第168話 長汀曲浦

 万和2(1577)年8月中旬。

 御盆の時期という事もあり、大河は夏季休暇を申請する。

 上皇の夫だけあって簡単に認められ、一家は避暑地を探す。

・人が少ない

・避暑地

 この条件を満たすのは、非常に難しい。

 そこで活躍するのが、文明の利器、スマートフォンである。

 無線LANが使えるチートで、G〇〇gle先生に頼むと、直ぐに答えを出してくれる。

「良い所ある?」

 膨らんだお腹を擦りつつ、エリーゼが尋ねた。

 大河の肩に顎を乗せて。

「南紀白浜は、如何?」

「良いんじゃない? 綺麗な所ね」

 画像を妻達に見せると、賛成多数。

 あれよあれよと言う間に、行先が決定した。


 京から紀伊国白浜町までは、約200km。

 大坂を経由していく。

 京を発つリムジンの中で、

「熱い……」

 滝の様に大河は、汗を噴出させていた。

「夏だからよ」

 冷静沈着に答えるのは、朝顔。

「そーそー」

 その隣のお江も笑顔で頷く。

 誾千代、楠は、それぞれ指示を出す。

「鶫、冷房を」

「小太郎、もっと煽って」

「「は」」

 鶫が冷房を入れ、小太郎が団扇うちわあおぐ。

 4人の場所は、それぞれ大河の右脇、左脇、右膝、左膝。

 接地面があれば彼女達が殺到し、直ぐに独占する。

 彼女達だけでない。

 近くには於国が陣取り、誰かがかわや(=トイレ)に行った際に交代で座ろうと思っている様だ。

 妊婦は、はす向かいに座っている。

 妊娠した事により、嫉妬心は薄い。

「「「……」」」

 大河を見ずにマタニティ・ブックを熟読中である。

「だー……」

 論語を暗唱出来る癖に大河の前で累は、これ以外話さない。

『能ある鷹は爪を隠す』なのか。

 甘えたい盛りなのか。

 大河が、自分以外の女性を侍らしている事に対し、累は寂しげだ。

 謙信が尋ねる。

「御父さんに甘えたい?」

「だー!」

「じゃあ、華。累をお父さんに」

「はい!」

 謙信から累を受け取り、華姫は、大河の前へ。

「ちちうえ♡」

「だー♡」

 養女と実子は、満面の笑みを見せる。

 然し、定員オーバーだ。

「鶫」

「は」

 大河の意をんで鶫が2人を抱き上げる。

 そして、大河の肩へ。

 戸〇呂兄弟の様な事になる。

「ちちうえ~♡」

「だ~♡」

 恋敵が(一時的に)減った分、出番が増えたのは、彼女達の長所メリットだろう。

 2人に頬擦りされつつ、大河は朝顔とお江の頭を撫でる。

 こうしないと、彼女達の実家が怖いのだ。

 朝顔は、朝廷。

 お江は、織田家がついている。

 これらの組織、家々の「早く跡継ぎを」という圧力プレッシャーは、他家より凄まじい。

 大河が皇族になる気が無い為、上皇の子供とはいえ必然的に皇位継承権は無い。

 朝廷の願いは、上皇・朝顔の幸せだ。

 織田家の方も茶々が妊娠したとはいえ、アイドル的人気を誇るお江が続けば、更に織田家は安泰になる―――との思惑によってだ。

「もっと撫でなさい」

を発する上皇。

「兄者、大好き♡」

 子供達に負けぬ様に頬擦りを行うお江。

 2人の愛の深さに大河は、苦笑いする他無かった。


 南紀白浜に到着するとそのまま海水浴だ。

 現代でも人気な観光地だが、異世界ではまだまだ無名である。

 山城真田家傘下の現地の豪族の護衛の下、一同は海水浴を楽しむ。

 累等、一部の女性陣は初めての海だ。

 大河の頭にしがみ付いた累は、海水をちゃぷちゃぷして遊ぶ。

 そしてひと舐め。

「……!」

 凄い顔で固まった。

 初めての味に衝撃の様だ。

