第84話 進退両難
炭疽菌で全滅しかけた無敵艦隊フィリピン駐留軍であったが、何とか持ち直す。
そして、救援で来たアメリカ大陸の無敵艦隊が、引き継ぐ。
彼等は、インカ帝国や南米を占領する際に一役買ったスペイン帝国が誇る最強の軍であった。
然し、これは愚策であった。
何故なら、兵站が拡大しているのにも関わらず、更にそれを広がらせたら、ど何なるかはWWIIの日本軍が証明済みだ。
無敵艦隊は、何とか日本近海まで到着するも、既に移動だけでヘロヘロ。
日本海海戦時のバルチック艦隊の様に疲労困憊であった。
然し、彼等を更に不運が襲う。
8月は、9月と共に台風の上陸数が多い時期だ。
対馬の近く迄来た所、元寇の時の様に台風に直撃する。
「帆、帆を張れ~!」
「駄目です! 船長!」
荒れ狂う自然の猛威に人間が敵う訳が無い。
甲板の船員達は、次々と飛ばされ、
軍艦もタイタニック号の様に至る所から浸水し、沈没は時間の問題だ。
「か、神よ! 我等、敬虔な信徒を見捨てるのか!」
船長が幾ら叫んでも、神様は、沈黙を散ら抜く。
「如何か! 御慈悲を! ―――――うわああああああああああああああああ!」
断末魔と共に軍艦は、遂に限界に達す。
帆柱が折れ、数隻の軍艦は、ほぼ同時に割かれていく。
台風の前に無敵艦隊は、1588年のアルマダの海戦よりも早く大敗北を喫するのであった。
辛くも沈没を免れた軍艦が、阿蘇海に到着したのは、台風が過ぎ去って1週間後の事であった。
軍服もボロボロ。
武器弾薬もごく僅か。
船員の士気も低い。
それでも、来たのは、勅令の為だ。
「「「……」」」
ほぼ漂流民の様な風体で数百人は、上陸を果たす。
が、待っていたのは―――
「Gracias por su trabajo.(御疲れ様でした)」
大河が、集めた農民からなる傭兵達であった。
司令官・大河は、叫ぶ。
「落ち武者狩りだ! 根切りにしろ!」
「「「
斧や槍等で武装した農民達が、万歳突撃する。
スペイン軍も何とか応戦するが、戦前から敗色濃厚だ。
どんどん斬られ、その数を減らしていく。
一部は、何とか軍艦に戻ろうとするも、
「てー!」
軍配を大河が振り下ろす。
途端、M1エイブラムスが砲撃。
砲弾は、軍艦に光並の速さで直撃し、粉砕する。
「ぎゃあああああああああ!」
「糞! これで帰れなくなったぞ!」
更にスペイン軍は、混乱する。
そして、次々と戦意喪失し、斬られていく。
上陸から僅か3時間程で、上陸部隊の数百人は、全て骸と化した。
ここに、真田軍の大勝が、確定する。
「「「えいえいいおー!!!」」」
生首を並べた真田軍は、
「勝ったな」
最高司令官でありながら、ほぼ傍観していた大河は、
座りっ放しだった為、非常に尻が痛い。
赤くなっている事は、間違い無いだろう。
「司令官、勝利、おめでとうございます」
ビキニ・アーマーの様な露出度が高い軍服を着た望月が、勝利を祝う。
専属用心棒兼愛妾2号。
それが、彼女の肩書だ。
酒乱で最後は、泣き上戸になってから早数日。
望月は、遂に初恋を成就させていた。
愛妾という当初とは違う形ではあるが。
「主、今晩、酒宴の方は?」
こちらは、愛妾1号。
望月の親友であり、今回の成功の最大の立役者だ。
但し、小太郎の方が奴隷なので、愛妾の順番じゃ先輩でも、身分的には彼女は望月の低位になる。
「さぁな。妻達の手料理次第だ」
「では、早速帰りますか?」
「ああ」
素早く本陣を片付け、農民達に各々の戦果に応じた報奨金を支払った後、真田軍は解散する。
これで、暫くは平和な日常だ。
京に帰るM1エイブラムスの中にて、大河は2人に挟まられていた。
「……」
「ねぇ、望月。氷菓食べる?」
「うん♡」
「じゃあ、あーん♡」
「あーん♡」
2人の百合百合した雰囲気に、大河は如何する事も出来ない。
聞く所によれば、2人は余りの仲の良さが高じて、義姉妹の契りを結んだという。
信長と大河が義兄弟になった事が、直接の影響だろう。
「……なぁ、望月」
「はい、司令官♡」
語尾が小太郎の様に常に「♡」なのが、気になる所ではあるが。
「何度も聞くが、本当に愛妾で良いんだよな?」
「はい♡ 2号です♡」
胸を張って首輪を見せる。
———
『真田大河 愛妾2号』
———
と名札付きのそれを。
「……何故、愛妾なんだ?」
「正妻になると、他の奥方様に気を遣う必要があるので、愛妾を希望した次第です」
「……」
正妻になれば、婦人会への入会義務が発生し、誾千代達と仲良くする必要がある。
又、輪番制の対象者となり、合法的に夜伽にも入る事が出来るが、毎日ではなくなる。
その点、愛妾の方が子供の継承権は無いものの、ほぼ毎日、一緒に居る事が出来る長所があった。
子供を諦めて自分を選ぶか。
欲に耐えて子供を選ぶか。
簡単な様に見えて、非常に人生を左右する決断でもある。
