第59話「幼馴染は、公園で遊んでいくらしい①」
……にしても、怪我をして帰って来てた――ということは、もしかしてアレに乗ってたときのこと?
「…………っ」
そうして私の視線は、徐々に透から公園内の一つの遊具へと向けられた。
それに乗って、子ども達が元気な声で笑っているのがここからでもわかる。それを見守る友達も『楽しそう』と口角を上げているのだって。……何だか、羨ましい。
ああやって、友達と遊んでみたかった。
高校生になって、今頃後悔するのは遅すぎる気がするけれど。
「――もしかして、遊んでいきたいのか?」
「ふぇっ!?」
私の口から情けない声が零れる。
いやでも……そう反応せざるを得なかった。
透は真っ直ぐとこちらを見つめてくる。もしかして、気づいたんだろうか。いや、気づいたからあんなことを言ったんだろう。私が何に意識を持っていかれていたのかを。
「な、何で……」
「何でって。そりゃあ、あんなに羨ましそうに見つめてたら嫌でも気づくっつーの」
「~~~~~~~っ!!」
……やっぱり、気づいてたらしい。
小さい頃、私はこの公園で遊ぶ同級生もしくは下級生の子達を、決して羨ましいとは思っていなかった。友達を作りたいとかも無かったし。けど、今になって思えば、あれは単に意地を張っていただけなんだと思う。
そう思うのも、全部過去の私が証明している。
……だって。夕暮れ時の、帰宅チャイムが鳴り響く中で、私はただ1人、空席になったブランコに腰を下ろして、勢いよく地を蹴り漕ぎ出した。
生暖かな空気が通り過ぎる。
誰もいない、所狭しと広がっていた喜怒哀楽の声。どれもが全く感じられない。当然のことで、当然の現状。――とても心地が良かった。いつ帰って来るかもわからない、両親を待っているだけの、ただただ虚空の時間を過ごすより……マシだと思った。
でも、それよりも。
心地良さとは別の、寂しさがあったのは間違いない。
じゃなかったら、1人で公園になんて来なかった。思ってなかったなんて、多分嘘。
あの頃から私は……透と同じように、誰かを無意識に求めていたのかもしれない。いや、誰かじゃなくて、私の場合は『何か』かもしれない。寂しさを埋めれる『何か』を。
「……本当、人のことはすぐ気づくね。人間観察のプロなんじゃないの?」
「どっかの晴と一緒にしないでくれるか? それに、今のは一之瀬でも気づいたと思うぜ。お前、普段から『頼れるお姉さんキャラ』してっから、疲れ果てて、ボロが出るようになったんじゃねぇか?」
「ま、仮にそうだとしたら、全部あんたのせいってことで」
ぱん、と軽く両手を打ち合わす。
……ムカつく。変なところでお人好しで。
言葉ではバカにするくせに、その本筋にあるのは心配の声ばかり。……本当、ムカつく。
「こら。なーに勝手に締めに入ろうとしてんだ」
「スルースキルってやつを極めようと思って」
「お前がそんなの身に付けられるとは、到底思えないけどな」
「何ですってぇぇ~~!?」
「ほら、そういうとこだよ。今のをスルー出来ないようじゃ、まだまだ会得は先の話になりそうだな」
私に背を向けて、透はそのまま歩き出す。
別に会得しようと思ってないけど、あいつが『気遣ってる』んだったら、ちょっと頑張ってみようかな。明らかに勉学よりも楽しそうだし。
「……さてっと」
すると、前を歩き始めたと思いきや、透は道を左折する。
マンション(私と透の家)とは全く別の道。寄り道……とも取れるけど、どうもいつもの寄り道とは違う。方向もただ真っ直ぐ左折してるだけ。そう、公園への道を進んでいる。
「……この時間帯に、それも高校生が小学生に紛れて公園で遊ぶってどうなのよ」
「うっせぇな。ただオレは、お前が“やりたいこと”をしようとしてるだけなんだが?」
「……やりたいこと?」
「そ。年甲斐もなく公園で遊ぶって発言、少なくとも高校生にはまだ早いと思うぞ? オレらだってまだまだ第二次反抗期――思春期真っ盛りなんだ。偶にはこうして遊ぶのだって、まだまだ許されると思うけどな」
透はそう言うと、持っていた荷物を空いていたベンチへと置いた。
どうやら本気で遊んでいくつもりらしい。遊びたいなんて、一言も言ってないのに……。
……でも。言わなくても、何となくあんたはわかっちゃうんだよね。それが『癖』で、未だにそれは直らなくて。多分、直す気なんてさらさらないんだろうなぁ。
今更去るタイミングもないし、そもそもそんなつもりもない。それがわかっていても、いつかまた、自分の“空白”を埋めてくれる『何か』が欠けるかもしれない恐怖。自分のせいで、誰かと誰かが“迷惑”になるかもと中々言い出せなくて。
私達は本当に――『臆病者』だね。
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