第60話「幼馴染は、公園で遊んでいくらしい②」

「……外で遊ばなくなった原因、大半はあんたのせいなんですけど?」


「ひっど!! その言い草はさすがの透さんでも傷つくぞ!?」


「実際問題そうなんだから言い逃れは哀れでしかないわよ」


「えぇ……オレ、お前に何かしましたか?」


「そうね。半引き篭もりっていう、歴とした大罪を犯してるわね」


「ちょっと待て! その理論で行くなら、晴の奴だって休日はオレと同じように部屋に籠もってる。状況証拠で言えば、あいつだって大罪じゃねぇか!」


「凪宮君は別口でしょ。渚ちゃんの話に寄れば、人並み以上に運動神経抜群みたいだし。透みたいな“平均”じゃなくて“人並み以上”に、ね?」


「そこでその判断材料はズルじゃね!?」


 一体どこにズルい要素があると言うのか。

 と、そう思った矢先、透は膝から崩れ落ちて葉っぱが舞い散る木の根元へと視線を向ける。


「……本当、あいつは幾つ神から万物与えられてんだよ。頭も良くて運動神経も良いとか、ガチの天才じゃん。一之瀬でも勝てない理由がやっと明白になった気がする……」


「そこまで落ち込む必要、どこにもなくない?」


「いやだって悔しいだろうが! あいつの足元にも及ばないとかさ!」


「……負けず嫌い?」


「ほっとけ」


 努力型の秀才。――透はきっと、そう呼ぶのが適切なんだと思う。


 片や、頭も良くて運動神経も抜群の親友『凪宮晴斗』君。傍から見れば凡人以上という偏見が付きそうなものだけど、実際ある2人の知数の差は歴然。正直、埋まるかと聞かれたら「ノー」と答える。


 才能の壁……言ってしまえば、格の違い。

 はっきりとした優劣があっても、透はその差を認めようとはしない。意地か、それとも親友としてのプライドかは、私の視点じゃわかりっこないけど。


「つーか、運動神経だけだったら、お前と晴ってそんな差無いんじゃね?」


「どうだろう。女子と男子の平均比べても意味とかないからなぁ」


 でも、前々から興味はあったりした。凪宮君の運動能力って、実際どんなもんなんだろうって。同学年の女子相手だと、結構差が出てきちゃってるからやりにくいし……。かと言って、張り合いがあるクラスメイトも渚ちゃんぐらいだし。


「そう言えば、何でそんなに運動とか好きなんだ?」


「何で?」


「ほら、昔よく怪我して帰って来てただろ? あれって、この公園で遊んでたからじゃないかと思ってさ。あ、もちろん1人でな」


「一言余計!」


 こいつの脳内辞書には『自重』って言葉は載ってないわけ!?


「――でもそれって見方を変えたら、外で遊ぶことが好きってことじゃないかと思ってさ。身体を動かすことが好き、常に上を目指すのが好き。お前の体育への欲を考えたら、その辺りなのかなーって思ってたんだけど。何か違ったか?」


「…………」


 私は透の言葉に少し記憶を遡る。

 自然と動かしていると、嫌なことを忘れる気がしてた。

 身体を動かしたら、余計なことを考えなくて済むと思った。


 遊ぶことは1人でも出来る。別に、運動することが元々好きだったわけじゃないし、かと言って嫌いってわけでもなかった。どちらかと言ったら……『何となく』だった。


 ……でも、そうだなぁ。

 改めて「今はどうなんだ?」と訊かれたら……。


「……そう、だね。今だったら、好きになるかもしれないね……」


「ん? 何か言ったか?」


「べっつにー?」


 私は持っていた荷物をベンチに置く。

 ほんの数年前までは子どもらしく遊んでいたっていうのに、いつの間にか、そんな時代も通り過ぎて高校生になっていた。時の移ろいとは実に恐ろしい。


 ……でも、反対に得られたものもある。

 あの頃だったら確実に得られなかったものを、たくさん手に入れられた。


 そしてそれは、現在いまにも繋がっている――貴女が、ここで遊んでいてくれたから。

 また1つ、大事なものが増えそうな気がするよ。……ありがとう。


「んで、どうするんだ?」


「……もちろん。少しだけ、遊んで行こっ!」

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