第277話 幕天席地
万和3(1578)年7月下旬。
全国各地で高校野球の予選が始まる。
野球部のある学校自体がまだまだ少ない為、参加校も現代の様に数千も無いのだが、それでも日本一を決めるので盛んだ。
以降、米騒動や戦争等で中止された年もあったが、100年以上続いている。
この時期なのは、大河の狙いが反映されていた。
毎年7月は、現代でも行われている様に相撲の7月場所が開催される。
が、14日間しか熱気は続かない。
それを継続させる為に大河は、甲子園を7月場所終了直後に設定し、国内経済を安定させ様というのだ。
参加校が増えれば、現代の様に最長8月中旬までは、スポーツに注目が集まる。
その後、9月場所だ。
職業野球が、このまま成長していけば、3月下旬から10月上旬までペナントレースも出来るだろう。
山城国内各地でも予選が行われ、山城国代表が争われていた。
国立校でも野球部が出場する為、生徒達や教職員は応援に行き、土日の校内は、
「……静かね?」
「そうだな」
無人の教室にて、大河は、朝顔と過ごしていた。
お市、お初、お江も一緒だ。
「これはこれで乙だね」
「母上の言う通り」
「兄者、今度は、中庭に行ってみようよ?」
大河は、ブレザー。
女性陣はセーラー服と、全員学生気分を味わっている。
正確には、姉妹は本物の学生であるが。
兎にも角にも、全員は逢引を楽しんでいた。
「あら、
朝顔が、直す。
「有難う」
大河は20代なのだが、童顔の為、高校生のそれを着ても似合う。
実年齢を知らぬ者が見たら、勘違いしても可笑しくは無い。
上皇にこんな事をされ、大河も上機嫌だ。
「朝顔も似合ってるよ」
「でしょう?」
スカートを翻して、ターン。
朝廷から「
御坂〇琴の様に。
が、それでも楽しい。
女癖が悪くても、生足を見せなくても、大河はこうして喜んでくれる。
夫の膝にチョコンと座る。
次にお江が、制服を見せ付ける。
「可愛いでしょ?」
朝顔の様に禁則事項が無い為、お江はギリギリまで攻めている。
大河が嫉妬深い為、通常はそこまでしないのだが、今は夫婦の時間だ。
「如何? 興奮する?」
お市も続く。
2人のスカートの丈は、超ミニだ。
膝上15cmよりも更に短い。
もう下着が見えても可笑しくないレベルである。
現代だと首都圏のJKと同じ位だ(*1)。
一方、お初は真面目で校則を遵守する優等生タイプらしい。
膝下ぴったり、と所謂、神戸式で生足をがっちりガード(*1)。
「兄上、見たい?」
お初は、2人と違って見せたくない様だ。
「良いよ。それでも興奮するから」
「変態」
恥ずかしがり屋に配慮したのに、この罵倒。
女心に正解は無い。
然し、大河に見せれて嬉しそうで、お初は鼻歌混じりに舞踏を披露。
玄人の阿国と比べたら技術的な差は否めないが、それでも美少女は、何を着ても映える。
「貴方も見せて」
「はいよ」
お市にせがまれ、大河は朝顔の抱き上げ、横に椅子に座らせた後、皆の前に立つ。
謙信程、スタイルが良い訳では無いが、それでも現役の軍人だけあって、胸板から浮き出る胸筋は、素晴らしい。
「「「……」」」
浅井家の母娘達は、見惚れ、
「……うむ」
我が事の様に朝顔は、頷く。
高位でありながら、大河は、訓練を怠らず、ずーっとそのギリシャ彫刻の様な筋肉美を保っている。
否、日ノ本で最も近いのは、金剛力士像かもしれない。
「……」
大河は、疲れた目をして、不可視の煙草を咥える。
パントマイムだが、大人な感じが演出され、お市以外の女性陣の心を刺激する。
「「「格好いい……!」」」
唯一、お市は、「年下が大人の真似事をしちゃって」っと、母性を感じている。
「今日はね、お弁当を作ってきたの」
バスケットをお市は、机上に置く。
「おお~」
運動会の時の様な重箱。
・御握り
・蛸さんウィンナー
・唐揚げ
・サラダ
……
と、御馴染みのラインナップだ。
「ちょっと、唐揚げは、失敗したけどね。御愛嬌という事で」
「……」
間近で見ると、油でギトギト。
ご愛嬌とは思えない。
『女殺油地獄』の殺人場面を彷彿とさせるほど、脂っこい。
「……失敗したって?」
「そ。いつもはね。目分量を与祢ちゃん達に任すんだけど、今回は、張り切って自分でしてみたのよ」
「……」
窓の外を見ると、廊下で与祢が申し訳無さそうに会釈する。
謝罪は分かるが、完全に覗き魔なのは、彼女の嫉妬深さを表している。
珠、アプトが居ないのは、恐らく売店に与祢の分まで買いに行ったのだろう。
大河達が学生気分で逢引を楽しむ中、彼女達は彼女達で、楽しんでいる。
覗き魔なのは、非常に怖いが。
因みに鶫と小太郎は、この場には居ない。
2人の事だから、屋根裏に隠れているのだろう。
最近では、『空気を読む』力を身に着けたのか、夫婦の時間を邪魔する様な真似はしない。
『大河、私も食べて良い?』
(良いよ)
心の中に居た橋姫に答えると、彼女の存在が消え、目の前に登場。
妖艶な女医の恰好で。
お江同様、超ミニスカートだ。
