第313話 鉄腸豪胆
体長15cmになった橋姫は、今まで以上に夜を楽しむ。
(……可愛い寝顔)
鼻提灯を垂らし、大河は眠っている。
その腕には、誾千代と松姫、楠、お初、お江。
今晩は5人を相手にした為、相当疲れたらしく、
「……兄者♡」
お江は、寝惚け眼で、大河に接吻していた。
「お江、寝たら?」
「だって、兄者を独占したいんだもの」
「でも、睡眠は、重要よ」
「そうだね。じゃあ、橋様に譲るよ」
「有難う。でも、遠慮しとくわ。今、そんな気分じゃないし」。
「お休みなさい」
「お休み」
幸せそうな笑顔で、お江は、目を閉じる。
完全に彼女が就寝した所を確認した後、橋姫は、魔力を使って、大河の顔面を乾かしていく。
慎重に。
加減を間違えると、大河はミイラになってしまう。
愛しい男のその姿は、流石に見たくない。
完全に乾いた所で、橋姫は、夜這いを始める。
「……」
じー。
360度、何処から見ても大河は可愛い。
20代の癖に10代に見えるのは、不思議だ。
このまま、ベンジ〇ミン・バ〇ンの様に、加齢する毎に若返るのかもしれない。
……むくり。
大河の息子が起床。
あれだけ交わったのに、まだまだ元気とは、底無し沼の性欲は、伊達ではない。
本当に前世は、膃肭臍なのかもしれない。
(本当、可愛いわねぇ)
そして、頬をツンツンと突くのであった。
サキュバスが、来るまでの間、ずーっと。
政治家としては、ほぼ隠居状態であるが、大河の影響力は、全土に轟いている。
彼が首を盾に振らなければ、公共事業が動かない場合もある程だ。
実際には、そんな事は無いのだが、多くの大名や官僚、役人は、総じてその様に考えている。
「真田よ、しんかんせん、とやらを薩摩にも通してくれないかの?」
今日来たのは、島津義弘。
普段は、都内の島津家の屋敷に居るのだが、今回は、観光の
「良いですけど半永久的な黒字が見込めないと、通せまんよ?」
戦後、日本国有鉄道の時代、政治家は地元の有権者に自分を
その有名な例が、荒舩清十郎(1907~1980)だろう。
―――
『1966(昭和41)年8月。
第1次佐藤第2次改造内閣運輸相に就任予定の荒舩は、国有鉄道に深谷駅を10月1日のダイヤ改正の際、急行停車駅に指定するように要請。
深谷駅は、自分の選挙区だった為、世論の批判を受ける。
9月3日。
夜、荒舩宅。
荒船、新聞記者に、
「私のいうことを国鉄が一つぐらい聞いてくれても、いいじゃあないか」(*1)
(※荒舩は後に国会で、何か一つ位俺の言う事を聞いても良いじゃないかと(国鉄に)言った様に新聞には出ておりますが、全くそういう事では御座いません」と発言しているが、実際は「一つ位…」は国鉄相手ではなく、記者に対する発言)
9月12日。
参議院運輸委員会
石田礼助国鉄総裁
「今まで色々御希望があったのだが、それを拒絶した手前、一つ位は良かろうという事で、これは私は心底から言えば武士の情けというかね」
と答弁(*この時の荒舩から
国鉄に対する陳情は、
1. 深谷駅からの始発列車を設ける事
2.深谷駅に裏口を設ける事
3.八高線の輸送力増強
4.新駅設置
等で、これに対し国鉄は予算措置を伴わず他への影響も少ない事から急行停車を認めたとされる)。
更にこの問題を皮切りに、次々と疑惑が国会で追及され、荒舩は10月11日に辞表提出。
辞任時の記者会見では、
「悪い事があったとは思わない。ただ、今は世論政治だから、世論の上で佐藤内閣にマイナスになると、党員として申訳ないので辞める」
と語っている。
所属派閥の領袖であった川島正次郎副総裁は、10月29日の記者会見で、
「荒舩君はやっぱり“野におけレンゲ草”(*『続近世畸人伝』に紹介されている、滝野瓢水が、知人が遊女を身請けし様としたのを諫めて詠んだとされる句「手に取るなやはり野に置け蓮華草」を引用したもの)だったよ」
と評した。
翌(昭和42)年の第31回衆議院議員総選挙で、埼玉3区から立候補した荒舩は、まず秩父神社で選挙演説を始め、
「代議士が地元の為に働いて何処が悪い。深谷駅に急行を止めて何が悪い」
と演説し喝采を浴びると共に、その余りにも直球な地元至上主義的な内容でマスコミ関係者の度肝を抜いた(*2)』
―――
荒船の地元優先主義は、決して悪い事ではない。
然し、経済的観点からだと、やはり、難しい。
「新幹線は、通したい気持ちは分かりますが、高額ですよ? 線路も車両も駅も」
「うむ。そこを何とか出来ないか?」
「お願いされても……国土交通省に嘆願書を出して下さいませんと」
「真田は、糞真面目だな」
「残念ですが規則ですから。それに若し、行えば、”鬼島津”より怖い人々に殺されますよ」
