尊王攘夷
第145話 嫌悪主義
恐怖症の一つに
その名の通り、外国人に対し、嫌悪感や恐怖症を抱く症状の事だ。
外国人嫌悪は古くからあり、
・黄禍論の欧米
・白豪主義のオーストラリア
・
等、その例は幾つもある。
世界最大級の多民族国家、アメリカも
米国民の間でも、人種間の対立は建国以来続いている。
・入植者の先住民虐殺
・赤い夏等を代表する人種暴動
等、21世紀の今尚、変わらない。
ほぼ単一民族国家の日本では、その様な人種間の対立は、皆無に等しい。
然し、幕末。
尊王攘夷運動の下、外国人襲撃殺傷事件が相次いだ様に。
歴史的に全く無かった、という訳ではない。
毛利氏支配下の長門国、下関。
ここに7人の公家が、集っていた。
顔面を歌舞伎役者の様に白く塗り、眉毛は、全て剃り落とし、麻呂眉を施した彼等は、初●やカル●・イシューを連想させる。
残念ながら、彼女達程、美女ではない為、萌え要素は、0だ。
「最近の政権は、異国に近寄り過ぎでおじゃる」
「そうでおじゃる。異人は、婦女暴行犯でおじゃる」
2人の発言に、残り5人は、頷く。
一部の外国人が強盗したり、性犯罪を行っている為、彼等には、我慢ならなかった。
―――鎖国すべし。
それが、彼等の意見である。
「田中はん。兵は、集ったでおじゃるか?」
「全然。浪人共や」
運良く雇用され続けても、殆ど非正規労働者だ。
正規労働者で構成されているのは、織田家や山城真田家等、有力武家くらいだろう。
ソ連崩壊後、
今の日ノ本は、平和を得た代償に、治安の悪化が懸念材料であった。
「石田はん。決起、出来るでおじゃるか?」
「無理でおじゃる。山城は警備が厳しい。近江もな」
七卿の長が、小男・石田である。
朝廷にごまをすり、得た宰相の地位で、祇園通いをしていた無能な政治家は、今の亡命生活に我慢の限界であった。
「ここは、花遊びも出来ないではないか。
石田は、京での遊びを思い出す。
当時、京は貧民街が多く、明日の生活にも困った貧民層が我が子に売春させる事が流行っていた。
顧客層は、少女愛の医者や法律家、政治家等。
高位であった彼等は、
然し、大河が公娼制度を設け、更に区画整理等の改革を行った事により、貧民街は消滅。
彼等の多くは、持て余した性欲を公娼で合法的に満たす事が出来ているが、七卿は違う。
現在の山口市に伝わる『
―――
『昔、山口の城下に住む長者の所に、お万という一人娘が居た。
お万は、色白で、目のぱっちりした、笑うと小さい
17~18になると、その美しさは歌にまで歌われる程の評判になった。
ある日、芝居の見物に出かけたお万は、若い旅役者を一目見て好きになった。
そんな時、城下を周っていた殿様が、美しいお万に目をとめた。
「
と命じた。
お万には、既に好きな相手があるので、長者は返事を躊躇っていた。
すると、気の短い殿様はすぐに承知しない長者に腹を立て、
「何故返事をせぬ? 余の申す事が気に入らんとでも言うのか?」
「いえ、滅相も御座いません。然し、娘の気持ちも聞いてみませぬと……」
「そうか。では、お万によく言い聞かせて、きっと余の意に沿う様にせよ」
殿様の言いつけに背けば、どんな恐ろしい目に遭うかよく知っていた長者は、家に帰ると、全てをお万に打ち明けた。
お万は、
「お父様の言いつけなら、どんな事でも従うつもりです。でも、そればかりは……」
と、泣いて長者に
長者は、
「よく分かった。無理も無い事だ。どの様な事があろうとも、この事はお断り申してこよう」
すぐに城に出かけた長者は、何時まで経っても帰ってこなかった。
お万を始め、家の者が心配していると、突然どやどやと殿様の家来が屋敷の中に入ってきた。
そして、嫌がるお万を無理矢理連れて引き上げていった。
城へ連行されたお万の前に、荒縄で縛られた長者が引きすえられ、胸元へ刀を突き付けられた。
殿様は、
「お万、そちは如何しても余の言葉に逆らう気か? あれを見よ。そちの返事次第では、父親の命は無いものと思え」
と大声で言った。
お万は、涙に濡れた顔を上げて、
「御殿様。如何か、この事ばかりは御許し下さい。それ以外の事なら、どんな事でも致します。どうか……」
と、
「黙れ。不届き者。如何しても余の言いつけに背く気だなっ」
怒り狂った殿様は、お万を縛り上げ、
