第155話 豊年満作

 万和2(1577)年7月初旬。

 梅雨が明ける。

 日ノ本全土で水害が全く起きなかった訳ではないが、少なくとも、山城国や大河が業者を派遣した地域では信玄堤の御蔭で大規模な水害は、起きなかった。

 豊潤な水を含んだ上で成長し、全国各地で、

隠元豆いんげんまめ

・枝豆

獅子唐ししとう

西瓜スイカ

空豆そらまめ

玉葱たまねぎ

茄子なす

瓢箪ひょうたん

・梅

・桃

 等、夏定番の農作物や果樹が豊作を迎える。

 山城国では、

加茂茄子かもなす

伏見唐辛子ふしみとうがらし

 等、現代の京都を代表する特産品も同時期に収穫される。

 その為、京都新城には大河を慕う民衆が、続々と献上していく。

 動機は、

・日頃の恩

・山城守御用達

・縁故主義

 等、純粋なものから不純な物まで沢山あるが、慕われているのは、悪い気がしない。

「からい……」

 犬の様に舌を出した華姫の顔から汗が滝の様に噴き出ている。

 興味本位で摘まみ食いした唐辛子に苦しんでいるのだ。

「摘まみ食いした罰だ」

 笑顔で大河は、その頬をプニプニ。

「ちちうえのきちく」

 と、言いつつ、大河にべったり。

「……」

 累も唐辛子を嗅ぐ。

 流石に食べる事はしないが、嗅ぎ続けている辺り、気に入っているのだろう。

「謙信―――」

「分かってるわよ。累、もう少し大きくなってからね?」

「だー……」

 累の手から唐辛子が、奪われ、彼女は、名残惜しそうな声を上げる。

「大河、向日神社の方で激辛を町興ししているみたいよ」

 説明する誾千代は、大河の膝の上。

 普段は、幼妻等のだが、今回ばかりは、久し振りに甘えていた。

「あー、何か聞いた事あるな」

 現代でも向日市の飲食店が町興しの為に『京都激辛商店街』と銘打ち、激辛を推している。

 それは功を奏し、各種メディアで紹介され、全国的に有名だ。

 都心に人口が集中し、地方都市が寂れていくのは、現代でも異世界でも同じであった。

「何時か行こうよ」

「う~ん。辛いの好物?」

「苦手」

「大丈夫か?」

「多分……」

「まぁ、何時かな? 経験も大事だ」

「有難う♡」


 平和な時代には、文化が醸成され易い。

 その代表例が、江戸時代である。

・寛永文化

・元禄文化

・宝暦・天明文化

・化政文化

 と、実に約360年もの間に四つもの文化が生まれた。

 安土桃山時代にも、新文化『万和文化』が、誕生する。

・スクール水着

・メイド服

・セーラー服

・ブルマ

 と言った服飾は勿論、体制側から規制され易い春画も隆盛を極めた。

 街中の書店には、一時期のコンビニエンスストア並に陳列し、少年少女もごく普通に読む事が出来る。

 スポーツも盛んだ。

・角力(相撲)

・柔道

・剣道

・空手

 等の武道の他、

・庭球

・野球

・蹴球

 等、現代でも愛されているスポーツの職業化も進む。

 各スポーツは、其々それぞれ協会を創り、大河を名誉総裁に任命した。

 音楽も始まる。

 大河がスポーツの道具同様、平賀源内に楽器を作らせた事により、今まで、

・琴

・琵琶

・三味線

つづみ

・尺八

 等の和楽器のみだったのだが、

・ギター

・ドラム

・ピアノ

 等も加えられた。

 その結果、

・緑

・生物係

・気まぐ蓮

・塵

・大袋

・蜘蛛達

・佐助

・侍少女

鬱金香うこんこう

・寝言

・甲虫

・猿の奇術

・伊豆

・風鈴

・後醍醐

・緑の日

・湖

・公式髭男主義

・女王

柳葉魚ししゃも

・一世風靡烏賊墨

・狩猟者

・洛南乃風

・杉原拳銃

・肉肉倶楽部

・竜巻

 と言った音楽家、或いは、グループが日ノ本全土で結成。

 山城国に建設された国営放送会場、又は武道館での公演を目指し、切磋琢磨し始める。

 食文化も大いに変化した。

 肉食を解禁した事で、鋤焼あきやきが大ブームとなり、肉食を拒んでいた僧侶の一部も公的には「肉食反対!」と叫ぶも、裏では密かに食べていたのが瓦版に素っ破抜かれた。

 現代でも一部の完全菜食主義者ビーガンが、肉食を批判していた癖に、密かに食べていた事が発覚し、炎上する事例ケースがあるが人間の嗜好は、イデオロギーとは必ずしも=とは限らない。