「ふむ? 鬼より怖い物があったっけ?」
「はい」
スーッと、襖が音も無く開く。
「呼びましたか?」
何故か槍を持った与祢が顔を出す。
「いえ、呼んでません」
「若殿、分かり易いですよ?」
無表情で、槍を構えたまま、大河の隣に座る。
「与祢、御客様に失礼だぞ?」
「申し訳御座いません。これは、若殿用なので」
「「え?」」
「失礼します」
今度は、珠が
そして、2人で槍を
「どうぞ、話をお続け下さい」
「「……はは」」
与祢の冷え切った声に、大河と義弘は、乾いた笑い声を漏らすのであった。
新妻、幸姫との新婚生活も忙しい。
幸姫は巨人症の為、他の妻とは違い、極力、外出しない。
やはり、目立つのは、嫌なのだろう。
なので、彼女と過ごす時は、基本、屋内だ。
「へ~。想像よりも質素な部屋ね?」
「飾りに興味無いからな」
今、居るのは、大河の部屋。
近衛大将という高位から、幸姫等の様に、豪華絢爛な暮らしをしている、と勘違いしている者は多い。
然し、実際には、大河は、浪費家では無い為、その生活ぶりは、極めて質素だ。
私室にあるのは、本棚と冷蔵庫位。
布団は、押し入れにある為、それを出し入れすれば良い事。
台所もあるが、滅多に使用する事は無い。
幸姫は、本棚を覗き込む。
「あら、好色ばかり」
「保健の勉強だよ」
「学生じゃないのに?」
「
大河は、畳に座ると、帯同していた小太郎を膝に乗せる。
「新妻の前で愛人を抱くの?」
「そうじゃないよ。幸は、自分で先導したい派だろう?」
「何が?」
「交わる時」
「……まぁ」
否定出来ない。
最初こそ、大河に先導されたが、2回目以降は、幸姫が積極的に行っている。
大河よりも大柄な体躯を活かしての夜の営みは、正直、どの妻よりも負けないだろう。
大河も幸姫を相手にする時は、されるがままだ。
「だから、幸姫には、自分の時機で良いよ」
「有難う。でも、その配慮は有難迷惑よ。私だって嫉妬するし」
「分かった。済まん」
幸姫に手を伸ばし、膝に座らせ、小太郎は、下ろされる。
「……」
不満げな小太郎だが、正妻と愛人では、当然出る待遇差だ。
致し方ない。
「幸は、体育したい?」
「何で?」
「いや、健康の為に、体育を予定に組み込もうと思うんだが。妻は、自由参加だよ」
「体育ねぇ……」
巨躯だが、幸姫は、どちらかというと、文化系だ。
読書や音楽等を好む。
「……自由参加って事は、不参加でも良いんだよね?」
「ああ」
「有難いけど、それって不参加者が参加者から蔭口叩かれる事無い?」
「……あるかもな」
表面上、仲良しな妻達だが、恋敵同士でもある。
山城真田家と実家を繋ぐ為に子をなす義務が課せられているのだ。
大河の価値観では、義務は受け入れ難い。
が、これがここでの価値観であって、無理矢理、変える事も出来ない。
幸姫が言う様に、不参加者は、参加から白眼視され、虐めに遭うかもしれない。
大河の妻達が、性格上そんな事をするのは考え難いが、実家からの圧力が来たら応じざるを得ない。
男女同権化しつつあるのだが、家父長制の重んじる家は多い。
実家に逆らえない妻が居ても何ら可笑しくは無いのだ。
「……延期だな」
「あら、簡単に変えるのね?」
「良い意見は直ぐ採用しなきゃな」
大河同様、”闇将軍”の異名を持つ田中角栄も陳情者に対し、
・出来る
・出来ない
と答え、出来る案件は、100%実行する様に努めていた。
大河も又、その姿勢だ。
「……貴方って不思議な人ね?」
「そうかな?」
「名君よ。流石、父上が一目置くだけあるわ。父上が喜んでいたわ。『城持ちに慣れた』って」
「良かったよ。”槍の又佐”が喜んでくれたなら」
自分の事の様に大河は、嬉しそうだ。
「そうだ。幸に贈り物があったんだ」
「何?」
「小太郎、ナチュラを呼んできてくれ」
「は」
小太郎が消えた後、数秒でナチュラを連れて来る。
「……何するの?」
「按摩だよ」
大河が目配せすると、2人は、頷き、幸姫を囲む。
そして、目にもとまらぬ速さで脱がした。
「え……?」
そして、全身にアロマ・オイルを垂らす。
「あ……♡」
冷たくて気持ち良い。
「「失礼します」」
2人も又、オイルを自らの手に垂らし、幸姫に重なる。
「あ♡」
2人に挟まれた幸姫は、その感触に気持ち良さげだ
大河考案のこれは、全国的に普及していくのであった。
[参考文献・出典]
*1:9月4日付『朝日新聞』
「一駅位、良いじゃないか」
9月5日付『朝日新聞』「天声人語」
「国鉄も一つ位俺の言う事を聞いてくれても良いじゃないか」
*2:ウィキペディア
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