第34話「幼馴染たちは、作戦会議を始めるらしい③」
それから予定を躓きつつも決めていき、とりあえずの予定は立て終わった。
続行で司会を務めてくれた藤崎君を中心に、1日目・2日目と予定を決め、全ての欄を埋め終える頃には授業の終了を告げるチャイムが教室に響き渡った。
「よし、後は必要な物資を買うだけか。これ、後でとかも面倒だし今日行くか?」
「いいね! ついでに晩ご飯の材料買ってもいい?」
「別にいいけど、今日は何だ?」
「ふっふーん! 今日は肉じゃがだよ!」
「おっ! オレの大好物――」
「つーか2人、ちゃっかりと相手の家で晩ご飯食べてんのな」
「「…………あっ――」」
快く聞き、見届けるっていう選択肢が無いのかな晴斗には。困った子だこと……。
でもそれを言うのであれば、ちゃっかりと晴斗の家にいつも上がってる私にも突き刺さってくる言葉なんですけども?
……まぁ、幼少期の頃からの日常だし、今更躊躇するのも変な話ってなるけれど。
「……別にいいだろ! お前と一之瀬にも当てはまるんだからさ!」
「そんなでもないぞ。単に幼馴染ってだけだしな」
晴斗の口から飛び出したのは、真実と異なる内容だった。
……あれっ? どうして晴斗、本当のこと隠したんだろう。
私が晴斗の家にいつも上がっていること。それから、一緒にご飯を作って食べてることも。
晴斗は戸惑いも、焦った様子も顔に浮かべていない。
そんな態度と飛び出した台詞に動揺していると、私は瞬時に『教室』が視界に映った。
あ、そうだ。私達、今はまだここでは――。
恋人ではなく幼馴染。毎日上がっているのにそんなことはないと言い切ったこと。その全てが、クラス内での認識を守るための言動だと悟った。
自身の意識に呑まれかけていた瞬間から、私の視界には班以外が映っていなかった。
だから晴斗は嘘を吐いたんだ。私を……また、守ってくれたんだ。
……なのに、私は。自分のことばっかりで、晴斗に守られてばっかりで――。
あの日から、何も成長していない。
結局はまだ臆病者で……私は何1つ、晴斗を守れていない。
小さかった、知識も身に着いていなかったひ弱な頃と……何1つ。
「そうなのか? ま、んなのを聞いてもしょうがねぇか。どっちも、幼馴染なんだし」
「……まぁ、そうかもな」
ちなみに言うと、晴斗と私がクラス内ではただの『幼馴染』であるように、藤崎君と佐倉さんもまた『幼馴染』としてクラス内では認識されている。
隠している理由までは、さすがに知らないけれど。
「……まあその辺のことは一旦保留にするとして。話を戻すが、今日の放課後に予定入ってるか?」
「私は入ってないから大丈夫」
「よし、これで3対1の構図が出来上がったわけだが?」
すると藤崎君は口角を歪めながら、まるで人を見くびるような瞳で晴斗を見下ろす。
「……ムカつくんだが。とりあえず後で覚えとけ」
「何とでも言え! それと、オレが言いたいのはそこじゃねぇ。4人中3人が放課後のくっそ忙しい予定を空けてくれた。即ち……わかるな?」
「……僕も行くのか?」
「当たり前だ! 寧ろそれでよくサボろうと思ったな」
「今日は帰って読みたいラノベがあるんだ。しかもそれは、今年発売されたラノベの中でも上位を争う作品だ。そんな期待作品を読まずに、明日が迎えられるとでも?」
「それってアレだろ。確か……――って違う‼ 気になるのはわかるが、ちゃんと行事ごとぐらいは関われアホ。それに1番楽な係にしてやったんだから、少しは働け!」
そう言うと、藤崎君は先生に提出予定の用紙を晴斗に見せる。
班メンバーの名前と役職、それから先程話し合った自由行動の際にやることを書く欄がある。今彼が言ったのは役職――つまり、班の中での『係』のこと。
班長・副班長・保健係・記録係。それと何かプラスしたい係と班ごとに決めていく。
そして可決したのが、藤崎君が班長、私が副班長、佐倉さんが保健係、晴斗が記録係という意見と尊重だった。……とはいえ、保健係と記録係には大した役割がない。
その日の夜に行われる『係別会議』に出席すること。主にそれだけ。
まぁ、班員全員の日記を先生に提出しに行く、という役割が記録係にはあるわけだけど、強いてあげるならそれだけ。
――だから、大変なことなんて何1つ無いはずなんだけども。
「あのな、透。僕に記録任せるとか、世界が滅亡するぞ」
「壮大なスケールの話にするなっ!!」
……どこかで聞いた言葉。既視感がある、と私は心の中で呟いた。
「空白欄あるだろ? 自由な役職を決めれるってやつ。――だからそこに『自由係』ってやつを作ってくれないか?」
「ふざけんな、アホ晴」
これを真面目に言っているのだから、やはり晴斗は別格で肝が据わっていると思う。
けど、逆にこうとも言える。
相手が藤崎君だから、晴斗は私以上に気軽な気持ちで接せられるのだと。
先程も言ったように私や優衣ちゃんの前では、あんな風なボケを挟むことも、藤崎君相手のような口調になることもない。
だからかな。……何だか悔しい気持ちになる。
私以上に彼が心を開く人間がいなかったせいなのかな。どうしても敗北感が勝ってしまう。きっとこれは――独占欲だ。
以前に晴斗が私に抱いたような、恋人だから感じる不安と嫉妬。そして、自身への
……それがわかっている分、余計に悔しい。
「……渚?」
「……えっ? う、うん。大丈夫」
「……そうか? ならいいけど」
晴斗はそう言って私から視線を逸らした。
何だろう。言いたいことでもあったのかな?
前もそうだったけど、晴斗は私よりも感情を隠すのが得意だから上手いこと誤魔化されるんだけど……。でも以前だったら返答は『無口』一択だったし、晴斗が『何でもない』なら気にすることもないのかな。
……それに今は、晴斗のことばかりに観点は向けられないし。
私はさっきまで考えていた少し嫉妬してしまった感情を押し殺して、その後も宿泊研修に向けてのことを、全員で話し合ったのだった。
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