「者共、直ちに父親の首を討て。このお万は姫山に送り、頂きの古井戸の中に入れて蛇責めにせよ」
と命じた。
長者は、その日の内に首を
姫山の古井戸に入れられたお万は、毎日投げ込まれる多くの蛇に責め立てられた。
お万は、その苦しみと父親を失った悲しみで、日毎に痩せ細って、嘆き苦しみながら死んでいったと言う。
それからというもの、お万の恨みがこの山に残ったのか、姫山の見える山口の地からは、決して美しい娘は生まれなくなったと伝えられいる』(*1)
―――
これが、現代まで続く『山口ブス伝説』の由来である。
現在の山口市平井にある姫山(標高199m)からは、この下関を望む事は難しいのだが、この豊前田の娼婦も京に比べると、数段落ちてしまう。
彼等は、政治以外で性欲の面においても、不満が溜まっていた。
「皆様、謀議の程は如何ですか?」
老主人が、声をかけた。
「陶様、会議の場を設けて下さり、有難う御座いますでおじゃる」
亡命先の宿屋の支配人・陶氏。
名字から分かる通り、正史に於いて厳島の戦いで毛利元就に敗れたあの陶晴賢だ。
中国地方を毛利氏に占領された際、戦死していたが、あれは影武者で本人は、平民に偽装し、反撃の好機を伺っていた。
大永元(1521)年生まれの老将は、今年、万和2(1577)年で56歳。
人間50年のこの時代では、既に隠居しても可笑しくない年齢に達していた。
然し、それでも尚、七卿を匿い野望を捨てないのは、武人としての意地に他ならない。
「上奏します。玉を救出しましょう」
「玉?」
「はい」
「「「……!」」」
七卿は、分かった。
玉の正体を。
玉というのは、帝の事だ。
幕末、維新の志士達が、帝を『玉』と密かに記していた様に(*2)。
陶氏も又、帝を重要視していた。
「作戦なんですが、先ずは、洗脳された帝を救出する為に御所に兵を進めます」
「「「!」」」
完全に逆賊だ。
帝と敵対する気が無い七卿は、口々に反対する。
「錦旗とは、戦いたくないでおじゃる。我等の敵は、織田や真田であって、朝廷は、被害者なのでおじゃる」
「「「そうでおじゃる」」」
「ですから、帝を洗脳から解き、救出するのです。佞臣は、真田なんですから」
そう言って、晴賢は、風呂敷包みを開け、軍資金を見せる。
「「「おお」」」
現代の価値に換算して、ざっと100億円はあろう、山積みされた大判に、七卿の胸は躍る。
これだけあれば、沢山の浪人を傭兵にする事が出来、更にそれ相応の武器も買う事が出来るだろう。
「よく儲けたでおじゃるな?」
「風俗店は、儲かりますから」
男の欲望は尽きる事が無い為、男が居る限り、風俗店は廃業する事は無い。
風俗街の豊前田、木屋町も発展している事が、論より証拠だ。
「武器の方は、中古を買います。宜しいですね?」
「仕方ないでおじゃろう。規制が厳しいからな」
日ノ本では、16世紀最大の軍事大国であるが、日本刀や拳銃を所有する事が出来るのは、武士のみ。
一般人は、現代の銃刀法並に厳しい条件を完了しなければ、所持する事が出来ない。
銃規制を緩和した場合、アメリカの様に取り返しの付かない未来が待っているのは、自明の理。
然し、人間が作った法律は必ず穴がある。
大河は議会が出来るまで、スマートフォンで『六法全書』やアメリカの判例集を読み漁り、ほぼ単独で作ったのだが。
銃刀法も「転売すれば、誰でも所持可能」という事をすっかり失念していた。
それに気付き、直ぐに改正したのが、施行から数日経った後の事。
その
更に南蛮から来る悪徳商人や神父も網の目を掻い潜って、瀬取りで武器を得、犯罪組織に流れていた。
金さえ出せば、”国崩し”も何門だって買える。
エイブラムス等は、流石に製造を山城国でしかしていない為、無理であるが。
晴賢が、履物を見せる。
そこには、
『薩賊会奸』―――ならぬ『山賊近奸』と記されていた。
「これが、我々の合言葉です」
雨は、降り続く。
[参考文献・出典]
*1:http://www14.plala.or.jp/hotokuenhp/yamaguchidensetu/sizen/himeyama.html
*2:コトバンク
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