 こんな話もある。

 普仏戦争(1870~1871)中、愛国者のビスマルクが仏産の葡萄酒を愛飲していた。

 それを知ったヴィルヘルム2世が尋ねた。

「何故、敵国の葡萄酒を飲む? 敵国の葡萄酒を購入するという事は経常収支が赤字方向にふれ財政収支を悪化させ国債金利が跳ね上がりヘッジファンドの空売りによって………」

 国王と宰相の間に剣呑な空気がたちこめるかに思えた。

 だが、当代随一の外交屋であり口が達者なビスマルクは間髪入れずに涼しい顔で次の様に応えたという。

「恐れながら陛下、愛国心と舌は別物で御座います」

 こうしてビスマルクの機転の利いた一言で、国王と宰相の衝突という惨事は回避され、普仏戦争はプロイセンの快勝で幕を閉じたのだった(*1)。

 憲法の制定や中央集権国家の事も考慮すると、後世には、『万和維新』とも言える位、大きな時代の転換点とも言えるだろう。

 無論、攘夷派は、黙っていない。

「毛唐風情が、増え過ぎだ」

「全くだ。伝統的な祖国が失われつつある!」

 長屋で国を憂う攘夷派が、集まって密談していた。

 本当は、居酒屋等で盛り上がりたい所だが、日ノ本全土には、大河が放った特別高等警察の防諜員がうようよ居る。

 KGBソ連国家保安委員会の長い腕ならぬ、『大河の長い腕』だ。

・思想及び良心の自由

・信教の自由

・集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由

 は認められ、体制への批判も出来なくは無い。

 只、それを行き過ぎた場合は、謎の事故死や行方不明になる可能性がある。

 瓦版でもそれは、殆ど報じられない。

 報道の自由はあるものの、報道自由もあるのだ。

 その時、1人が飛び込んで来た。

「おい、今晩、真田が御忍びで外出するってよ?」

「何? 本当か?」

「ああ、近衛兵から買った情報だ」

「誘引じゃないよな?」

「確かだよ」

「じゃあ、今夜、決行だな」

 通常、”一騎当千”を討ち取る事は難しい。

 常に護衛が居り、USSS米シークレットサービス並に警備は厳しい。

 日本でSPセキュリティポリスが誕生したのは、三木首相殴打事件(1975年)が契機だ。

 USSSの設立年も1865年。

 それよりも古いのが、大河の護衛部隊だ。

 視認出来るのは、鶫、小太郎の2人だけだが、領主ともなれば、もっと大勢抱えても可笑しくはない。

「今夜、六つ半(午後7時)に猿ヶ辻さるがつじ(御所の塀の北東の角部分の通称)を通る。その時が襲撃の好機だ」

「「「応」」」

 