「良いねぇ」
「「浮気者」」
上皇と元寡婦から、有難い(?)グーパンチを顔に頂く。
親友のそれを見て笑った。
「バーカ」
と。
痛みはあるが、親友の笑顔を見れただけでプラスマイナスゼロであろう。
午後。
部活動の生徒達が登校して来た為、入れ替わりで下校する。
流石に校内で人が増えたら、イチャイチャし難い。
校内で夫婦の時間を過ごす事は公私混同だが、不純異性交遊をしている訳では無い為、合法だろう。
生徒達の前では、流石に女性陣も露出が低い。
生徒の中には、思春期の男子生徒も居る為、教育上、好ましくないのだ。
横恋慕を推奨するのは、日ノ本の倫理観にそぐわない。
大河のみ洋装、女性陣は和装で馬車に乗り込む。
「兄者、夏休みは、海行こうよ?」
「そうだなぁ。琵琶湖?」
「あそこは、湖でしょ? 馬鹿」
厳しいお初。
ちょっとした小ボケなのだが。
「行くなら、夫婦岩がある所が良い」
「痛!」
お初の頭を手刀したお市の意見。
義理の息子とはいえ、事実婚した夫を「馬鹿」呼ばわりされるのは、流石に黙認出来なかった様だ。
「真田様、御免なさいね? 不躾で」
「良いよ。夫婦岩って阿賀神社の?」
関西圏で有名所は、そこだろう。
現在の東近江市にあり、浅井家の彼女も知っているだろう。
「そこは、行った事がある。御免なさい」
「良いよ。謝らなくて」
責めていないが、こういった配慮は、有難い。
長政や勝家、秀吉が惚れるのもこういった内面もあるのだろう。
「行きたいのは、二見興玉神社」
「あー、あそこか」
三重県で2番目に参拝者の多い神社であり、平成25(2013)年には、265万7590人もの参拝客が訪問している(*2)。
この時代でも、1日平均約7千人が参拝し、地域経済に大きな影響を与えている。
つい最近の7月14日には、例祭・大注連縄曳修祓式『大注連縄奉曳』が行われたばかりだ。
大注連縄の奉曳車、奉曳参加者を祓い清め、地元園児により、かえる踊りが奉納される。
その後、木遣りの歌声も高々に大注連縄を載せた奉曳車を参加者(参加資格・不問)が曳き、大花火が上がる中を神社に向けて進む(*3)。
それも、重要な観光資源だ。
「候補だな。皆の意見も聞きたいし」
山城真田家は、民主主義を採用している。
大河の独断では、行先を決める事は無い。
「1人で決めても良いのに」
「お江。これが、我が家だよ」
「分かってる」
大河の微笑に、お江も笑顔だ。
「でも、時には、家長らしく、即断即決して欲しいね」
お初の意見も一理ある。
「大河、時にはシャキッとね」
「分かってるよ」
右側に座った朝顔にも言われ、大河も姿勢を正す。
「大河は、奥さんに弱いね?」
「そう言うなら助けてくれよ。友達だろ?」
「それとこれとは別だから。私も奥様の味方だし」
橋姫は、朝顔の肩を揉む。
本来、鬼門の心象から帝と鬼は相容れぬ関係性に思われるかもしれない。
然し、2人は、仲良しだ。
「橋は、分かっているな。誰が1番偉いかを」
「偉い、というより敵に回すと面倒臭い―――ぐふ」
「不敬」
本日、有難い2回目のグーパンチを顔に頂く。
至近距離であった為、鼻の骨が折れそうな程、痛い。
「大事な友人を悪く言ったら次は、手、出るよ?」
「……」
もう出したじゃん、という突っ込みを飲み込む。
「済まん。でも、良かったよ」
「何が?」
「好きな人と親友が仲良しだから」
「「!」」
2人は、ポッと赤くなる。
これは、大河の本心だ。
朝顔と橋姫を抱き寄せて、微笑む。
「いやぁ、平和だ」
「「……」」
2人は、ふふっと笑む。
大河が余りにも正直過ぎるから。
橋姫は、やがて、大河の体内へ戻り、お市に席を譲る。
幸福感に満たされた以上、後は、妻が楽しんだ方が良いだろう。
「橋様、有難う御座います」
お初は礼を言い、大河の膝へ。
「あ~私も~」
お江も乗り込む。
「じゃあ、私はここね?」
お市は、左隣を陣取る。
「暑苦しいんだけど?」
「好色家には、相応しい布団蒸しの刑だよ」
お市は、可愛らしく笑い、更に密着する。
冷房を入れたい所だが、正直な所、女性とこうするのは、嫌いではない。
寧ろ好みだ。
「じゃあ、後で混浴だな」
「又?」
汗を流しつつ、微笑むお市。
30代の元寡婦とは思えない程、妖艶だ。
「私は、遠慮しておくわ」
冷静沈着に断る朝顔。
朝廷から混浴も制限されている以上、出来ないのは仕方の無い事だ。
夫婦とはいえ、大河も規則がある以上、無理強いはしない。
「分かってるよ」
頷きつつ、朝顔は、手を握る。
お互い、手汗でも気にしない。
馬車は、ゆっくりと城に帰っていく。
穏やかな休日は、こうして過ぎて行くのであった。
[参考文献・出典]
*1:withnews 2017年7月28日
*2:三重県雇用経済部 観光・国際局 観光政策課 2015年1月24日
*3:二見興玉神社 HP
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