第4話「幼馴染たちは、食堂でお昼を食べるらしい①」
時刻はあっという間に午後へと変わり、午前中最後の授業終了を知らせるチャイムが鳴る。
日直の号令に合わせて礼をし、そのコンマ数秒後には、クラス内は一気に賑わいをみせ始めた。授業中の静寂な空気とは正反対だな。
教室だけに留まらず、続々と廊下にも溜まり場が出来ていき、クラスメイトも何名かはその溜まり場へと自ら足を運んで行った。……よくあんな場所に足運べるよな。ちなみに僕はどうしてか、昔からああいうのが苦手だったりする。過去に何かがあったわけじゃなく、本能的なものらしいが。
と、呑気に
「痛っ……。何だよ」
「何だよじゃない。ほら、お昼食べようよ!」
「……あ、あぁ」
そっか、もうお昼だったな。
午後に変わってるんだから当たり前だろ、と思うだろうが、実際少しばかり意識が別方向に飛んでいってしまっていた。この歳で天然ボケとか嫌なんですけど……。
軽くため息を吐くと、僕は鞄から財布を取り出し、向かいたくないという衝動を何とか抑えつつ席を立ち上がる。
「あれ? 凪宮君、どうしたの?」
すると、僕の行動に疑問を持ったのか、佐倉さんが訊ねてきた。
「ん。あぁ、お昼を買いに。今日持ってくるの忘れちゃって」
「えっ!? マジで!?」
「凪宮君ってお弁当派だったよね。ってか、凪宮君が忘れ物してる現実とか、何気に初めて見た気がする! ちゃんと人間してたんだね……っ!!」
すっごい失礼なこと言われたんですけど。まぁ透じゃないだけまだいいか。もしあいつだったらタダじゃ済ましてない。
「……実は、朝に色々ごたつきがあって」
「色々、って?」
「寝坊したのよ。朝大変だったんだから。インターホン鳴らしても全然出てくれないと思ったら鍵は開いてるし本人は部屋で爆睡してたしで……!」
「……優衣が起こしに来ないのが悪い」
「中学生、それも受験生の
「弱いんじゃない。深夜って時間帯があるのが悪いんだ」
「意味不明な理屈作らないの!」
特別朝が弱いわけではない。起きるのが苦手なだけだ。
朝は大抵、実の妹である『凪宮優衣』が起こしに来るのだが、今日に限っては誰にも起こされなかった。というのも、優衣は学校での委員の仕事があるとか何とかで。
お陰様で「後5分……後5分……」と、絶対に起きない台詞の代名詞を永遠とボヤき続けていたらしい。布団の中の癒しから強制開放させたのは、言うまでもなく渚だった。遅刻はせずに済んだが、その影響で下
そのため、滅多に利用することのない食堂へと向かう必要が出来た、というわけだ。
あんな学生の現代戦争場みたいな戦場に足を踏み入れたくないというのが本音だ。
寧ろあそこに堂々と突き進める勇気を持つ勇者を、僕は『英雄』だと思いたい。そして英雄は全ての力を使い果たして散っていく……。くっ、集団の群れが起こす波とは、こうも恐ろしいものなのか……!
「……気が進まない」
「起きなかった自分を恨みなさい。もしくは、下拵えをしておかなかった過去の自分にね」
「それ、どちらにせよ標的自分自身じゃねぇか……」
後悔したところで時既に遅し。
元より昨日の夜、行動に移さなかった時点で僕のこの結末は変わることはなかっただろう。
受け入れるしか。その道しか、僕には用意されていなかったのだ。……んな光、欲しくもないけど。
「……はぁ、仕方ないか」
「お、骨折れるんだな」
「折れるしかないだろ。じゃなきゃ、僕はお昼過ぎたら早退する」
「普通に「お腹減る」って言えよ」
その後、話し合いをする暇もなく、僕の昼事情に合わせるためか3人揃って食堂に同行する形となった。理由は簡単――待つより来る方が早いから、だそうだ。
まぁ1人のおばちゃん相手に無数の生徒が押し寄せる絵面を想像すれば、考えなくとも時間がかかることは明白。だったら待つ方が時間かかると。……何か申し訳なさを感じたんだが。
「どれにするかな……」
食堂の引き換え券レジ前にて、僕は看板に掲載された本日のメニューと睨めっこ状態だ。
この進学校の昼メニューは、実に豊富な数用意されている。定番中の定番、誰もが好きだと呼称するカレーやうどん、蕎麦、それから日替わり定食からミニメニューとしてフライドポテトなども用意されている。ちなみに、フライドポテトやチュロスなどの一部メニューは、お昼以前から以降まで購入可能。そのため、教室が偶にその匂いで充満することもあるほどだ。持って帰らないでその場で食べて来い。
「なーんだ、まだ悩んでんのか? 見かけによらずグルメなんだな!」
「引っ付くな、離れろ」
すると、背後から透が勢いよく体重を乗せてきた。……重っ。
「コミュニケーションだろ! 友好関係を更に深めようではないか、親友よ!」
「んなことばっか言ってるから佐倉さんに引かれるんだろ……!」
「はっ、違うな。寧ろオレは繊細なんだぜ? 相手が許容範囲としてるゲージを守り、それに該当したスキンシップしかしない。つまりだ――許してるお前にも原因はあるってこった!」
「勝手に巻き込むな……!」
「その甲斐もあってか、オレ中学の頃結構モテてただろ?」
「知るかそんなもん。僕が一々他人のことに興味を示すとでも思ってんのか?」
「知ってるさ。安心しろ、お前にまともな解答は期待してない。してくれると思った瞬間に負けるようなもんだからな!」
「あっそ。わかってるなら何よりだ」
「ところで、まだ決まんないのか?」
「お前のせいで中断させられてんだよこっちは……!」
看板から自販機へと視線を移す。
今のところ売り切れと表記されているメニューはない。となると、手軽なものの方がいいか? そっちの方が食費浮くし。量もあって安いメニューと言えば、やはり日替わり定食か。本日は鮭のムニエル。お値段は変わらずの350円。……これだから日頃自炊してたってのに。
日頃から弁当持参なのも、滅多に食堂を使用しないのも。
――一度味を噛み締めたら自炊生活に戻れない気がするから。というわけではなく、単に今月の小遣いと比較した際、どうしても買えるラノベの数が激減するから。それだけだ。
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