「それに正妻になれば、用心棒を辞めなければなりません。私は仕事も続けたいんですよ」
「……そうか」
望月が正妻になった場合、用心棒として24時間365日大河と一緒に居る事は、婦人会の規則に反する。
婦人会内部から異論が出るのは、必至だ。
望月の判断は正しい、と思われる。
「嫌ですか?」
「全然。否定はせんよ」
現代も寿退社する女性は、少ない。
望月の場合は、「結婚」ではないが、愛妾になっても業務は続ける事が出来る。
その例が、小太郎だ。
「良かったです♡ では、司令官♡ 一つ、御願い聞いても宜しいでしょうか?」
「実行可能な範囲内ならな」
「簡単な事です♡ 私に名前を下さい♡」
「名前?」
「はい♡ 愛妾として生きる為、実家との縁を切り、司令官の為だけに生きたいのです♡」
「……成程」
内心では、ドン引きしているが、望月の熱い思いは分からないではない。
若し、実家に「愛妾として可愛がってもらっている」と現代でも伝えたら勘当ものであろう。
小太郎も奴隷になった際、実家と絶縁した。
彼女の場合は、実家が理解ある(?)家庭だった為、「愛妾でも良い。目一杯愛されなさい」と謎の激励を受けたのだが。
小太郎の例が全家庭に当てはまる訳が無い為、望月の場合、実家は十中八九、激怒する事は間違いない。
「……姓も名前もか?」
「はい♡ 出来れば、愛称をそのまま本名にしたいのです♡」
「愛妾だけに?」
小太郎が、下らない駄洒落を言うが、
「うん♡」
それに対し、望月は、深く頷いた。
「……愛称ねぇ……」
今迄、「望月」と呼んで来た為、今更、愛称を考えるだけでも億劫だ。
「希望は?」
「格好良くて、可愛い感じので御願いします♡」
「……」
中々、ハードルが高い。
「……じゃあ、
「? 鶫? あの鳥のですか?」
「ああ」
「何故です?」
「両方の条件を兼ね備えているからだ」
「? そうですかね?」
「不満なら
「つ、鶫で良いです! 格好良くて可愛いです!」
扇子に『鶫』と何度も書いて、望月―――改めて鶫は、自分の物にしていく。
大河が、鶫としたのは、好きな漫画のヒロインと、”陸上自衛隊の歌姫”が由来だ。
パッと連想したのが、それで、それ以上の理由は無い。
「主、《妹》の想い、受け止めて下さり有難う御座います」
深々と小太郎は、御辞儀する。
鶫より年下の小太郎が、彼女を妹扱いするのは、「愛妾1号」としての余裕からだろう。
年齢と関係性が矛盾するのは、九頭〇八一と空〇子を彷彿とさせる。
「良いって事よ。でも、事前協議通り、俺は妻を優先するからな?」
「はい」
「分かってるなら良い」
操縦を自動運転に切り替え、大河は、2人を抱き締める。
「後悔するなよ? 愛妾になったのならば、足腰が立たなくなるくらい愛してやるから」
「「御願いします♡」」
トロンとした目で2人は、期待するのであった。
祝勝は、常に酒宴と決まっている。
二条古城に帰還すると、大河は直ぐに宴会場に連れて行かれた。
「ちちうえ~♡」
クラッカーを鳴らし、華姫が誰よりも早く抱き着く。
次に誾千代、謙信、エリーゼ、茶々、千姫、お江と続く。
「全然、疲れてないわね? 楽勝だった?」
「思いの
「スペインを打ち負かしたんだろう? 凄い奴だ!」
「真田様、勝利、おめでとう御座います」
「山城様、ささ、こちらへ」
「兄者、お帰り~♡」
阿蘇海での戦闘は、瓦版が、開戦~終戦まで従軍記者として参加し、詳細に報道している。
その為、記録に残る圧倒的な大勝は、既に世間には、知れ渡っていた。
上座に座らされた大河の周りを当然の様に誾千代、謙信、エリーゼが囲う。
「ささ、飲んで」
「
「大河は直接、参加したの?」
3人は、べたべたと大河に触れる。
元々、
「まぁまぁ、そこまで急がなくても良いだろう? 朝顔、於国、お江、おいで」
「「「はーい」」」」
指名された3人は素直に返事し、大河の膝の座る。
因みに呼ばれなかった華姫は、既に大河の肩に登頂し、その頭部を抱き締めている。
「さ、好きな物食べ。今日は、祝杯だから」
「「好きな物?」」
於国以外の2人が反応する。
「真田だよ♡」
「兄者だよ♡」
笑顔で答えた後、
真っ赤な口紅が、付いた。
「おいおい、もうそんな年頃か?」
「「幼妻だから♡」」
双子の様に2人の息は、ぴったりだ。
まだ早い、とは大河は、言わない。
元服しているので、2人は立派な大人なのだから。
戦勝の立役者は、どの時代でも人気者だ。
日本では、人種差別主義者として嫌われる事が多いルーズベルト大統領だが、欧州戦線と太平洋戦線で優勢であった事等が理由で前人未到の4期途中まで在任。
彼女達は、夫が英雄なのが誇らしい。
「「今夜は、寝かせないから♡」」
熱の入った妻達の視線に大河は、苦笑いするばかりであった。
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