第15話 旅立つもの達へ、強者たる魔の来訪(前)
何時だって俺の旅立ちはスムーズにいかないらしい。
肉体の再生が追いつき、動くようになった両脚に力を入れ瓦礫から体を起こす。
俺が対峙する敵が
(それでも、負けるわけにはいかねぇんだよ…ッ!! )
「武蔵ッ! 俺に力を貸してくれッ!! 」
◇◆◇
九年に一度開かれる光の祭りの時期が迫り、この二年近くで色々な思い出が出来たバンダスランダを発つ日を一週間後に控えた今。
バンダス山岳で行ってきたこれまでの修行の成果は、自身でもかなり実感出来るようになっていた。
炎刃焔が開放された事により変異したスキルの使用感にも慣れ、行動を共にするようになったフリートとの連携した戦闘もスムーズに行えている。
思い返せば。
フリートと共闘するようになってすぐの頃は、それはもう目も当てられないような酷い戦いぶりで。
(味方同士の攻撃が当たるなんて、日常茶飯事だったな…)
ゲーム内ではフレンドリーファイアといった概念は無く、プレイヤーはターンが回ってきたキャラクターに的確な指示を出してさえいれば良かったが、現実はそう甘くなく…自分のタイミングだけで攻撃していたのでは味方を巻き込む危険性があり。
更に、引火・陥没といった地形への影響があるスキルを使えば、その結果味方の退路を断ってしまったり、燃えてる事に気付かず回避した先でダメージを受けたりと思わぬ被害を生む可能性がある。
様々な試行錯誤を繰り返し、俺とフリートは敵の種別や数に合わせて戦闘のルールを決めていく事にした。
戦闘時の位置取り、どちらが先行するか、スキルの使用はどうするかなど。
そういった工夫を凝らす中で分かったのは、ゲーム内でキャラクターが行っていたスキル発動専用の動作や技名を叫ぶといった行為は、連携を図るうえで必要なお互いの行動を把握する為の良い伝達手段になるという事だ。
正直、大好きなフエーナルクエストのスキルや魔法とはいえ技を声に出しながら戦う事には戸惑いがあったが。
味方のスキル・魔法の予備動作や技名を事前に記憶しておけば、お互いの動きに対応しやすいのは勿論の事。
味方の姿が見えない状態からでも技名を聞く事で、瞬時に何をしようとしているのかを把握し、それに備えた動きがとれる。
フリートのスキルや魔法は俺の知識に無いものも幾つかあったので、この際オリジナルの技名を考えさせたのだが、それから暫くフリートは技名を考える事自体にハマってしまい、俺のスキルや魔法にも好き勝手な名前をつけていきゲームでの技名を記憶している俺を大いに混乱させた。
そんな苦労と発見を経た現在…。
「フリート…すぺしゃる、ぐるり…キック! 」
かなり独特な技名と共に、フリートの回し蹴りが
可憐な見た目をしているが、地竜の血を引くフリートの蹴りはそれはもう凄まじい威力であり。
顔面を蹴られたオーガエイプは紙屑のように吹き飛んで、俺が先陣を切りヘイトを集めていたオーガエイプの群れの中に突っ込むと、ボーリングのピンのように同胞達を次々と弾き倒していった。
(一気に決めるぜッ! )
「燃え尽きろ、
持ち前の巨体が互いに邪魔をし合い、体勢をなかなか立て直せずにいるオーガエイプ共の頭上に、無数の爆炎弾が降り注ぐ。
着弾と同時、天高く昇る火柱が鬼猿達の断末魔を掻き消した。
「わたしとグレン、かかるば…朝ごはん、まえ」
蹴り技を決めた後。
すぐさま、俺が放つ魔法の範囲外へと跳躍し避難していたフリートが誇らしげにそう口にする。
フリートはゲーム風に言えば、単体向けの技が中心となったスキル構成だ。
俺が敵集団の注意を引いてる間に、今のような怪力を生かした力業でフリートが体勢を崩しにかかり。
敵の動きが乱れた隙に、範囲魔法で一気に消し炭にするのがここ最近の鉄板勝利方である。
新生魔王へと覚醒する前の
「グレン…フリート、おなか、空いた。 うまいする、時間」
「そうだな。 修行の続きは昼飯を食ってからに……」
「グレン…どし、た? 」
(大気中の魔力が…急速に変化していってる…? )
「なあ、フリート。 この辺りで一番見晴らしがいい場所は何処か分かるか? 」
「? 探す、て、みる」
膝を折り曲げ、上空へ向けて大きく跳躍したフリートが切り立った断崖を発見した。
魔力の乱れから何かの予兆めいた違和感を覚え、昼食は一旦後回しにし。
逸る気持ちを抑えながら向かった断崖より、裾野に広がる都市を見下ろせば。
紫雷纏う暗雲…魔力の巨大な渦がバンダスランダの上空に発生していく様が映った。
(嘘だろ…おい)
カオスポイント発生イベント…強者たる魔物の襲来。
この突発イベントは、プレイヤーが現在移動可能な場所にてランダムに発生し。
カオスポイントが発生したエリアには、パーティメンバーの中で最もレベルが高いキャラクターのレベルに、+5レベル上乗せされたボス級の魔物が配置され、プレイヤーは任意でその場所に赴くことが出来きる。
敵が必ず格上となる難易度の高い戦闘のかわりに、獲得経験値が大きくドロップするアイテムは優秀な効果が必ず付与されるといったハイリスクハイリターンなイベント。
フエーナルクエストのプレイヤー達からは通称激レアチャンスと呼ばれていたこのイベントが、今まさにバンダスランダで起ころうとしていた。
ゲームを遊んでいた当時はあんなに嬉しかったイベントだが、今の心境は真逆。
ゲームの法則が絶対ではない事は分かっていたつもりだが。
勇者との冒険が始まる前…それに加えて、そもそもプレイヤーが立ち寄る事が出来なかった場所であるバンダスランダにこのイベントが発生するなんて完全に想定外だ。
(って、こんな所で悠長に眺めている場合じゃねぇ…! 今すぐ都市へ向かわねぇと、皆が危ねぇッ!! )
「フリート、都市が…リーニャやダン爺さんが危ない…! 急いで戻らねぇと…!! 」
「!! 分かる、た…! フリート、パパ、お願い、みる…! 」
丘ドワーフからは土着神…守護者として崇められている地竜だが。
実際のところ地竜は、自身の縄張りであるバンダス山岳の管理に専念しており他種族である丘ドワーフへの働きかけは殆ど行っていなかった。
その為、地竜は自身の存在を丘ドワーフに確信させる行為も避けており、フリートが竜の娘である事なども口外しないようにと釘を刺されていた。
バンダスランダに迫る危機。
最悪、地竜からは一切の援助を受けられない事も想定していたが、可愛い娘のお願いが効いたのか。
前々から不思議だった、フリートが突然姿を消しては突然現れるといった現象を可能にしていた”地竜の竜力を所持する対象を瞬時に移動させられる能力”を行使し俺達を山の麓近くへと転送してくれた。
― 我が出来る事はここまでだ、あとは竜の子らでケリをつけるがよい ―
強者たる魔物を呼び出す渦は見る見る間に巨大化し、ついには雷鳴を響かせ始める。
(もう時間がねぇ…! )
「フリート、急ぐぞ…! 」
「うん…! フリート、リニャとダンジジしゃ、だいじ場所…ぜったい、まもる!! 」
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