アルビオン、敵の血を流させなければ失地回復は望めない

そうして千堂らが動いている間にも、アルビオン社でももちろん、AIが指摘したクラッキングの可能性についての検証が、不眠不休で行われていた。


人間の担当者達が、休日も返上、無期限の時間外労働を強いられている状態である。正直なところ火星で施行されている法に鑑みれば<コンプライアンス違反>ではあるものの、アルビオン社の名誉と利益を守るためにはそのようなことは些末な話と思われていた。


しかしだからこそ、


「くそっ! これだ!」


担当者の一人が声を上げる。アルビオン社のメインフレームを成すAIが見付けたそれと同じ痕跡の一部に辿り着き、悔し気に机を叩いた。それと同じ痕跡を、


「こちらでも確認した!」


別の担当者が別のルートから発見する。


「直ちに報告を!」


監督者が指示を与え、すぐさま報告書としてまとめられる。その三分後にはCEOであるジョージ・アルバート・ウィリアム・フレデリックの下に届けられた。彼も今夜は執務室に泊まり込みになる覚悟をしていた。


部下に対しても厳しいが、同時に、己自身にも厳しいのが彼だった。


「おのれ……! 何奴だ! 我社に対するこの不埒な振る舞い、必ず報いを受けさせてやるぞ!」


怒りのあまり手にしたステッキで床をガンガンと突きつつそう口にする。


そうだ。誉れ高き<アルビオン>に穢れた刃を向けるような輩には断固とした対処をせねばならない。名誉を傷付けられたのだ。グレートブリテン王国から続く王家の血脈にかけて必ず報復し、敵の血を流させなければ失地回復は望めない。


もちろん、現在の火星においては、<暴力による報復>は固く禁じられている。それについて例外を認めてきたがゆえに三度もの大戦を許してきてしまったのだと今では分かっているからだ。確かにそれ自体がただの<建前><名目>でしかなく実際には暴力による報復が横行していることも事実ではあるものの、さすがにアルビオン社のような大きな企業が大っぴらにそのようなことをしては、<大問題>どころでは済まないだろう。ゆえにフレデリックの発言はいわば<言葉の綾>ではあるものの、彼の本心であることもまた事実ではある。


ゆえに彼は、都市としてのアルビオンが擁する対テロ部隊が対応できるように手続きを開始した。CEOの一存で動かすことはできないものの、今回の件を受けて招集した役員らに大至急承認を得るように手配したのだ。


これでもし、対テロ部隊が<犯人>のアジトを急襲しその際に容疑者が死亡しようとも構わないとさえ考えて。


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