 夕方。

 大河は密告通り、外出する。

 御供は茶々、お江の姉妹と用心棒の2人。

「真田様、この腕時計、如何です?」

「う~ん。金色は、好みじゃないな」

 金剛石が沢山散りばめられた腕時計を、大河は見る事さえしない。

「時間さえ分かれば良い―――」

「だーめ。真田様が相応のを装着しないと、下の者も贅沢出来なくて困っているんですわ」

「……そうだなぁ」

 家臣団は、大河が倹約家の為、その多くが倹約を強いられている。

 大河が「俺に構わず、贅沢しても良い」と言ってはばからないのだが、家族や地元民の目が厳しい為、贅沢している者は少ない。

 但し、その場合は文〇砲の様な瓦版が素っ破抜く可能性がある。

 その危険性を負ってまで遊ぶ勇者は、残念ながら家臣団には居ない。

 彼等に慕われている大河であるが、その部分のみ不満だ。

 なので、大河に金を使わせる様、彼の妻に協力を要請しているのであった。

「じゃあ、こっちは、如何?」

 真っ黒な腕時計を選ぶ。

 値段は、現代感覚で1万円前後。

 腕時計は、時間さえ分かれば良い大河には高過ぎる買物だ。

「……高いな」

「領主だし、近衛大将なんだからこれでも安いと思うよ?」

「……そうかぁ?」

 帝と会う事も多くなっている為、茶々の意見は、一理ある。

 尤も、「礼儀を知らない」との理由で、西郷隆盛が明治天皇の御前でも不作法に徹し、明治天皇も可愛がっていた例がある。

 帝も寛大な人物だ。

 大河が中古のボロボロの腕時計を見に付けていても、気にしないと思われる。

 妻は恥ずかしい為、何とか説得を続ける。

「余りにも安かったら、陛下が勘違いするかもよ? 憐れんで防衛大臣を叱責するかもしれないよ?」

「……分かったよ。これで」

 店側はもっと高級品を買って欲しかった様で、複雑そうな表情だが、大河が買った以上、この腕時計には箔が付く。

 今後は、『山城守御用達』として売り出されるだろう。

「兄者、私にも何か買って♡」

 お江が、頬擦りし、おねだり。

「何かって? 希望は?」

「氷菓」

 アニメの方じゃない。

・アイスクリーム

・アイスキャンディー

・かき氷

・シャーベット

・パフェ

・フローズンヨーグルト

・ゼリー

・杏仁豆腐

・ムース

・プリン

・水羊羹

 等の総称だ。

 大河が平賀源内に作らせた製造機により、これらは現代同様、楽しめる事が出来る。

「どれが食いたい?」

「ぱふぇ」

「分かった」

 一行は腕時計を購入後、退店し、向かいの店へ。

 椅子に座ると、メイドがやって来た。

「御注文をどうぞ」

「皆、好きなの選べ」

「ぱふぇ」

「杏仁豆腐で」

「ぷりんで御願いします」

「かき氷です」

 お江、茶々、小太郎、鶫の順に答える。

 最後に八つの視線が大河へ。

 ここは、格好良く決める時機タイミングだろう。

Mousseムース

「「「おお~」」」

 原語のフランス語通りの発音に女性陣は、おろか、メイドも見惚れるのであった。


「あーん♡」

「姉様、美味しいです♡」

 氷菓を食べせ合いっこしていると、

「ぐへ」

「い」

 変な声を上げて、愛妾コンビが頭を抱えた。

「如何しました?」

 茶々が心配するも、2人は、作り笑顔で、

「だ、大丈夫です……」

「ちょっと、寒くなっただけで……」

 必死に取り繕うが、大河には通じない。

「アイスクリーム頭痛だな」

 冷たい物を食べた時、屡、頭痛が生じる。

 それを医学用語で『アイスクリーム頭痛』と言う。

 起きる理由は、

 ―――

『1、

 冷たい物が喉を通過する事により、喉にある三叉神経が刺激され、この時に発生する伝達信号を脳が冷たさを痛みと勘違いし、頭痛が起きる。


 2、

 冷たい物を食べると急に喉や口の中が冷えてしまう為、人間の身体は一時的に血流量を増やして温め様とする。

 その時に、頭に繋がる血管が膨張する事から、頭痛が起きる』(*2

 ―――

 二つのメカニズムのどちら又は両方が原因となって、アイスクリーム頭痛が起きると考えられている。

 予防法は、簡単だ。

 ゆっくり時間をかけて食べる事(*2)。

 喉が冷える早さを抑えられ、神経の刺激や血管の膨張を緩やかにする事が出来、アイスクリーム頭痛が起き難くなる(*2)。

「ちょっと待ってろ―――済みません。氷枕あります?」

「あ、はい」

 メイドが直ぐに持って来た。

「兄者、如何するの?」

「まぁ、見てろ」

 2人を膝枕させた後、大河は、其々の額に氷枕を置く。

 すると、

「あ……」

「気持ち良い……」

 大河の膝枕&氷枕の感触は、至上の悦びであろう。

「真田様、何を?」

「こういう時は、御凸おでこを冷やすんだよ」

 アイスクリーム頭痛が起こっている時に、氷やアイスノン等の冷たい物を御凸に当てると頭痛が止まる。

 外出中なら冷たいペットボトル等を当ててみると効果が期待出来る(*3)。

「「……」」

 茶々達も頭痛を起こそうと、頑張って食べ始めるのであった。


[参考文献・出典]

*1:https://blog.goo.ne.jp/wxyz2008/e/fa23f132d1af92953578b5c8b7003bed

*2:グリコ HP

*3:https://web.archive.org/web/20160308205551/http://www.mwed.jp/realwedding/love/1695.html

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