「しょっぱいだろう? これが『しょっぱい』という感覚だ。言えるか?」

「……ちっぱい」

「そりゃあ小さい胸の事だ」

「……」

 累の視線が、楠に注がれる。

「何、累? 私が貧乳って良いたい訳?」

「……」

 頷いた。

「へ~。喧嘩売ってるんだ?」

 ひくひくと楠は、米神こめかみ痙攣けいれんさせる。

 立ち泳ぎの彼女は、累に近付き、手の水鉄砲で攻撃。

 大河に。

「おい、何故俺なんだ?」

「貴方の教育が悪い所為よ」

 その後、楠は大河を追いかけ回し、髪の毛をむしる。

 将来的に薄毛になりそうだ。


 髪の毛をぐちゃぐちゃにされた大河は、浜辺に戻る。

「遅い!」

 仁王立ちで朝顔が待っていた。

 タンキニ姿が眩しい。

「全く、楠といちゃついて」

「済まんな」

 ぐったりとした楠を背中から降ろし、東屋の長椅子に寝かせる。

「兄者、次は、私と」

「「……」」

「ちちうえ~♡」

 お江、於国、お初、華姫も集まる。

 今度は、朝顔を含めた彼女達の相手だ。

 子沢山の父親になった気分であるが、実際には多くが幼妻の為、口が裂けても言えない。

「累、御父さんと楽しかった?」

「だー♡」

 思う存分、むしる事が出来た累は大満足の様で上機嫌だ。

 一心不乱に謙信の母乳を吸う。

「謙信、後で一緒に泳ごう」

「分かったわ」

「誾もな?」

「ええ」

 モノキニビキニの誾千代は、同意した。

 元気一杯の幼妻達と比べ、年上の女性陣は、暑いのが御嫌いだ。

 気温は、35度。

 猛暑日だ。

 この時代は世界的に寒冷期とされ、35度という数値は、現代人が想像する以上に暑い。

 砂浜も50度位だろう。

 妊婦達も涼しくなるまで待っている。

「皆様、御元気ですね」

「私達もね」

「本当本当」

 愛妾トリオは、マイクロビキニ。

 楠以上に露出度が高い。

 心頭滅却すれば火もまた涼し。

 幼妻達を両手で抱え、華姫を肩車した大河は、素足で再び海に入る。

「う~ん。ちょっと生温かい?」

「時期が悪かったな。もう少し早く来れてたら適温だったかも」

 朝顔は、ほぼ初めて触れる海水に興味津々だ。

 普段は、御所の敷地内でのみしか生活出来ず、行幸でも海は風景だけで触れた事は無かった。

 橋姫は、浮き輪で楽しんでいる。

「さっきも忠告したけれど、私より向こうは行かないでね? 海月くらげの巣窟だから」

「分かってるよ。有難う」

 御盆以降、海では海月くらげが目立ち易くなっている。

 中には毒を持つ種類もある為、極力、御盆以降、海水浴しないのが常識だ。

 今回は橋姫が魔力でバリアを作り、彼女よりも沖合に行き過ぎると、海月の餌食になり易い。

 因みに彼女の水着は、ワンピース。

 親友として正妻や愛妾達に配慮した、肌の露出を抑えた物だ。

 お市も浮き輪を使ってやって来た。

 胸部の布が大きく、首元迄覆われた意匠計画デザインが特徴のハイネックビキニが眩しい。

 30歳。

 ここでは熟女だが、現代出身者の大河には、ストライクゾーンだ。

「皆、泳げるんだな?」

「古式泳法ですから」

 お市が、自慢げに胸を張る。

 その豊満な胸部バストが揺れ、大河の目は釘付け―――

「浮気者」

「ぎゃあ」

 朝顔に腕をつねられた。

 最近、上皇がヤンデレ気味である。

「御免なさいは?」

「御免なさい」

「宜しい」

 大河の腕の中で朝顔は、上機嫌に戻る。

 大河は、浅瀬に移動し、幼妻達を離す。

 足がギリギリ着く場所だが、常に大河や近くにはアプトが居る為、溺れる事は無い。

「何だか温水ぷーるみたい」

「そうですね」

 お江と於国は、水を掛け合う。

