巡洋艦にしたのである。
(今、助けに行くからな)
[参考文献・出典]
*1:ウィキペディア
*2:気象庁・気象統計情報 1981~2010年の平均値
*3:山中速人『ハワイ』岩波書店〈岩波新書〉 1993年
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