第34話「見つけた、お互いの居場所」
「……なぁ、少し訊いてもいいか?」
「……?」
小首を傾げて、不思議そうな表情でオレを見る。
……何だか可愛く思えてきたぞ、その仕草。
「……その。佐倉ってさ、1人の方がいいのか? さっきも、1人の方が楽だ的なこと言ってたし、要するに、今まで人とろくに関わってこなかった、とかさ……」
「……楽だと思う節はあるよ。でも――今までは、かな」
「えっ……? 過去形?」
予想外の返答に思わず上擦った声が出てしまった。
『今までは』ということは、何かしら考えが変わったということなんだろうか? えっ、でもさっきまでそんなこと一言も言ってなかったはずなのに……。
すると、動揺するオレに構わず、佐倉は視線をオレへと向けてゆっくりと口を開いた。
「……昔、いろいろあって。私がまだ小さかった頃、私のせいでお母さんもお父さんも仕事を休まざるを得なくなったことがあったの。元々仕事が生きがいの1つでもあった2人は、私が具合を悪くした原因が互いにあるって互いを追いつめて。今は、そんなことないし、普段は2人ともなかよしなんだけど。私、2人がケンカしてるところ……初めて見て。私のせいでケンカになったの知って、2人に迷惑かけて。……まぁ、そんなのがキッカケで、相手にめいわくをかけるなら、めいわくにならない道を選ぼうと思ったの」
「……っ!!」
そのとき――眉が下がり、苦し紛れに笑みを浮かべる彼女を見た。
……あぁ。違う、オレと彼女は似ても似つかない存在じゃない。ただ、過ごした境遇が違うだけなんだ。それにさっきの言葉……まるで『1人が嫌いだ』と言ってるようにしか聞こえなかった。
単に言葉の綾が起こっていただけ。
本質的にはどこにも違いなどありはしない。
――単に我慢すればいいだけ
――迷惑だけはかけたくない
似ているようで、どこか似ていない。
……だけど、考え方はまるで同じなんだ。誰かに迷惑をかけるぐらいなら、1人だと自覚させられる夜が嫌い、単に自分が我慢をすればいいだけ。――本質は、何も変わらなかった。
「教室で声かけられても、無視すれば大抵は無視出来るし、間接的に1人になれると思ってた。でも、藤崎はそうじゃなかった。私が無視してるのに、全然態度変えないし。むしろこうやって、ただのお隣さんってだけなのに家に泊めてくれるし。……そういう意味では、藤崎は意外だったかもしれない。初めてだった、無視しきれない人に会ったの」
「……それ、褒められてんのか微妙なラインなんだけど」
「ちゃんとほめてる。それで、他に訊きたいことは? 出来ることなら答えるけど」
「別に質問攻めにしようとしてるわけじゃないんだがな」
「そう、だったけ?」
「真顔で真面目なこと言ってくんなよ。反応に困る」
「……ごめん」
しょぼん、とまたもや垂れ耳が飛び出している。(※幻覚です)
今までまともに友達作ったことないって言ってたし、どういう反応を取るのが正解なのかわからないってとこか。それと……他に訊きたいこと、ね。
「……じゃあ。これは質問ってわけじゃないけど、良かったら今後もこうして一緒に過ごしたりとか出来ないか?」
「……えっ? でもそれ、めいわくになるんじゃ」
「迷惑になるような奴なんて、オレの家にはいねぇよ。それにさ、オレも同じなんだよな。忙しそうに夜まで働いて朝になったら帰って来て、すれ違うようにして昼間に出掛けて行って。他の家庭と違うことぐらい、すぐにわかった。でもそれでも、2人が働く意味を知ってたから何の言葉も出せなくて、押し殺してた。静寂で、無機質なこの部屋に訪れる夜が嫌いでも……オレ1人が我慢すれば、2人に迷惑かからないって」
「(……私と、同じ?)」
「でもそんな言葉並べても、結局本質は隠せなくて、人との繋がりを感じていたい。一緒になって遊びたい、放課後にどっか寄り道したい。そんな、当たり前にあこがれてた」
「…………私、も。結局は、誰かと一緒にいたいと思ってる。どんなにへりくつならべたって、目ではいつも、誰かといるみんなに憧れてた。あそこに入ってもいいのかな、とか。めいわくにならないかな、とか。いつもいつも……誤魔化してた」
「やっぱ、オレ達どっか似てるな」
「……偶然?」
「どうだろうな。そんなん、神様しか知らないだろ。出会いって、運命の繋がりらしいしさ」
「……やっぱチャラい?」
「ほっとけ!!」
真面目に語るのがバカらしくなってくる。どうでもよくなってくる。
隣にいるだけなのに、感情だけでは整理がつかないほどの幸福感が芽生えてくる。
……何でだろうな。
オレの中にないものが、自然と埋まっていく感覚がする。……きっと、似ているからなんだろう。根拠なんてない、全部飛躍しすぎた妄想かもしれない。けど、それでもいい。同じ境遇者だから――などではなく、もっと単純なこと。オレ達はそっくりなんだ。
――誰かと一緒にいたい
朝の時間も、休み時間も、昼休みも、放課後も、そして寝るときでさえも――。
ずっと一緒に、側に居てくれる人間が欲しいんだ。
それはきっと――お互いにわかっている。
足りないものは同じ。ならば、一緒に埋めていけばいい。孤独だった時間を、嫌いな時間さえも、一緒に……2人で乗り越えていけばいい。
「……本当、変わってるね」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん。……何だか、藤崎といるとあきないかもなぁーと思って。遊びに来てもいい?」
「……っ、当たり前だろ!!」
――そうして、オレ達の『幼馴染』としての生活が始まった。
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