「「……」」

 お初、華姫は、溺れるのが怖いのか、大河の肩に捕まったままだ。

 普段、ドSなお初のその態度に大河は興奮する。

「可愛いな。お初は」

「煩い」

 と、言いつつ、お初は、更に密着する。

 一方、華姫は、

「……」

 金槌かなづちなのか、ガタガタと震え、とても楽しそうな雰囲気ではない。

 朝顔は、勇気を出して泳ぎ出す。

 大河と手を繋いだままで。

 御忍びとはいえ、現役の上皇だ。

 安徳天皇(81代 享年8)や四条天皇(87代 享年12)等の様に早逝させる訳には行かない。

 しっかりと、強く握っている。

「……御免なさい。やっぱり、怖いわ」

「そうか」

 ブルブルと震え、大河にしがみ付く。

 安徳天皇が入水じゅすいした時のやり取りを連想してしまったのだろう。

 浅瀬とはいえ、海洋恐怖症なのかもしれない。

「じゃあ、こうなら怖くないか?」

「!」

 御姫様抱っこで、海水から遠ざける。

 彼女だけでない。

 華姫、お初もされている。

 3人を同時に出来るのは、細マッチョ・大河でしか出来ない事だろう。

「「「……」」」

 華姫達は、見惚れ、朝顔も声が出ない。

「あー! 兄者! 私も~」

「後でな?」

 お江を制止しつつ、大河は先程とは違う東屋に入る。

 ここは、足湯ならぬがある海洋恐怖症や金槌が海に慣れる為の場所だ。

 もっとも、ドクターフィッシュも居る為、海より川の表現が適当かもしれない。

「ここで慣れようか?」

「おさかな、かわいい♡」

 華姫は、一瞬で虜になった。

「……じゅるり」

「お初、食べちゃ駄目だよ?」

 舌なめずりするお初を注意しつつ、大河は朝顔をそっと座らせる。

「あ、気持ち良い♡」

 ドクターフィッシュは、手足の表面の古い角質を食すとされ、海外では治療で盛んに行われている。

「アプト、皆を頼んだ」

「は」

 アプトも朝顔の隣に座り、一緒に楽しむ。

 東屋を出た後、お江達の下へ戻ると、

「……」

 ふん、と、目に見えて、お江はそっぽを向いた。

 御姫様抱っこを目の前で見させられ、不愉快なのだ。

「そう怒るなよ? ほら、こうして来たんだし」

「……兄者は、浮気者」

「……そうかよ」

 冷たく返すと大河は、ほぼ全裸の愛妾トリオ、橋姫、お市、於国の下へ。

 彼女達に囲まれ、その体を嘗め回す様に見ていく。

 童顔だからこそ出来る行為だ。

 若し、大河が老け顔だったらすぐに嫌われていただろう。

 童顔万歳である。

「……もう!」

 我慢出来なくなったお江が、大河に飛びつく。

 そして、亀の甲羅の様に背中にくっ付いた。

 大河の両目を手で塞ぐ。

「兄者は、私と於国しか駄目~!」

 トムブ〇ウンの様な掛け声と共に。

 胸部と陰部を擦り付け、大河に猛主張アピール

 他の女を見るな、と。

「あらあら、お江も立派な大人ね」

 お市は、嬉しそうだ。

 自分に嫉妬する程、夫の事を愛しているのだから夫婦円満と言えるだろう。

 長政とも同じ様なやり取りがあったのかもしれない。

 今にも泣きだしそうなくらい、お江の力は強い。

「可愛いなぁ」

 微笑みつつ、大河は諭す。

「でも、お江だけ特別視は出来ない。これだけは、はっきり言っておく。でも、裏切る事は無いから」

「……」

 真剣な顔で言われ、お江は愛されている事を再確認出来た様だ。

 笑顔で大河のそこから離さない。

「真田様、お江を末永く宜しく御願いしますよ?」

「分かっています。お市様」

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